鶴岡商工会議所(山形県)はこのほど、市内の飲食店3店舗と協力して、期間限定で郷土食「笹巻」を提供するテスト事業を実施した。山形県内では、ハレの日の行事食として笹巻を食する風習があるが、中でも鶴岡市の笹巻はその黄色い見た目や製法から珍しい郷土食として知られている。同市が2014年に国内で初めて「ユネスコ食文化創造都市」に認定されてから10年目となる今年、同所では、より多くの人が郷土食を身近に味わうことができるよう、テスト事業を行っており、同事業はその第1弾となる。
笹巻は粽(ちまき)の一種であり、白色のものと鶴岡市内で食される黄色のものがある。黄色い笹巻は水に木炭を加えて煮た上澄み液である「灰汁(あく)」にもち米を浸してから、2枚のチマキザサの葉で包み、イグサなどの結びひもで崩れないように縛って煮てつくられる。強アルカリ性の灰汁の働きにより、もち米が黄色くゼリー状になり、保存期間が長くなって、独特の風味とプルプルもちもちの食感が生み出される。笹の葉で巻くことでさらに保存期間が長くなるほか、笹特有の爽やかな香りを楽しむことができる。黒蜜と青きな粉(山形県内で食される青大豆のみを使用した明るい黄緑色のきな粉)をかけて食べるのが一般的だ。
笹巻は端午の節句をはじめとして季節の節目に行事食として食されることが多く、女性たちが家庭で手づくりするのが一般的だった。近年はつくるのに手間がかかることから、食卓に上る機会が減り、つくり手の高齢化に伴いその伝統が薄れてきている。笹巻を提供している飲食店は少なく、多くの市民や観光客から「郷土料理を食べられる店が分からない」との声が上がっており、今回の企画に至った。
協力した飲食店3店舗のうち、2店舗は笹巻を今回、初めて提供。各店舗はSNSで宣伝したり、親子を対象とした笹巻をつくる企画を実施したりして笹巻の普及に努めた。店舗は提供数や注文した人が観光客かどうかなどを把握し、同所にフィードバックする。同所はそのデータを基に、来年以降の観光戦略に反映していく方針だ。
「庄内の笹巻製造技術」は3月21日、国の「登録無形民俗文化財」に登録された。無形民俗文化財とは、祭りや年中行事などの風俗慣習や、神楽・田楽などの民俗芸能、人々の生業(なりわい)にかかわる民族技術などで、世代を超えて繰り返し伝わってきた無形の伝承のこと。またその前年の23年3月には、鶴岡市の笹巻が文化庁の「100年フード」にも認定されている。これは地域で世代を超えて受け継がれてきた食文化を認定し、継承していくことを目指した制度。笹巻の歴史は230年以上前にさかのぼるといわれている。
同所担当者は「鶴岡の食文化や郷土食をユネスコ食文化創造都市ならではの観光コンテンツとして、地域活性化に向けた取り組みを展開していきたい」とコメントしている。
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