1915年の創業以来、黒専門の染屋として紋付(もんつき)を染め続けてきた京都紋付。その技術を生かし、世に出回った衣類を黒染め加工でアップサイクルし、廃棄衣類を削減する新事業を展開している。海外有名ブランドをはじめ、百貨店や大手アパレル、リサイクルショップ、さらに消費者からも広く注目を集め、“黒”への染め替え需要を掘り起こしている。
紋付の黒染めから衣類の染め替えへシフト
鈍(にび)、漆黒、射干玉(ぬばたま)、玄、墨色……。日本では黒を表す言葉が数多くある。古くから日本人と黒との関わりは非常に深く、伝統芸能や冠婚葬祭など重要なシーンで黒は用いられてきた。そんな黒に衣類を染め替え、アップサイクルするサービスが注目されている。扱っているのは、黒紋付の染色で100年以上の歴史を持つ京都紋付だ。 「当社の強みは黒を極める技術です。染色の難しいシルクの黒紋付に特化して磨いてきた技を、今の世の中にどう生かせるかと考えたのが始まりでした」と同社四代目で社長の荒川徹さんは説明する。
荒川さん曰(いわ)く、究極の黒とは何も見えないブラックホールのような黒だという。それを染料だけで出すには限界がある。そこで同社は布地に薬品を付着させ、光を吸収させて、より黒く見せる方法を見いだす。それを「深黒(しんくろ)加工」と名付け、衣類の黒染めに活用することにした。
その背景には紋付市場の縮小がある。ピーク時には年間300万反あった市場が、今や1500反まで減少。100社あった同業者も現在ではわずか3社だ。 「今では一般の人が紋付を着るシーンはほとんどなく、歌舞伎や相撲、芸妓などの分野に限られてきています。だからといってやめてしまったら、伝統産業の継承というミッションを掲げる当社の存在意義はなくなってしまう。そこで、アパレル製品を黒染め加工でアップサイクルする事業を新たな柱にすることにしたんです」
“入り口”を増やして広く需要を掘り起こす
その走りとなったのが2013年に始めた「PANDA BLACKプロジェクト」だ。これは、環境保全団体のWWFジャパンやリサイクルショップなどとコラボして行ったもので、世に出回った衣類を黒染めによって再生し、廃棄衣類の削減を目指す取り組みだ。アップサイクルされた衣類を「東京デザイナーズウィーク」(デザインやアートが集まるクリエーティブイベント)の中でお披露目したところ、予想以上の反響を呼んだ。 「当社では天然繊維のみ黒く染まる染料を使っているので、化学繊維やプリント部分は染まりません。するとステッチやロゴマークだけ白く残ったり、独特のムラができたりと、染める前とは全く別物に生まれ変わります。1着で2度楽しめるところが魅力です」
これにより衣類の在庫を抱える企業からアップサイクルの依頼が舞い込んだ。同時に黒染め技術を高く評価したブランドからのオファーで、初めから黒染めすることを前提とした企画商品を手掛けるようになる。また、手持ちの衣類を黒く染め替えたいという消費者のニーズがあることも分かった。同社はこれを受けて自社HPに受注フォームをつくり、黒染め加工事業を本格化した。 「その後、徐々に当社の取り組みへの認知が広がり、世の中に衣類を染め替えるという文化が浸透してきました。受注量も増えてきたので、19年に受注システムを大幅に見直しました」
それまで衣類の重量で決めていた価格設定を、衣類の種類別に変え、受注フォームを分かりやすくリニューアルした。さらに代理店となってくれるパートナー企業を募った。パートナー企業のHPにつくった同社のLP(ランディングページ)から同社の受注フォームに飛ぶ仕組みをつくり、注文が確定したら、その染め替え代金から一定の報酬がパートナー企業に支払われる。受注システム自体は同社が無償で提供するので、パートナー企業はコスト負担ゼロで収入が得られる。パートナー企業には、大手百貨店やアパレルブランド、量販店や通販会社、商社、広告代理店など約200社が名を連ねている。 「この事業はより多くの消費者に当社のLPが目に留まるよう、いかに“入り口”をつくるかが重要です。パートナーの販促物やチラシにはパートナーの二次元コードを入れてもらい、各社のHPを通じて当社のLP、注文フォームへのアクセスにつなぐ工夫をしています」 このシステムを構築したことにより受注数は飛躍的に増え、19年から20年にかけての売り上げは前年の3倍、その後も毎年25%ずつアップし、順調に推移している。
国内外で広く事業展開しても染めるのは“京都”にこだわる
同社は、黒染め加工による衣類のアップサイクルを日本の常識にしようと、ポップアップイベントや展示会にも積極的に取り組んでいる。中でも好評を博したのは、22年に開催した二条城でのイベントだ。あらかじめ出席者から衣服を送ってもらい、黒染めして二条城内に展示する。その様子はユーチューブにもアップし、国内外から注目を集めた。 「今後は日本だけでなく、世界にもこのサービスを広げていく予定です。今年中にニューヨークの企業と代理店契約を結ぶことになっているほか、中国の企業からも引き合いが来ており、今、英語版のHPを準備しているところです。ただ、入り口が世界に広がっても染めるのは京都。この地で染めることにこだわって、京都の黒染めという文化を守っていきたい」と語る荒川さんに、伝統を背負う老舗のプライドが垣間見えた。
会社データ
社 名 : 株式会社京都紋付(きょうともんつき)
所在地 : 京都府京都市中京区壬生松原町51-1
電 話 : 075-315-2961
HP :http://www.kmontsuki.co.jp
代表者 : 荒川徹 代表取締役社長
設 立 : 1969年
従業員 : 8人
【京都商工会議所】
※月刊石垣2024年6月号に掲載された記事です。
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