いよいよ7月26日からフランス・パリで、オリンピックとその後に続くパラリンピックが開催される。各競技で日本代表選手の活躍が期待される一方、自社の高い技術を転用し、磨きをかけて世界で戦うアスリートを支えている企業がある。世界に発信する小さな地域企業の技術力を追った。
メードイン燕三条のアーチェリー製品で日本のオリンピック選手たちを支える
金属加工を中心とした“ものづくりのまち”新潟県・燕三条で、ダイナスティーアーチェリーは地の利を生かし、アーチェリー用部品の製造・販売を行っている。日本人選手に合った製品づくりが国内トップ選手から高い評価を受け、創業2年目にして東京パラ五輪で2人の選手に選ばれた。そして5年目となる今年は、オリンピック・パラリンピックそろってパリの大舞台で日本人選手に同社の製品を提供することになっている。
燕三条の技術を生かしてアーチェリー界を支えたい
ダイナスティーアーチェリーを運営しているのは、燕市にあるカトーモーターである。1956年にオートバイの修理店として創業した同社はその後、キャンピングカーの製作・販売を始めた。内装は天然木を使用した手づくりで、細かい要望に応えられるのが特徴となっている。
アーチェリー事業を始めたのは、現在は三代目で社長を務める加藤健資さんが入社してから。加藤さんは、小学校時代にアーチェリーを始めると、全国大会やオリンピックを目指すようになった。大学時代には新潟県代表として国体にも出場した実力の持ち主である。
加藤さんは家業の一方で中古のアーチェリー用品のショップを立ち上げると、その宣伝とアーチェリー普及を目的としたYouTubeチャンネル『UNITUBE』を始めた。そして2020年2月に、製品の企画から開発までを自社で行うアーチェリーメーカーとなるべく、アーチェリー事業部を設立し、ダイナスティーアーチェリーをオープンした。 「燕三条の技術をアーチェリー用品という形に変換させ、アーチェリー界を支えたいという加藤の思いからアーチェリー事業部は立ち上がりました。日本人の選手に合わせた製品を製造しています。またメーカー兼ショップとして、輸入品や国内他社メーカーの製品も販売しています」と、三条市内にあるショップの店長であり、アーチェリー事業を統括している不破俊典さんは言う。
現在、アーチェリー事業部は加藤社長を含めた6人のうち、事務担当者以外の5人がアーチェリー競技の経験者で、その経験を生かした用品づくりを行っている。
メダルを狙うためには国内メーカーが製品開発を
オリンピックなどの大会で行われるアーチェリー競技は、70m離れたところから直径122㎝の的を目掛けて矢を放つ。当たれば10点満点となる的の中央は直径12・2㎝で、CDとほぼ同じ大きさ。70m離れたところからだと、手元が1、2㎜ずれただけで、矢が的に当たるときには数十㎝ものズレとなる。そのため競技で使う用品には高い精度が求められるだけでなく、各選手の好みや打ち方のスタイルに合った細かい調整が必要となる。 「最初につくったのは弓を手で握るグリップの部分で、カトーモーターの木工加工技術を生かし、木製の素材を使いました。ただ、それだけでは勝負していけません。アーチェリー用品は、アルミやステンレス、カーボン素材が多く、創業当初は用品のコンセプトやアイデアを地元の工場に持って行き、工場の方に素材や製造方法も含めていろいろ教えていただきながら形にしていきました。燕三条には優れた技術を持つ工場が数多くあり、すぐに相談に行けるので、非常に助かっています」
現在はグリップのほかに、構えた弓を安定させる棒状のスタビライザー、それを連結させるVバー、弓の強さに合う重さを調整するウェイトを製造している。かつては日本にもアーチェリー用品を製造する大手メーカーが数社存在したが、20年以上前に撤退し、今では小規模のメーカーが3、4社残るのみ。米国製や韓国製といった外国製がメインとなっている。 「米国も韓国もオリンピックで毎回メダル争いをしています。日本もメダルを狙うためには、国内のメーカーが選手の細かな要望を聞きながら用品を開発、製造しないといけないと思っています」
アーチェリー事業部だけでも経営が成り立つようにする
現在、同社製品は、加藤さんの選手時代のつながりでトップ選手と契約して使ってもらえるようになった。そして21年の東京パラリンピックに、重定知佳選手と上山友裕選手の2人の契約選手が出場。重定選手は団体で5位、個人で7位、上山選手は団体で5位にそれぞれ入賞する好成績を残した。 「お二人には、当社のスタビライザーとウェイトを使っていただきました。これにより当社の製品に対する品質評価が上がったと思います。パリ・オリンピックには契約選手の中西絢哉選手と、道具を提供している古川高晴選手と野田紗月選手が出場し、パラリンピックには重定選手と上山選手が再度出場します。そこで選手の皆さんが活躍して、当社の製品も注目されたらと期待しています」
また、ダイナスティーアーチェリーは、アーチェリーの普及にも力を入れている。創業して間もない20年9月には、コロナ禍でさまざまなアーチェリーの大会が中止となった学生選手たちのために、長野県で代替大会として「サマーシュート」を開催している。 「22年7月には新潟県で第2回を開催し、屋外での競技のほか、屋内で光の演出と実況による見て楽しい競技も行いました。コロナ禍は収束しましたが、アーチェリー界をもっと盛り上げたいという思いに変わりはなく、サマーシュートは今後も続けていきたい。またショップとしては、将来的にはカトーモーターに頼らず、アーチェリー事業部だけでも経営が成り立つようにしたいと考えています」
ダイナスティーアーチェリーは日本のアーチェリー界を盛り上げ、メードイン燕三条のアーチェリー製品で金メダルを目指す。
会社データ
社 名 : 有限会社カトーモーター アーチェリー事業部
所在地 : 新潟県三条市林町1-18-17 ヴィラ林203
電 話 : 0256-46-0533
HP : https://official-dynasty.com
代表者 : 加藤健資 代表取締役
従業員 : 5人(アーチェリー事業部)
【三条商工会議所】
※月刊石垣2024年7月号に掲載された記事です。
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