唐突とも思える岸田総理の辞任。多くの政策が未完のままだ。その一つが「新しい資本主義」で掲げた「官民連携」の取り組みである。現行の資金提供の手法は補助金、出資金、そして債務保証といった旧来型のものにとどまっている。これを「新しい資本主義」の名に相応しいものにするには、検証可能で透明性の高い制度設計が必要だ▼
もちろん地政学的リスクによる半導体の生産体制の見直しや、CO2削減の加速化が求められる中、政府がDX投資やGX投資を支援することは妥当な選択だ。日本の競争力を回復させるという目的もあるが、米国やEU諸国が産業政策にかじを切った以上、日本も先進国としての役割を果たさなければならない▼
しかし、現状では「官民連携」というフレーズの下、責任の所在や資金の流れ、収益の分配の透明性が欠如するリスクがある。まず、公的資金の成果は一般に公開されるべきだ。また、補助金や政府の債務保証が民間企業のリスク管理を甘くしていないかも慎重に検討すべきだ。公的資金が投入されるからには、事後的なチェックは不可欠だ▼
戦後、日本の産業政策は欧米から成長モデルとして評価された一方で、競争力のない企業を温存した側面もあった。この過ちを繰り返さないためにも、日本は他の先進国に先んじて、より透明性の高い制度を考案すべきだ。もともと資本主義は資本と経営を分離し、会計処理を透明にすることで発展してきた制度である。「新しい資本主義」を目指すからには、この基本的な流れに逆行することがあってはならない。次期指導者は、岸田政権が残した曖昧な部分を、国民の信頼を得る形で制度設計をし直し、完結させる責任を負っている
(NIRA総合研究開発機構理事・神田玲子)
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