地震や水害といった自然災害時には、地域と連携し迅速に支援に動き、さらに雇用確保や困り事解決など地域が求めるサービスを含めたフットワークの良さから“頼りになる”と評判の地域企業がある。地域に根差す企業ならではの取り組みを追った。
地域貢献、入居企業連携など広範な活動で物流施設の常識を覆す
日本GLPは、世界17カ国で物流施設を開発・運営するGLPの日本法人だ。同社のフラッグシップ拠点の一つ「ALFALINK(アルファリンク)流山」は、今までにない物流を追求すると同時に、地域に開かれ、親しまれる存在を目指して、入居企業、就業者、地域の人々、自治体などと積極的に連携し、さまざまな取り組みを推進している。
3Kのイメージを払拭 快適で充実した物流施設
関東広域配送の物流拠点として好適な千葉県流山市に、日本GLPが開発・運営する大規模多機能型物流施設「アルファリンク流山」が誕生したのは2018年のことだ。アルファリンクは同社のフラッグシップ物件で、8棟の物流施設が連なり、総延床面積約90万㎡と日本最大級の規模を誇る。
物流施設というと巨大で無機質な箱を思い浮かべるが、同施設はかなりイメージが違う。例えば、8棟のうち1棟はエントランスが全面ガラス張りで、そこを抜けると社員食堂を兼ねた大きなカフェテリアがある。施設で働く人だけでなく誰でも自由に飲食が楽しめる。ほかにも、ワーキングスペース、イベントスペース、シェアキッチン、コンビニ、シャワールーム、託児所などが設置されており、一瞬「ここはどこ……?」と思うほどおしゃれで快適な空間が広がっている。 「物流事業者の方に施設を借りてもらう際、いかに賃料を安くするか、そのためにどこを削るかという方向に行きがちですが、それを突き詰めると先細りになってしまいます。当社は逆に施設を充実させて、事業者に『ここでやりたい』と感じてもらおう、そうすれば雇用も安定し、事業も安定的に回ると考えました」と同社プロパティマネジメント部シニアマネージャーの内藤啓吾さんは同施設開発の方向性を説明する。
従来の物流施設といえば「きつい・汚い・暗い」といった3Kのイメージから、どちらかというと不人気な職場で、人も集まりにくく定着もしづらいという課題があり、その解決は不可欠なテーマといえる。職場環境が快適だと生産性も上がるとの考えから、業界に先駆けて施設の快適性向上を図ってきた。 「当社は物流不動産のパイオニアとして、ほかにも汎用性、環境対応、BCP性能の向上を追求してきました。当初は『ここまでやる必要はあるのか』と言われましたが、徐々に評価され、スタンダードになりつつあると感じています」
多彩な地域貢献活動で地域住民の認識が好転
同社は施設の充実だけでなく、地域との関係構築にも力を入れてきた。その一つが雇用だ。流山市は全国的にも人口増加率の高い自治体として知られ、特に子育て世代を中心に転入者が増えており、現在21万人を突破している。 「人口が増えて地域が永続的に発展していくには、雇用の創出も必要です。そういう意味で当施設は5000人の雇用を生み出していて、一定の役割を果たしているのではないかと思います。実際に、かつては都心に通勤していたけれど、コロナ禍を経てここに転職してきた地域の方がたくさんいます」
そう語る内藤さん自身、アルファリンク開発プロジェクトに携わる中で流山の暮らしやすさに触れ、家族で同地に移住してきた一人だ。巨大な物流施設が近くにあると、大型トラックの往来により渋滞や事故など交通安全上の懸念が増え、近隣住民から歓迎されないことも多い。そうした状況を変えていくには、地域との交流が欠かせない。 「東日本大震災のとき、仙台市内にある当社の倉庫に避難して津波の難を逃れたという出来事があり、それを機に物流施設は災害時に地域の役に立てると気付きました。昨今は、さまざまな災害が増えているので、19年に流山市と『災害時等における一時避難施設としての使用に関する協定』を結んで、本来は閉ざされた施設を地域に開いていくことにしたんです」
さらに、21年には同市と包括連携協定を締結し、防災・災害対策、産業振興、教育振興、地域交流、生涯学習の提供、スポーツ振興など幅広い分野において連携を取っている。特に、地域住民との交流には力を注いでおり、防災ワークショップ、交通安全教室、季節イベント、陶板作成プロジェクトなど多彩なイベントを開催している。 「特に盛況なのは毎年春に行っているスプリングフェスタです。入居企業をはじめ、商工会議所、警察署、消防署、大学など、さまざまな団体が出展して展示や販売を行うのですが、地域の人を中心に約2000人が来場します。その機会に物流施設のイメージが変わり、『ここにパートに来てみようかな』『将来こんなところで仕事がしたい』と思ってもらえたらうれしいですね」
実際、こうした取り組みにより、物流施設に対する地域の人たちの認識や状況は大きく好転しており、事業を続ける限り継続していきたいと言う。
ビジネスコミュニティとして入居企業同士の連携を促す
同社の地域貢献活動は業界でも認知が広がっており、特に同業者や行政から圧倒的に支持されている。これだけの巨大施設でありながら満床で稼働していることもそれを証明しており、入居企業の満足度も高い。施設が快適なのもそうだが、同社が入居企業同士の連携に取り組んでいることも大きい。
例を挙げると、「飛脚カンガルー便」がある。個人宅への配送を得意とする佐川急便と、法人向けの配送を得意とする西濃運輸がコラボし、それぞれの強みを生かしてつくった新たなサービスだ。どちらに荷物を預けても2社が差配して得意な方が運ぶ。これは同施設に入居した2社が、同社を介して互いにビジネス上で困っていることなどを共有したことによって生まれたものだ。 「私たちはアルファリンクを一つのビジネスコミュニティと捉えています。今までは自社内だけで完結させようとしていた業務を、入居企業同士が横の連携を取ることで問題を解決したり、新しいことができたり。企業の方からもこんなことができた、発想が変わったという声をたくさんいただいています」
近年では「2024年問題」の影響もあり、物流・運送業界を取り巻く環境は厳しさを増している。同施設の入居企業は、従来のようにせめぎ合っているだけでは業界全体の成長にはつながらないことに気付き始め、競争から共創へとシフトするところが出ている。同施設は、そのプラットフォーム的な役割も果たしている。
企業活動と地域貢献をサステナブルなものに
本業と並行して地域や入居企業とのコミュニケーションを深めてきた同社。物流という人々の生活と密接に関わり、社会にとっても重要なインフラであるにもかかわらず、ときには迷惑施設扱いされるという状況を変えていかなければ業界の未来はない、という強い危機感がその底流にあった。しかし今では、多くの自治体から「来てほしい」と言われるほど高い評価を得ている。今後は次世代にもっと物流を知ってもらい、親しみを感じてほしい、と内藤さんは考えている。その方策として、さらに教育やスポーツ分野における地域振興に力を入れ、子どもや若い世代と積極的に交流していきたい、と抱負を述べる。 「この取り組みをサステナブルなものにしていかなければなりません。どこまでやるかという議論はありますが、一緒に活動してくれるパートナーや仲間も増えていて、誰もが価値を実感しているので、そういう方たちの協力の下で、さまざまな取り組みが続くという形をつくっていきたい」と内藤さんは今後の方向性を明快に語った。
会社データ
社 名 : 日本GLP株式会社
所在地 : 東京都中央区八重洲2-2-1
電 話 : 03-6897-8008
代表者 : 帖佐義之 代表取締役社長
従業員 : 340人
【流山商工会議所】
※月刊石垣2024年9月号に掲載された記事です。
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