三河湾を望む蒲郡市で70年近く続く竹島水族館。かつて来館者が減り続けて廃館が検討されたが、改善の手立てとして飼育員の手書きによるユニークな解説プレートを掲示。さらに、ほかの水族館ではほとんど例のない深海生物をメインに展示するなど独自路線が話題となり、客足が回復。今や年間40万人が訪れる大人気スポットになっている。
来館者数の激減で閉館の危機を救った深海生物
昔からあるまちの小さな水族館が、行列ができるほどにぎわっている。約500種類、4500匹の生き物が展示されているが、その主役は何とオオグソクムシやタカアシガニなどの深海生物で、その数は120~130種類と全国ナンバーワンのレベルを誇る。その脇には「激珍」や「食べるとおいしい」などと書かれたユニークな手書きの解説プレートが掲示され、見ていて飽きない。 「開館当時から深海生物は飼育していましたが、メインではありませんでした。しかし、ここならではの独自性を出そうと、目を付けたのが深海生物だったんです」と、竹島水族館館長の小林龍二さんは振り返る。
生まれも育ちも蒲郡という小林さんは、漁師だった祖父の影響で子どもの頃から大の魚好きだった。水族館の飼育員になりたいと大学の水産学部で学んだが、就職活動では苦戦し、ようやく内定をもらったのが地元、市営の竹島水族館だった。ところが、当時は水族館の経営は芳しくなく、年間来館者数の採算ライン22万人を大きく下回っていた。そして就職3年目に来館者が12万人まで落ち込み、とうとう市が廃館を検討し始めた。 「好きな魚の世話ができて仕事は楽しかったんですが、館内にはほとんど人がいなくてガランとしていました。もともと趣味で水族館巡りをしていたので、来館者増につながるヒントはないかと全国の人気水族館に足を運びました。でも、小さく資金力もない当館にまねできそうなことは一つもありませんでした。それでも諦めたくなかった」
2015年、市が運営権を民間に委託すると決定したことを受け、小林さんは仲間とともに一般社団法人竹島社中を設立する。運営権を獲得して館長に就任し、水族館の再建に乗り出した。
飼育員考案の展示説明文が評判を呼び客足が増加
小林さんが最初に着目したのは、展示生物の説明が書かれた看板だ。 「見て回った水族館には立派な看板が掲示されていましたが、来館者はほとんど見ていないことに気付いたんです。どうしたら読んでもらえるかと来館者に聞いてみたら、魚の堅苦しい説明より、『食べたらおいしいの?』『おすしにしたら何人前くらいになる?』みたいなことが知りたいと言われ、目からうろこが落ちました」
そこで小林さんは現場の飼育員に裁量を与え、担当する生物の看板を自由に書かせることにした。誤字脱字はチェックするが、内容には口を出さない。いかに来館者の興味を引くかをおのおのに考えさせ、折に触れて更新させた。すると徐々に来館者が増え、滞在時間も長くなっていった。 「それまではほかの水族館と比べて、当館に足りないものばかりに気を取られていました。ここでしかできないことは何かと考え、来館者が求めていることに耳を傾けたことが突破口になりました」
同館の強みとして次に注目したのが深海生物だ。近くの漁師が世界最大のタカアシガニをはじめ、さまざまな深海生物を取ってきてくれる。それを安く譲ってもらい、展示数を増やしていった。水中につるした土管にひしめくウツボやエイリアンのようなサンゴなど、お客さんは「気持ち悪い」と言いながら食い入るように眺めている。さらに、低い水槽にタカアシガニを入れて触れる機会を設けたところ、お客さまは恐る恐る触ってはその様子を撮影し、SNSにアップした。それが拡散されて話題となり、来館者が12万人から20万人に増えた。 「一般的な水族館では、来館者と飼育員の接点はほとんどありませんが、うちでは気軽に質問に答えたり、魚の説明をしたりするなど、積極的に交流を図っています。そのアットホームな雰囲気も満足度を上げる要素の一つだと考えています」
こうした独自路線の取り組みにより、17年には来館者数47万人と過去最高をたたき出し、赤字経営からの脱却を果たした。
水族館に人を呼んでまちの活性化に貢献したい
コロナ禍に入った頃、小林さんは水族館のリニューアルを考え始める。年間平均40万人が訪れるようになったことで館内が常に混雑し、ゆっくり鑑賞できなくなっていたためだ。休日ともなるとチケット売り場に長い行列ができ、それを見て諦めて帰ってしまう人も少なくなかった。そこで手狭になった建屋を増築しようと、親会社から6億5000万円を借り入れして、23年秋、リニューアル工事に着手する。タカアシガニを展示する円筒形の大きな水槽を中心に据え、さらに多くの深海生物を堪能できるようにさまざまな工夫を凝らして、24年10月にグランドオープンを果たした。お客さまの反応は上々で、今では地方の水族館が〝独自性を出すヒント〟を求めて視察に訪れるという。 「最近、蒲郡市が『深海生物のまち』というキャッチフレーズを掲げてPRするようになりました。水族館というのは季節を問わず、老若男女誰もが楽しめる場所なので、ここを目当てに人が集まり、少しでもまちに活気をもたらす手助けができたら。そのためにも、さらに工夫を凝らしてお客さまに満足してもらえる水族館へと進化させたい」。小林さんは、魚と地元への深い思いを明かした。
会社データ
社 名 : 蒲郡市竹島水族館(がまごおりし たけしますいぞくかん)
所在地 : 愛知県蒲郡市竹島町1-6
電 話 : 0533-68-2059
HP :https://www.city.gamagori.lg.jp/site/takesui/
代表者 : 小林龍二 館長
設 立 : 1956年
従業員 : 13人
【蒲郡商工会議所】
※月刊石垣2025年1月号に掲載された記事です。