J(ジョー)マテ.カッパープロダクツは社内の課題に着手し、リソースを活用しながらDXを推進。工数削減に大きな成果を残して、経済産業省の「DXセレクション2024 優良事例」に選定された。さらに「地産地消のDX」を掲げ、地元のITベンダーやDXに積極的な企業、大学・高専、行政、地方銀行との産学官金連携に取り組んでいる。
コロナ禍と豪雪がデジタル化を後押し
Jマテ.ホールディングス傘下のJマテ.カッパープロダクツは、グループ会社と連携しながら、回収した非鉄金属資源から銅合金を鋳造・加工し、製品を国内大手給水機器メーカーや機械メーカーに納入している。水道部品の連続鋳造品では国内トップクラスのシェアを占める。
製造業を生産部門と管理部門に分けると、同社の場合は生産部門には2015年からTPS(トヨタ生産方式)を導入しており、生産性向上と人材育成が進んでいた。それに比べると管理部門の生産性向上は遅れており、改善の余地が残っていた。そんな中、20年3月、新潟県にもコロナ禍の影響が出始めた。当時常務として指揮を執った山本耕治社長は、こう振り返る。 「このままでは操業が難しくなると予想し、特に事務方はペーパーレス化を進めて、手書きの帳票をデジタル化したり、FAXをデジタルFAXに変えたり、受注はEDI(電子データ交換)を使うというように、在宅勤務ができる体制を整えてきました」
コロナ禍の余波が続く21年1月、今度は上越地方が記録的な豪雪に見舞われ、同社も3日間の操業停止に追い込まれた。 「しかし、前年からテレワークを進めていたことで生産管理、営業部門が連携して納期調整を行い、顧客への影響を最小限に抑えることができました」
22年4月、社長に就任するとDX推進姿勢を明確にした。コロナ禍時代の成果を踏まえたことはもちろんだが、2050年問題の課題の一つ、労働力不足のさらなる深刻化を見据えた施策でもあった。同社にはDXに取り組む専門部署がなかったため、山本社長がリーダーシップを発揮して、「生産管理、鋳造加工技術など各部署から人員を抽出して総勢21人の横断的な『DX推進プロジェクトチーム』をつくりました」。
最初はシステムに強い同好会のような形で、定型作業を自動化するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)から着手。徐々に範囲を広げた。目標は年間1000時間の工数削減だった。
山本社長は、同時に12月末までに上越地域初のDX認定事業者となるという大きな目標も示した。DX認定制度は、デジタル変革の準備が整っている事業者を、国が認定する制度。経済産業省のアンケートによれば「約80%の認定事業者がDX戦略の推進に効果があった」と答えている。
社員がより高い付加価値を生み出す環境
DX推進プロジェクトチームは、工数削減目標を200時間以上も上回る成果を出し、同社は12月に認定事業者となった。
この成果を土台に、山本社長は、「データを見える化して問題解決に役立てること、基幹システムに蓄積されている膨大なデータを生かしたデータドリブン経営に移行していくこと」を目指している。
現在、同社は新潟県内の製造業にゆかりのあるITベンダーと協力した「地産地消のDX」を進めている。中小企業1社では不足する分野を産学官金で補い合い、地方製造業の課題の解決を目指すソリューションだ。一つの例としては、「これからDXを始めたいという企業に対しては、当社は行政や商工会議所経由で工場見学を受け入れて、ノウハウを提供したり意見交換をしたりしています」。地産地消の例として、地元企業の既存システムを改修して基幹システムを刷新したことで、業務の標準化と属人化の緩和を実現したことが挙げられる。
同社のDXは進化し続けている。22年から移行が進んでいるJPS(Jマテ生産方式)。これはTPSでの改善活動、DX活用の成果などを基につくり上げた独自の仕組みである。山本社長によれば、「DXの取り組みの本質は、社員一人一人がより高い付加価値を生み出す挑戦に専念できる環境を整えること」だという。
同社のDX成功の背景にはトップの未来に向けた目と強い意志、実現に資するための関与があった。
わが社のDX推進成功のポイント
課題
・コロナ禍以前はTPS(トヨタ生産方式)により生産部門の改善は進んでいたが、管理部門は紙の帳票やFAXでのやりとりが主流で、生産性向上の余地があった
DX推進のための工夫
・社長が先頭に立ち、各部署から人員を集めてチームを編成。目標を明確に数値化した ・管理部門の改善のため、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などを導入した
成果
・年間1200時間以上(22~24年の累計で4220時間)の工数を削減。主な改善業務として発送明細書をバーコード読み取りし、手作業で行っていた作業をRPAで自動化することで630時間、生産管理事務作業の入力業務の自動化で392時間、営業事務ではFAXをペーパーレス化し、AI-OCRと RPAを連携した処理にしたことで204時間
会社データ
社 名 : Jマテ.カッパープロダクツ株式会社
所在地 : 新潟県上越市大潟区土底浜2024-1
電 話 : 025-534-5151
HP : https://www.jcp.joemate.co.jp
代表者 : 山本耕治 代表取締役社長
従業員 : 316人(2025年3月現在)
【上越商工会議所】
※月刊石垣2025年4月号に掲載された記事です。