トランプ大統領の就任から100日がたった。その間のトランプ流の無鉄砲な大統領令発令は米国政治のメルトダウンを予感させる。しかし、その背後に潜む政治的な特質は米国に限定されるものではない▼
例えば、政治が学界のマイノリティーとつながり、人々の強い支持を得ている点だ。大統領の上級顧問であるナバロ教授は、貿易が米国経済に害を及ぼすと主張する。こうした保護主義の考え方は、主流の経済学の知見とは真っ向から対立する。異端ともいえる言説が、製造部門で働く白人労働者の強い支持を得ているのだ。この現象は、一部の国会議員が財政赤字を許容するMMT(現代貨幣論)派を強く支持している日本の例を想起させる。積極的な財政出動を主張するMMT派の言説は、主流派に懐疑的な考えを持つ知的ともいえる一部の人々に信奉されている▼
もう一つの例は、政治が行政機能の脆弱(ぜいじゃく)化を進めている点である。マスク氏が率いるDOGE(政府効率化省)は連邦政府職員の大量解雇、予算の押収を行い、無政府ともいえる方向を志向した。他方、日本では「年収の壁」問題で与野党間での調整が難航する中、世間の批難の矛先は財務省に向けられ、解体論まで飛び出すありさまだ。政治が実行機関である行政への敵対心をあおるように仕向けるのは自壊の道である▼
こうした状況に政治が陥るのも取り組むべき課題を先延ばしにしてきたからだ。経済大国が抱える債務残高の問題、デジタル経済が生む貧富の拡大や生活不安など。その解決のために使えるリソースや時間は果たしてどれだけ残っているのか。目先の支持に振り回されず、中長期を見据えた政策を実行する政治を期待する
(NIRA総合研究開発機構理事・神田玲子)