創業100年を超える鶴見製紙は、再生紙事業で積極的にDXを推進し、経済産業省の「DXセレクション2024」優良事例や、25年に「第2回埼玉DX大賞」優秀賞を受賞した。公的機関や企業のDXが進むとペーパーレスも進む。それは、古紙を原材料とする同社にとってはジレンマとなるが、だからこそさらにDXを進めていくという。その理由を探る。
機械の遠隔監視で生産ロスが大幅減
創業以来、一貫して古紙リサイクルを事業の中心に据えてきた鶴見製紙は、印刷物や公的機関、企業などから排出される古紙を原料とする再生紙100%のトイレットペーパーを生産している。古紙の排出量が最も多い東京圏に製紙工場を持つという調達優位性を強みとし、公的機関や企業から排出される機密書類を未開梱のまま回収し、溶解処分して再生紙にリサイクルする「機密書類溶解処理システム」を確立した。2007年には情報セキュリティーマネジメントシステムに関する国際規格「ISO27001」を製紙業界で初めて取得したという。
再生紙トイレットぺーパー業界においては、公的機関や企業のデジタル化推進によるペーパーレス化に伴い、原材料の古紙の調達が困難になることも予想される。しかし、同社でDXを主導する業務部長の刈谷大吾さんは、「だからこそDXを進めて生産性を向上させなければならないのです」と時代による環境の変化を意欲的に受け止めている。
トイレットペーパーの製造工程の生産性向上を例に挙げると、DX以前は抄紙(しょうし)機と呼ばれる紙を漉(す)く工程で使う機械の突発停止を“宿命”とあきらめていた。 「抄紙機の突発停止はよくあることなので、以前は3台の抄紙機の稼働状況を作業員が機械の前で常時監視していました。しかし、停止の予兆を発見することは困難だった。停止は、生産ロスに直結するので、夜中でも担当者に来てもらい停止の原因を探すのですが、機械の状態を表す計器も停止していて直前の状況が分からない。作業日報や生産データは紙ベースで記録されているので、予兆を示す情報を探し出して原因を特定する作業が難しかった」。そのため効果的な施策が打てず、それが次の故障につながり負の循環に。
そんな時、古紙由来の汚れを防止する薬剤などを製造販売するメンテックから機械監視システムの提案があった。品質管理課長の中村俊介さんによると、「製紙業界をよく知る会社の製品だったことが決断を後押しした」という。なぜなら、「製紙の工程は特殊な知見で構成されている」からだ。DXに積極的な社長・里和永一さんの承認を得て製紙プロセス最適化システム「SmartPapyrus(スマートパピルス)」の導入を決め、徐々に現場の状況を改善し、22年、工場内の監視室で抄紙機稼働の状況を遠隔監視するシステムが完成した。想定通り、突然停止の頻度が大きく減少した。「現場の人たちの不安や負担が取り除かれました」と中村さん。
ノーコードアプリで集約した情報を共有
管理部門ではプログラミングの知識がなくてもアプリが作成できる「kintone(以下、キントーン)」を導入。刈谷さん、中村さんが中心となって各種アプリをつくり、それまで使っていたデータベース管理システムをキントーンアプリに置き換えた。16年には全従業員にiPadを配布した。「製造現場にある多くの情報をキントーンのプラットフォームに集約し、必要な人が必要な時に閲覧できるようにしました。会議でも必要なデータをすぐに探せるので、会議が深掘りできるようになりました」と刈谷さんは相乗効果を語る。
同社では刈谷さん、中村さんがアプリの作成を主導したが、「使いやすいアプリをつくるためには、現場を知る人が担当することが一番いい」と刈谷さん。「でもそれが難しければ、現場とコミュニケーションを密にしながらつくって試してもらい、改善を重ねる方法がいいと思います」。中村さんは、「改善の要望があったら、その場でできる限り迅速に修正すると、受け入れてもらいやすくなります」とアドバイスする。 「毎年売り上げの1%をデジタル技術に投資する」ことをDX戦略に明記した同社は、DXの力によりペーパーレスという大波を乗り越えようとしている。
わが社のDX推進成功のポイント
課題
・生産機械の突発停止による不安定な生産
・長時間労働や休日出勤が多い
・機械運転を職人の勘や経験に頼る
・各種データが紙ベースで管理されていて活用しにくい
DX推進のための工夫
・生産現場に製紙プロセス最適化システム「SmartPapyrus」を導入
・各部門が参加するDX委員会を設置し、課題抽出を部門横断で行った
・ノーコードツールを使いアプリを開発
成果
・生産現場では突発停止による機械停止時間を5分の1に減少
・紙の点検表や伝票を電子化し、集計効率やサービスの提供スピードが向上
・必要なデータがすぐに探せるようになった
会社データ
社 名 : 鶴見製紙株式会社(つるみせいし)
所在地 : 埼玉県川口市南鳩ヶ谷8丁目1番10号
電 話 : 048-283-3620
HP : https://tsurumipaper.co.jp
代表者 : 里和永一 代表取締役社長
従業員 : 150人
【川口商工会議所】
※月刊石垣2025年6月号に掲載された記事です。