機械部品、工作機械などを扱う商社・疋田産業は、ここ数年さらなるDX推進に取り組んでおり、2023年6月には経済産業省のDX認定制度に基づく「DX認定事業者」取得、「DXセレクション2024」の優良事例に選定された。同社のDX成功の秘訣(ひけつ)は、トップの強い意志と組織を横断した人員で構成された「DX推進チーム」にある。
負担を軽減しなければ新しい挑戦はできない
人的資源が限られる中小企業のDXは、従業員が本来の業務と並行してDXに関わらなければならない。そこがDX推進のネックであり、一定の負担を強いてでも進めるべきか判断に迷うと話す経営者は多いのだが、疋田産業社長の疋田弘一さんの答えは明快だ。 「DXを進めて本来の業務の負担を軽減しなければ、新しいことに挑戦できません。5年後、10年後には労働力が間違いなく減るのだから、DXをやらないという理由はないし、今のうちから備えをしておくべきです」
このような「経営トップの強い意志の下で、疋田産業のDXは進められている」と、DX推進チームリーダーで事業企画部部長の赤田博司さんは話す。
疋田さんは2019年に部門を横断した人員で構成する「業務効率化改善チーム」を発足させた。当初からDXに関わってきた業務管理部情報システムグループの専任課長の鉾田悦充さんは、発足以前の状況についてこう説明する。 「発足前の社内には、定時になっても仕事を続けている社員が多くいました。定時に帰れない原因が面倒な作業、無駄な作業が多いためではないかと分析した経営陣は、チームに面倒・無駄な作業の洗い出しと見直しを指示しました。これをきっかけに、DX導入のマインドが高まったと感じています」
ただ、従業員が変化を嫌う傾向は、どこの企業でもあること。「そこで、説明に際しては『こういうツールを使って、作業をこう変えていくと、作業負担がこのくらい軽減される』というようにゴールを明確にすることと、環境が大きく変わらないようにスモールスタートを心掛けました」
アナログからデジタルに転換した具体例の一つとしては、取引先からの注文書の処理がある。大手取引先は、商取引のデータを電子データで交換する仕組み「EDI(電子データ交換)」を使っていたが、中小取引先にはFAXや郵便で帳票を送ることが多かった。 「主にSA(営業アシスタント)の仕事である紙の処理を効率化するため、文字識字率が高くフォーマットが異なる帳票に対応する『AI-OCR(光学文字読み取り装置)』を導入し、デジタル化したデータを自動的に基幹システムへ取り込む仕組みを構築していきました」(鉾田さん)
コロナ禍が明けた21年には、DX推進チームが本格稼働した。
同社のDXは上図のように多岐にわたるが、導入成果が分かりやすかったのは、AI-OCRと手間のかかる定型業務を自動化するRPA(Robotic Process Automation)だったという。導入当初の23年度は、AI-OCR稼働件数25%増、RPA稼働シナリオ数7件で、売上高5・98%増を達成した。
DXにより捻出した時間を人材育成に使う
DXをスムーズに進めるための赤田さんのアドバイスはこうだ。 「目的に合ったデジタルツールを探す。ツールの無料トライアル期間を使って目的に合うかどうかを判断し、合わなければ替える柔軟性が大切です」
以上が社内DXの概要だが、同社が社外(顧客)DX推進の拠点と位置付けているのが23年に開設した金沢ロボットセンターだ。北陸初のマルチブランドのロボット展示場で、産業用ロボット7台とAGV(無人搬送車)システム1台を展示。顧客に実物を示すことで提案力が上がり、自動化・省力化についての相談件数が増加しているという。
最後に赤田さんが強調したのは、「DXにより捻出した時間の使い方」だ。社員のスキル向上や顧客接点の時間の増加などに使うことで人材が育ち、業績向上につながっている。DXは、働き方改革、人材採用・定着にも貢献する。
わが社のDX推進成功のポイント
課題
・経営トップが「DXにより業務の負担を軽減しなければ、新しいことに挑戦できない」という危機感を抱いていた
・業務効率化に取り組んだが、取り組み意図が社内に浸透しなかった
DX推進のための工夫
・組織を横断した人員で構成された「DX推進チーム」を発足させた
・テーマ(業務)別にグループを設定し、取り組みを可視化した
・システム・ツールを積極的に導入した
成果
・システム・ツールの積極的導入により業務効率が改善された
・金沢ロボットセンターを開設したことで自動化・省力化相談件数が増加した
・各種外部研修への参加について、自主的に手を挙げる社員が増加した
会社データ
社 名 : 疋田産業株式会社(ひきださんぎょう)
所在地 : 石川県白山市旭丘4丁目11番地
電 話 : 076-275-7531
HP : http://www.hikida.jp
代表者 : 疋田弘一 代表取締役社長
従業員 : 86人
【白山商工会議所】
※月刊石垣2025年7月号に掲載された記事です。