DXという言葉が一般に使われていない時期から、IT化に積極的に取り組んできた内藤建設。試行錯誤をしながら経験と知見を蓄積して、基幹システムの独自開発に至った。さらに社長直轄のDXチームを組織して、社員のデジタルスキルの底上げにも成功。そうした成果が評価されて、「DXセレクション2025」優良事例に選ばれた。
経営理念を基点とした生産性向上への挑戦
2012年ごろ、建設不況で業績が厳しかった内藤建設社長の内藤宙(ひろし)さんは、代々引き継がれてきた経営理念を分かりやすく整理し直し、「『CS(お客さまの満足)=CS(会社の発展)=ES(社員の幸福)』を達成し、総合コンストラクション・サービスを通じて地域社会に貢献する」という基本方針を掲げた。お客さまの満足と社員の幸福を実現するには、会社の発展が欠かせないという考えだ。
理念実現には、まず業務の土台づくりが必要だった。そこでコンサルティング会社の指導を受け、5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)活動による職場の整理整頓から着手。その結果、業務効率が向上し、業績も回復していった。
続いて挑戦したのが「情報の整理整頓」で、ここから自然とDXへつながった。内藤さんは、当時をこう振り返る。 「われわれは『DXをやるぞ』という掛け声で始めたわけではありません。目的はあくまで生産性向上です。仕事をやりやすくし、業績や社員の働きやすさ、給与改善につなげる。その延長にデジタル活用があるのです」
同社は、03年に管理部門を中心にグループウエアを導入するなど、早期からITに挑戦していたが、期待したほどの効果は得られなかった。その経験を踏まえて、18年、独自開発の基幹システムを稼働させた。
20年、コロナ禍で協力会社や顧客との接触削減を迫られ、基幹システムを通じて受発注や承認を統一。「でんさいネット(全銀電子債権ネットワーク)」やネットバンキングを活用し、紙手形を完全廃止した。
22年1月からは、社長直轄のDX推進チームを新設。現場業務もデジタル化が進み、例えば住宅事業部ではウエアラブルカメラを導入し、上長が遠隔で指示や確認を行い移動時間を短縮した。
並行して全国の中小企業と学び合うベンチマーキング活動を続けてきたことで、「成功事例を互いに学び合う文化が大きな力になっています」と内藤さんは話す。
改善の積み重ねが生んだDXの成果
紙からデジタルへの移行には社内の抵抗もあったが、勉強会や協力会社への説明を重ね、改善を続けてシステムを自社仕様に育てていった。プログラミング不要の「kintone」でつくった人事評価シートは、社員自身が評価を書き込む仕組みとし、全員が自然とデジタルに慣れる工夫をした。 「最初は誰でも抵抗があります。でも、一度使い始めれば紙には戻れない。導入して終わりではなく、毎年改善を積み重ねることが大切。それは独自開発の基幹システムだからできることです」と内藤さんは語る。
こうした努力は業績に直結した。24年には20年比で売り上げ124%、営業利益308%と大幅に増加。22年からは会社で「DX大会」を開催し、各部門が改善事例を発表することで横展開が進み、社員のモチベーション向上にもつながった。さらに「早帰りチーム」を設け、短時間で成果を出す社員を評価し、年間休日も104日から120日に増やした。
同社はDXによって、長時間労働を前提とした働き方を改め、効率的に働く仕組みへ転換した。これは制度改革にとどまらず、生産性向上を企業文化として根付かせる一歩である。こうした成果を踏まえ、内藤さんはこうアドバイスする。
「私たち中小企業は『うまくいっている事例をまねる』ことが最も有効な方法です。独自に時間をかけて考えるより、先行事例を学び、取り入れる方が早く成果につながります」
一方でデジタルの活用には、コストという課題があると指摘し、「特にセキュリティ対策は個社では限界があるため、システムの共通化も含め業界団体や商工会議所という枠で考える方が良いと思う」と提言する。
内藤さんの言葉には、経営理念を実現するための現実的な知恵が凝縮されている。
わが社のDX推進成功のポイント
課題
・経営理念である「CS(お客さまの満足)=CS(会社の発展)=ES(社員の幸福)」を実現するためには、長時間労働や非効率な作業による負担を軽減する必要があった
DX推進のための工夫
・社長直轄のDX推進チームに、各部門から人材を結集して全社的に取り組んだ
・社外に向けて「DX現地見学ツアー」を実施し、建設業のDX情報供給の場を提供
・社内に向けて「DX大会」を毎年開催。成功事例の横展開と改善策を模索
・基幹システムを独自開発、ノーコードの「kintone」でアプリを製作。現場にはウエアラブルカメラや汎用AI、建設業特化のAI「光/Hikari」を導入して効率化を図った
成果
・20年→24年で人時生産性5740円→7922円、平均残業時間240時間→120時間など
会社データ
社 名 : 内藤建設株式会社(ないとうけんせつ)
所在地 : 岐阜県岐阜市六条南3丁目10番10号
電 話 : 058-272-0225
HP : https://naito-csc.jp
代表者 : 内藤 宙 代表取締役社長
従業員 : 100人
【岐阜商工会議所】
※月刊石垣2025年10月号に掲載された記事です。
