暑さをブランド化 熊谷市の戦略
夏の厳しい暑さで知られる熊谷市は、「あついぞ!熊谷」という地域ブランドの取り組みで注目されました。猛暑は本来、生活や経済活動に負担を与える要因とされがちですが、同市はその環境をあえて前向きに捉え、「暑さそのものを価値に変える」という発想へと転換しました。制約を克服する対象ではなく、生かすべき資源として再定義した点に、この取り組みの本質があります。
具体的には、冷却グッズやご当地かき氷の開発、真夏の気候を逆手に取ったイベント企画など、「暑いからこそ成立する商品・サービス」を展開。さらに、“日本有数の暑いまち”という認知を積極的に活用し、観光誘客やメディア露出の機会へとつなげてきました。
近年では、暑さ対策に軸足を移し、暑さ指数の可視化や来訪者への休憩スポット整備など、安心して訪れられる環境づくりにも取り組んでいます。単なる気象条件を、体験価値として編集し直すことで、他地域にはない独自のブランドを構築して注目度が高まっています。
限られた資源を再定義する
ここで重要なのは、新たな資源を見つけたわけではなく、既存の環境の意味を再定義した点です。この考え方は地域に限らず、中小企業にも応用可能です。
例えば香川県では、降水量の少なさという制約を背景に、水を効率的に使う食文化が発展し、その象徴として讃岐うどんが広く知られるようになりました。限られた資源の中で工夫を重ねた結果、それ自体が地域ブランドへと昇華された好例といえるでしょう。
導き出されるのは、「弱みの再定義」というシンプルで本質的な戦略です。自社や地域の制約を丁寧に洗い出し、外部視点で価値として言語化する。そして小さく実装し、検証を重ねる。このプロセスの積み重ねが、ブランドの解像度と説得力を高めていきます。また、取り組みを継続する中で関係人口や共感者を増やしていくことも、長期的なブランド形成には欠かせない視点となります。
課題に向き合い価値を磨き続ける
ブランド化は短期で成果が出るものではありません。暑さ対策のコストや担い手不足、収益化とのバランスといった現実的な課題に向き合いながら、価値を磨き続ける必要があります。熊谷市や香川県の事例が示すのは、変えられない条件こそが競争優位の源泉になり得るということです。
「意味付け」と「実装」を重ねることが、選ばれ続けるブランドを形づくっていきます。さらに、こうした取り組みは地域内外の連携を促し、新たな価値創出の起点にもなっていくでしょう。
(立教大学大学院非常勤講師・高城幸司)