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身の丈ITで生き残れ! vol.7

高木雅英代表取締役は、ITを「従業員の負荷を軽減して自主性を高めるための道具」と位置付けている

愛知県安城市に本社を置く高木金型設計は、自動車関連プラスチックの金型の設計・製作、メンテナンスなどを手掛けている。設立当初、金型業界の「丼勘定」に驚き、金型工程管理システムを導入。軌道に乗った今は、さらなる緻密な管理手法を開発し「顧客が示した納期よりも早い納期で仕上げる」ことを目標にしている。

「丼勘定」体質にあきれ生産管理システムを導入

高木金型製作社長の高木雅英さんが会社を設立した2001年当時、金型業界では「丼勘定」がまかり通っていた。多くの会社は生産工程の管理が徹底されておらず、原価の把握も甘かった。価格の決め方も「丼勘定」で、時には同じ金型なのに100万円近い差が出ることもあった。そのことに疑問を抱いた高木さんは、独自にエクセルによる生産管理を始めた。

同社の正確な納期と適切な価格が評判を呼び、自動車関連メーカーからの金型発注が増えてくると、今度はエクセルでは対応しきれなくなった。「金型の管理手法の見直し」を迫られ、地元の安城商工会議所の職員に相談したところ、「平成25年度中小企業・小規模事業者ものづくり・商業・サービス革新事業」(ものづくり補助金)の利用を勧められた。

申請が採択され、2014年に導入したのは、金型工程管理システム「AIQ」(アイク)だ。日程・進捗(しんちょく)・実績・負荷・原価をリアルタイムに連携させることで、各所に発生しがちな無駄をなくし、生産リードタイム(生産に着手してから生産が完了するまでの時間)の短縮が期待できた。導入した結果、エクセルでの管理時代に比べ、生産性が20%程度向上したという。

それでも高木さんは満足しなかった。

「AIQは優秀です。お客さまが指定した納期が11月末なら、その納期日を入力するだけで、設計はいつまで、加工はいつまでに終えなさいと、スケジュールをきれいに調整してくれます。しかし当社は、お客さまの指定した納期を守るつもりはありません」

「納期を守らない」とは、どういうことか。

「お客さまが指定した納期が11月末なら、それよりも早い納期で仕上げることを目標とします。でもそれは、AIQを使って社内納期を11月25日に再調整するといったことではなくて、できたときが社内の納期と定めています。機械を土日も夜間もフル稼働させているため、当社では短納期が当たり前になっています」

だが、高木さんの目的は短納期を実現することではなかった。機械の稼働率を上げて生産性を向上させれば、従業員の残業が減り、有給休暇を取りやすくなると考えたのだ。そこで、自動で作業をする機械の新規導入にも積極的に取り組み、人手が足りない部分をカバーした。

毎週水曜日を定時帰宅日と定めたこともあり、残業時間は1カ月25~26時間(年間300時間程度)に減り、有給休暇取得率は100%を達成した。それでも休みたがらない従業員もいるため、自身の誕生日、妻の誕生日、結婚記念日、健康診断日の4日間は「出勤禁止日」(強制的な有給休暇消化日)と定め、この日に出勤してきた社員を強制的に帰宅させたこともあるという。

残業を減らしただけでは従業員の給料が減って士気が下がる恐れがあるため、同時に給料アップを宣言した。誰が休んでも作業が滞らないように、機械(作業工程)ごとの担当をなくし、多能工を育てた。その結果、短納期が実現し、会社の強い武器となった。

「コストの低さとクオリティーの高さは当たり前です。今、お客さまから求められているのはなんといっても短納期です」

顧客企業も働き方改革により、従業員の作業時間が制限されている。そのため出図が以前より遅くなったが、金型の納期は変わらない。つまり、短納期が強く求められているのだ。それに対応できない競合会社も出始めており、同社の取引先は5、6年前までの1、2社から自動車関連以外の企業も含めて8社にまで増えた。

無料のメモ作成サービスで従業員の自主性を高める

高木さんが新たに導入を進めているのが、タブレット端末と無料で使えるメモ(ラベル)作成サービス「Google Keep」の組み合わせだ。従業員が簡単に扱えるよう、「AIQ」とは連携させていない。

「お客さまごとにラベルで分けて保存してあり、お客さまの以前の依頼の内容をすぐに引き出せるようになっています。別のラベルを見ると現在の作業内容が分かり、さらに別のラベルには次の作業指示が書いてある。そのため、作業員が自主的に動けるのです。いわば作業の見える化ですが、当社の見える化は経営者や上長のためではなく、従業員の自主性を高めるための見える化です。このシステムを導入したことで、上長が『あなたは次にこの作業をしてください』と指示する必要がなくなりました」

高木さんがITを導入する目的は、従業員に幸せに働いてもらうこと。ITをフルに活用することで、11人の小規模企業でも従業員を犠牲にすることなく、短納期という強みを手に入れることができたのだ。

会社データ

社名:有限会社高木金型製作

所在地:愛知県安城市東端町大坪64-3

電話:0566-79-2161

代表者:高木雅英 代表取締役

従業員:11人

HP:http://www.takaki-kanagata.jp/

※月刊石垣2019年11月号に掲載された記事です。

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