愛知県常滑市に本社工場を置く久野金属工業は、自動車や産業用部品の設計・開発、金型製作、プレス加工から表面処理までを一貫して行う金属加工メーカー。1960年代から最新設備の導入に積極的で、近年はグループ会社と共同開発した低価格なモニタリングシステム「IoT GO」を導入して改良を加え、その実績を基にシステムの外販も行っている。
勘やこつに頼っていた研磨機操作を自社技術でIoT化
1947年に創業した久野金属工業は、早い段階から合理化・自動化に取り組み、中小企業庁長官賞受賞(67年)、中小企業合理化モデル工場指定(78年)、ロボットプレスラインの自社開発(86年)などを実現させてきた。
機械の稼働状況の「見える化」も早かった。社長の久野忠博さんによると、90年代には「有線LANによるモニタリングシステムを構築していた」という。
そうした久野金属工業の自動化・IT化を支えてきたのが、89年に同社から独立してグループ会社となったソフトウエア開発ベンダーで、マイクロソフト社のゴールドパートナーでもあるマイクロリンクだ。
両社は、2015年から16年にかけて研磨機のIoT化に挑んだ。自動車の電動化が進んで金型部品にもより高い精度が求められるようになり、精度を上げるための研磨加工に多くの時間を費やすことになったためだ。
「ところが、ミクロン単位の調整が必要な研磨機の操作にはアナログ的な要素が多く、現場のオペレーターの技能(勘やこつ)に頼っていました。そこでIoT化してデータを収集し、最適な研磨条件を導き出す技術を開発し、一日平均の加工数を従来比で30%増やす目標を立てました」(忠博さん)。目標を達成すると全量内製化が実現することになっていた。このプランは、15年度補正「ものづくり・商業・サービス新展開支援補助金」の交付を受けて、見事に実現した。
中小企業のIoT化には低価格なシステムが不可欠
金属加工の分野は、コンピューター制御されているNC工作機械やMC(マシニングセンター)が導入されていたため、IoT化の下地は整っていたのだが、「大手ベンダーが提案するIoTシステムは多機能過ぎて高額です。そこで私たちは中小企業が導入しやすいIoTシステムを突き詰めていき、『IoT GO』を開発しました」(忠博さん)。
マイクロリンク社長の久野尚博さんによると、「IoT GO」は、「クラウドをプラットフォームにしたモニタリングシステムで、インターネットを活用するため、工場内に自前の無線環境を整備する必要がなく、低価格で実現できるIoTシステム」だという。センサーを実装していない機械にも対応するハードウエアは、①機械から取り出した信号をクラウドに送る送信機、②Wi-Fiアクセスポイント、③インターネットに接続するLTEルーターというシンプルな構成。クラウドの「Microsoft Azure(マイクロソフト・アジュール)」内で集約・蓄積・分析をした結果は、パソコン、タブレット、スマートフォンの画面でリアルタイムに見られる。
稼働状況の可視化だけで11%の生産性向上を実現
システムの要となるパブリッククラウド(共同利用のクラウド)にはアマゾンやグーグルといった選択肢があるが、Azureを選んだ理由について尚博さんは、「マイクロソフトには長年、企業向けのサービスを提供してきた実績がある」ことに加え、IoT化やデータ分析に必要な機能をPaaS(パース=アプリが稼働するための環境などが提供されるサービス)として豊富に揃えている点を挙げる。さらに顧客情報保護の観点から、「Azureだけが『お客さまのデータはお客さまが管理します』というセキュリティーポリシーを明示している点も安心材料でした」。
「IoT GO」によって蓄積された久野金属工業の稼働データは今後、機械学習の「Azure Machine Learning(アジュール・マシーン・ラーニング)」を用いて分析し、工程の改善などに役立てる計画だが、機械の稼働状況の可視化だけでも経営や現場に気付きを与えられるため、現段階でも生産性が 11%も向上したという。
久野金属工業の実証実験を経た「IoT GO」は、18年5月からマイクロリンクを通じて販売されている。1台から導入ができて初期費用0円という低価格。中小企業にとっては身の丈ITの有力な選択肢になりそうだ。
会社データ
社名:久野金属工業株式会社(くのきんぞくこうぎょう)
所在地:愛知県常滑市久米字池田174番地
電話:0569-43-8801
代表者:久野忠博 代表取締役社長
従業員:300人
※月刊石垣2020年2月号に掲載された記事です。
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