観光庁はこのほど、2018年版「観光白書」を発表した。白書は、2017年の観光動向や講じた施策などを取りまとめたもの。第Ⅰ部では世界と日本の観光の動向を分析。第Ⅱ部では「日本経済における存在感が高まりつつある『観光』」のテーマの下、インバウンド旅行者が日本経済に与える影響を広く分析している。特集では、白書の概要を抜粋して紹介する。
第Ⅰ部 2017年観光の動向
1.世界の観光の動向
◯国連世界観光機関(UNWTO)発表の世界観光動向によると、2017年の国際観光客は前年比8300万人増の13億2200万人(前年比6・7%増)となった。
◯地域別にみると、依然として欧州が半数程度を占めているが、近年、アジア太平洋地域が高い伸びを示しており、17年は、10年前(07年)と比較すると5%程度シェアが拡大している。
◯16年の「外国人旅行者受入数ランキング」で、日本は2404万人(16位(アジアで5位))で15年と同順位となった。
◯16年の「空路または水路による外国人旅行者受入数ランキング」において、日本は2404万人(7位(アジアで2位))で、15年の9位(アジアで3位)から上昇した。
◯なお、17年の訪日外国人旅行者数は2869万人で、16年の「外国人旅行者受入数ランキング」では11位に相当し、「空路または水路による外国人旅行者受入数ランキング」では6位に相当する。
◯16年の「国際観光収入ランキング」において、日本は307億ドル(11位(アジアで4位))で、15年の13位(アジアで5位)から上昇した。
◯16年の「国際観光支出ランキング」において、日本は185億ドル(16位(アジアで5位))で、15年の19位(アジアで5位)から上昇した。
◯なお、17年の日本の国際観光収入340億ドルは、16年の「国際観光収入ランキング」では9位に相当する。
2.日本の観光の動向
<訪日旅行の状況>
◯17年の訪日外国人旅行者数は、2869万人(前年比19・3%増)となった。
◯訪日外国人旅行者数の内訳は、アジア全体で2434万人(全体の84・8%)となった。東アジアが初めて2000万人を超え、2129万人(全体の74・2%)となり、ASEAN主要6カ国でも292万人(同10・2%)、北米は168万人となった。 また、欧州主要5カ国(英・仏・独・伊・西)で、初めて100万人を突破した。
◯17年の訪日外国人旅行消費額は、前年比17・8%増の4兆4162億円となった。
◯国籍・地域別にみると、中国が1兆6947億円で全体の38・4%を占め、台湾5744億円(13・0%)、韓国5126億円(11・6%)、香港3416億円(7・7%)、米国2503億円(5・7%)となった。
◯費目別の旅行消費額をみると、買い物代が全体の37・1%(1兆6398億円)を占め、宿泊費(1兆2451億円、28・2%)、飲食費(8857億円、20・2%)と続いている。
◯1人当たりの旅行支出をみると、全体で15万3921円、前年比1・3%減となっている。中国が最も高く23万382円であり、続いてオーストラリア22万5845円、英国21万5392円と続いている。
◯中国は買い物代の支出額が高く、欧米豪諸国は宿泊費の支出が高い。
<海外旅行・国内旅行の状況>
(海外旅行)
◯17年の日本人海外旅行者数は、1789万人(前年比4・5%増)と2年連続で増加した。
(国内旅行)
◯17年の宿泊旅行延べ人数は、3億2333万人(前年比0・7%減)、日帰り旅行延べ人数は、3億2418万人(同2・8%増)となった。
◯17年の日本人国内旅行消費額は、宿泊旅行、日帰り旅行共に増加し、21・1兆円(前年比0・8%増)となった。
◯17年の日本人および訪日外国人旅行者による日本国内における旅行消費額は、26・7兆円(前年比3・6%増)となった。(図1)
◯このうち、訪日外国人旅行者による旅行消費額のシェアは16・5%と初めて15%を超えた。
<宿泊の状況>
◯17年の日本国内のホテル・旅館などにおける延べ宿泊者数は、4億9819万人泊(前年比1・2%増)となった。うち日本人延べ宿泊者数は4億2019万人泊(同0・7%減)、外国人延べ宿泊者数は7800万人泊(同12・4%増)となった。
◯地方部の伸び(15・8%)が三大都市圏(10・2%増)を上回り、地方部のシェアが、初めて4割を超えた。
◯客室稼働率は17年全体で60・8%と16年(59・7%)を上回った。
◯特に、大阪府では80%を超える水準が続いている。
◯タイプ別にみると、シティーホテルが79・4%、ビジネスホテルが75・4%となっている。旅館は38・1%となっている。
<地域における観光の動向>
◯延べ宿泊者数の前年比を地方ブロック別にみると、東北地方が40・4%増、九州地方が31・4%増と高い伸びとなっている。また、北海道(13・4%増)、北陸信越(16・0%増)、近畿(15・4%増)、中国(21・5%増)、四国(23・0%増)、沖縄(19・3%増)も全国平均を上回る伸びとなった。
◯地方ブロック別の外国人延べ宿泊者数を国・地域別にみると、中国からの宿泊者が北海道・関東・中部・近畿の4地方、韓国からの宿泊者が九州・沖縄の2地方、台湾からの宿泊者が東北・北陸信越・中国・四国の4地方で最も高い比率を占めた。
第Ⅱ部 日本経済における存在感が高まりつつある「観光」
1.近年の訪日外国人旅行者の増加がもたらす影響
(1)売上高
〇本年の白書第Ⅱ部では、近年のインバウンドの増加がもたらす日本経済への影響を旅行消費に計上されない効果を含め、幅広い観点から分析。また、近年の経済成長への観光の寄与を分析。インバウンドの効果がマクロ経済指標に明確に現れていることおよび観光が日本経済成長の主要エンジンに変化しつつあることが確認された。
・5年間で訪日外国人旅行者数は3・4倍、旅行消費額は4・1倍になった。
<インパクト①>消費(売上高)への影響
・各業種で売上高に占める訪日外国人のシェアが上昇。
(2)輸出
〇インバウンドの効果は「旅行消費」にとどまらず、訪日観光がきっかけとなり帰国後も越境電子商取引(越境EC)を通じて日本製品を購買する動きが拡大するなど「輸出」の増加にも寄与。
<インパクト②>輸出への影響1
・中国の三大都市(北京市、上海市、広州市)などに居住する中・高所得者層の約7割は、越境ECを通じた日本製品購買経験あり。
・越境ECで人気の日本製品は、化粧品・食品、医薬品関連。
・購入する理由の約40%が、訪日観光がきっかけと回答。
・訪日外国人に人気の商品は、日本での消費(旅行消費額)とともに輸出額も増加。
〇越境ECの増加に訪日観光が大きく寄与。旅行消費には計上されない越境ECによる日本製品の購買規模は年間約6000~8000億円程度(17年)と推計。
<インパクト②>輸出への影響2
・日本製品購買のきっかけに訪日観光が大きく影響。
・購買手段は、中国で越境ECの比率が高い。
・中国を中心に訪日観光をきっかけとした越境ECによる日本製品購買の動きが広まっている。
(3)投資
〇宿泊業においては1兆円弱程度の建設投資を創出(17年)。
<インパクト③>投資への影響
・インバウンド需要は、宿泊業のみならず製造業含め幅広い業種、かつ全国各地において投資を創出。
(4)国際収支
〇サービス貿易において「旅行」が知財使用料に次ぐ黒字項目へ変化。比較優位性を示す指標が観光分野で大幅に改善し、観光が日本経済の「稼ぎ手」に変化しつつあることが確認された。
<インパクト④>国際収支への影響
・サービス収支の最大の赤字項目であった「旅行」が知財使用料に次ぐ黒字項目へ変化。
・比較優位を示す顕示比較優位(RCA)指数は近年大きく改善。
・日本は、製造業のRCA指数が高いが近年やや低下傾向。
・観光RCAは近年上昇。ただし、諸外国と比べると観光産業の存在感が小さく、観光立国に向けては道半ば。
(5)景況感への影響
〇インバウンドの動向が景況感に及ぼす影響が高まっている。
〇近年、延べ宿泊者数でみると、インバウンド伸び率は地方部において高くなっている。
<インパクト⑤>景況感への影響
・景気判断の理由としてインバウンドを挙げる割合が増加、インバウンドの動向が景況感に与える影響が高まっている。
(6)地域経済
<インパクト⑥>地域への波及1
・外国人延べ宿泊者数の増加幅では、大都市圏に加え、北海道、沖縄で大きく増加。
・伸び率でみると、地方部の県で高い伸び。
<インパクト⑥>地域への波及2
・沖縄では、外国人旅行消費額が5年で約8倍。
・近畿も約5倍に増加し、シェアが拡大。
・インバウンドの伸びが著しい地方部では、インバウンドの増加に対応し宿泊業の建設投資が大幅に増加。
2.観光の日本経済全体への貢献
〇観光は、近年の経済成長に対し、GDPに占める割合をはるかに上回る規模の貢献を果たしており、経済成長の主要エンジンに変化しつつある。
<近年の経済成長への貢献>
・観光GDPは23・0%成長(12年から16年)し、その伸び率は輸送用機械(23・0%)などとともにトップクラス。
・名目GDP約40兆円増加(12年から16年)のうち、観光の寄与の割合は4・5%程度(約2兆円)。身の丈(GDPに占めるシェア:12年約1・7%程度)の2・6倍程度成長に貢献。
3.成長エンジンとしてのさらなる発展に向けて(まとめと課題)
<これまでの分析のまとめ>
〇旅行消費のみならず日本経済に幅広い影響
・約4兆円の「旅行消費」にとどまらず、越境ECなどを通じた購買(6000~8000億円程度)、企業の投資(宿泊業の建築投資約1兆円弱)などを創出。
・人々の景況感の形成を左右する重要な要因へと変化。
・近年の経済成長に対し、観光の規模(対名目GDP比)をはるかに上回る貢献(約2・6倍)。観光が日本経済成長の主要エンジンへと変化しつつある。
〇幅広い業種、地域でのさらなる投資を期待
・宿泊業のみならず、素材、機械、飲料、製菓、交通事業者、外食産業など幅広い業種にインバウンド対応投資を誘発。
・北は北海道から南は沖縄まで幅広い地域に波及。
・インバウンド効果の恩恵に呼応し、さらに幅広い地域や業種において投資の活発化を期待。
〇観光が日本経済をけん引する「稼ぎ手」に変化しつつある
・近年、製造業の比較優位性がやや低下する中、観光の比較優位性(観光RCA指数)が大きく改善。
・他方、20年の目標に向けてはあくまで道半ば。
・目標に近づくと、観光の比較優位性や経済成長への貢献度がさらに高まり、日本経済の成長をけん引する主要産業へと変貌を遂げていくことが見込まれる。
・そのためにも、目標実現に向けてさらなる高次の施策の展開が不可欠。
<今後の課題>
〇現状はあくまで通過点
・国際比較の観点からは、日本のインバウンドの水準はまだまだ低く、さらなる拡大の余地。観光RCA指数は未だ1未満。
・目標実現に向けてさらなる高次の施策の展開が必要。
〇日本人の旅行の活性化も重要
・国際比較の観点からも、日本人の旅行には拡大の余地。
・インバウンド獲得を目指して進めている施策の多くは、日本人旅行者の満足度向上にも貢献。
・官の環境整備の下、観光関係者(民)のさらなる取り組みに期待。
4.持続可能な観光の確立に向けて
<インバウンドの増加がもたらすわが国観光の課題>
〇訪日外国人の約12%は、「民泊」(有償での住宅宿泊)を利用
・民泊普及の背景には、多様な外国人旅行者のニーズへの対応不足も一因。
・宿泊施設不足のみならず、既存の宿泊施設が、例えば、長期滞在者向けの「泊食分離」、家族旅行など比較的多人数で宿泊できるホテルの不足、日本の伝統的な生活体験ができる施設の不足など、多様なニーズに十分応えられていないことも要因。
・民泊普及や外国人旅行者の増加がもたらす課題。
・民泊利用者による騒音、ごみ放置など周辺住民の平穏な生活との調和↓住宅宿泊事業法の制定。
・観光地でのマナー違反、文化財・環境への影響。
・交通渋滞、交通機関の混雑など市民生活への影響。↓持続可能な観光の実現は、わが国が観光立国の実現を目指す上で、乗り越えなければならない課題。
<持続可能な観光の確立に向けて>
・地域の実情に応じ、住民参加の下、さまざまな手法を組み合わせて課題を克服していく必要。
・克服すべき課題については、地域に応じて多種多様であることから対応策も一様ではない。
・規制のみならず、インセンティブ政策、税制や価格政策、的確な情報発信などさまざまな手法を組み合わせ、住民参加の下で地域の課題に応じて対応していくことが求められる。
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