中小企業庁はこのほど、2019年版中小企業白書ならびに小規模企業白書を公表した。白書では、令和時代を迎えるに当たって中小企業経営者の親族以外への円滑な承継や、これまで培ってきた技術および経営資源を若い世代につなぐ必要性を強調。また、経済・社会構造の変化に合わせた自己変革の取り組みになどついて、113の事例を交え分析を行った。特集では、白書の概要を紹介する。
2019年版中小企業白書のポイント
◆若い世代への事業承継が企業業績にプラスの影響を与えること、事業承継や経営資源の引き継ぎには早めの準備が必要であることなどを明らかにした
◆人口減少、デジタル化、グローバル化といった経済・社会構造の変化の中で、中小企業や小規模企業の経営者がどのように行動変容すべきか、また、ステークホルダー(中小企業や小規模企業を取り巻くさまざまな関係者)との関係をどのように再構築していくべきか、データや事例を用いてヒントを示した。
2019年版小規模企業白書のポイント
◆フリーランスや副業として起業する場合について、一般的な形態で起業する場合と比較して、開業費用が低いこと、フリーランスとして起業して従業員を雇用するに至る者や副業として始めて本業に移行する者が、一定数存在することを明らかにした。
要点Ⅰ 経営者の世代交代
1.親族内承継の支援措置は大幅に前進。親族外承継により新事業の展開も期待される(図1・2)
〇これまで法人・個人事業者向けに、贈与税や相続税の負担をゼロにする事業承継税制を措置。親族内承継の支援措置は大幅前進。
〇今後は、親族外承継も一層推進することが重要。旧経営者の負担が軽減されるほか、新経営者による新たな事業展開も期待される。
2.廃業時に経営資源を引き継ぐことは、旧経営者・起業家の双方にとって有益(図3・4)
〇やむを得ず廃業する場合でも、経営資源の一部を有償譲渡すれば経営者は廃業費用の一部を賄うことが可能。
〇事業を素早く立ち上げようとする場合、他者から経営資源を引き継ぐ形での起業は有効であるが、実際に引き継げた者は限定的。
〇起業促進の観点からも、部分的な事業承継として、経営資源の引き継ぎを進めることが必要。
3.比較的簡単に起業できるフリーランス・副業による創業を促進することも重要
〇クラウドなどのIT技術の発展や働き方改革の進展で、フリーランスや副業など創業の裾野が広がるなど、個人が比較的簡単に創業するチャンスが到来。
〇まずはフリーランス・副業で起業した後、事業を拡大するような事例も存在。起業の一形態として、フリーランス・副業による創業促進も重要。
※ここでの「フリーランス」とは、特定の組織に属さず、雇用・店舗なし、技術技能の提供で成り立つ事業を営む者、「副業」とは、雇用される傍ら、事業を営むことをいう。
要点Ⅱ 構造変化への対応
4.デジタル化社会では、IoT(モノのインターネット)・AI(人工知能)を活用した生産性向上の取り組みが重要(図5・6)
〇デジタル化が進展する社会にあっては、中小企業にとってもIoT・AIを活用することが有益。
〇データを活用し、業務効率化や売り上げ増につながる取り組みを促進することが必要となっている。
5.中小企業は大企業にとって魅力的な連携相手。研究開発の促進も重要(図7・8)
〇顧客ニーズの多様化や変化へのスピードが早まる中、自社だけで革新的な商品やサービスを開発することは困難となり、オープン・イノベーションの必要性がとみに高まっている。
〇小回りの利く中小企業は、大企業からも研究開発の連携相手として期待されている。大企業の連携を含め、中小企業の研究開発への取り組みを促進することが必要。
6.地方の中小企業こそ、域外・海外需要の取り込みが必要であり、それは多くの地域で可能
〇サービス業を中心に、人口密度が低い地域に立地する事業者ほど、生産性が低い傾向にある。
○また、人口減少が進む地方においては、域外の需要をいかに取り込むかが課題となっている。
〇訪日外国人が急増する中、外国人のニーズに応じた商品・サービスを提供し、海外の需要を取り込むことで、地方でも高い成長を実現することが可能となる。
要点Ⅲ 防災・減災の取り組み
7.防災・減災対策を進めるため、関係者も巻き込みつつ普及啓発を推進することが必要(図9・10)
〇防災・減災対策を行った企業ほど、短期間で売り上げの回復を達成。
〇一方、規模が小さい事業者は、防災・減災対策の取り組みが必ずしも十分でない。「何から始めればよいか分からない」とする事業者が多く、大企業などの関係者の協力を得て普及啓発を推進することが必要。
8.リスクに見合った災害保険への加入を進めることが必要(図11・12)
〇多くの中小企業は、損害保険や火災共済に加入している。
〇他方、水災に対応していない保険や一部しか補償されない保険への加入が半分以上。
〇リスクに見合ったカバー率の保険加入を進めることが必要である。
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