福島県須賀川市
船乗りに正確な地図と羅針盤が必要なように、地域づくりに取り組むためには客観的なデータが欠かせない。今回は、ウルトラマンの故郷「M78星雲 光の国」と2013年5月5日に姉妹都市提携を結んだ、円谷プロダクション創設者の円谷英二の故郷である須賀川市について、地域診断サービスを基に、まちの羅針盤(地域づくりの方向性)を検討する。
ベッドタウンとして成長
まず、須賀川市(20年1月1日の人口7万6千人)の「生産↓分配↓支出」と流れる地域経済循環を見てみたい。
生産(付加価値額)は、生活に密着する川下産業に厚みがあり、第3次産業が7割を占める。分配では、住民が域外へ働きに出て給与を持って帰ることから、雇用者所得が流入している。最後に支出であるが、一般に勤務地先で消費などをするため民間消費は域外に流出、また、地域で販売などをしている商品・サービスは域外からの移輸入に頼っており、その他支出は流出(域際赤字)となっている。
いずれも、典型的なベッドタウンの特徴である。
実際、19年3月平日14時の滞在人口(人口は15歳以上80歳未満、以下同様)を見ると、須賀川市民の1割(7千人)が郡山市に通勤などで滞在している。休日も、須賀川市の滞在人口(19年3月休日14時)は5万5837人で、国勢調査人口(6万166人)を下回っており、住民は平日も休日も域外へ出掛けている状況である。
しかしながら、その内訳からは、また違った特徴が浮かび上がる。休日の滞在人口のうち、須賀川市民は4万3159人にとどまり、実に1万人以上が域外からの来訪者となっている。つまり、住民が気付いていない(気にしていない)魅力に引かれて、実に多くの人々が須賀川市を訪れているのである。
また、業種別に純移輸出入収支額を見ると、建設業や電気機械、家具などの製造業や農業が域外から所得を獲得しており、ベッドタウンでありながら、幅広い移輸出産業が存在する特徴がある。一方、住環境の基盤となる小売業や対個人サービス(飲食業など)、公共サービス(病院など)といった川下産業は、域外からの移輸入に頼っており、大幅な域際赤字の原因ともなっている。
岐路に立つ地域の成長戦略
須賀川市は、人口ボーナス期の恩恵を受け、ベッドタウンとして成長し、域外企業の力を借りて住環境を整備してきた。それ故、地場移輸出産業を含めた地域資源の活用が遅れ、域内に所得が残りにくい構造となっている。また、自然に人口が増加するため、ベッドタウンとして選ばれるよう川下産業の育成や地域資源の磨き上げに取り組む動機にも乏しく、このことは、毎日1万人前後の交流人口がありながら民間消費が流入しない(来訪者が須賀川市で消費しない)要因ともなっている。
では、人口オーナス期となる今後はどうか。ウルトラマンという域外の力に頼るだけでは、地球(地域)を救うことはできない。科学特捜隊という自主自立の取り組みがあってこそ地球(地域)が守られるのである。
幸い、須賀川市には住民ですら気付いていない、域外から人を引き付ける豊富な資源がある。今後は、それらに須賀川らしさをまぶし、興味を抱かせるストーリーを重ねて「須賀川ならでは」をつくり上げ、それらの情報発信を続けるという自主“地”立の取り組みが求められる。特に、新型コロナの影響で移動に制約がある今だからこそ、身近にある資源を再発見し、地域ブランドを底上げする機会としていくことも必要ではないか。
今後も域外の企業に頼りながらベッドタウンとしての環境整備を進めていくのか、それとも地域資源の磨き上げを意識しながら川下産業を中心に地域企業の育成により力を入れていくのか、須賀川市の地域戦略は、大きな岐路に立たされている。(前日本商工会議所地域振興部主席調査役・鵜殿裕)
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