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まちの羅針盤 vol.3 輪島のイメージ提供を

石川県輪島市

船乗りに正確な地図と羅針盤が必要なように、地域づくりに取り組むためには客観的なデータが欠かせない。今回は、朝ドラ『まれ』の舞台となった奥能登地方の中心都市である輪島市について、国が提供するRESAS(地域経済分析システム)などのデータを活用しながら、まちの羅針盤(地域づくりの方向性)を検討したい。

誘客力がある地域

地域経済活性化のポイントは、「生産↓分配↓支出」と流れる地域経済循環を太く強くすることであるが、そのためには、まず、どの段階で域外から所得が流入/流出しているのかを、確認する必要がある。

RESASに搭載されている地域経済循環図(2013年)を見ると、輪島市は、地方交付税交付金などの財政移転(分配段階・その他所得)、観光消費(支出段階・民間消費額)によって域外から所得を稼ぐ一方、域際収支(支出段階・その他支出)で大幅に所得が流出している。これは、多くの観光客が輪島市で消費しているが、その商品・サービスは域外からの移輸入品であるため、当地には所得が残りにくい構造であることを示している。

輪島市の滞在人口は年間を通じて国勢調査人口を上回っている。ハイシーズンの5~8月(休日)に至っては、平均滞在人口が2万2155人と国勢調査人口より2000人近くも多く、強い誘因力を持つ集客都市である。しかしながら、地域全体で稼ぐ意識に欠けることから、所得向上につながる観光産業都市としては未成熟というのがこの地の現状であろう。

もう少し詳しく域際収支を見てみると、農林水産業が68億円もの移輸出黒字(所得流入)を稼ぐ一方、飲食・宿泊などの対個人サービスはマイナス11億円、食料品はマイナス59億円の移輸入赤字(所得流出)となっている。農林水産業による産物をそのまま域外へ売却しており、地域内で加工して飲食店などで供するといった、所得を地域に残す取り組みが遅れていることが分かる。

地域資源活用のわな

ただ、確かに農林水産物を中心とする地域資源は、おのずとその土地の特徴を色濃く反映しているが、だからといって、いたずらに活用すればよいというものではない。ややもすれば、地域の特産品だから、良いものだから売れるはずというプロダクト・アウトのわなに陥ることも多い。

富山県・氷見商工会議所が地域経済循環を整えるために推進している「買活! ひみ6億円プロジェクト」では、5万人の住民に毎月千円ずつ地元での消費を慫慂(しょうよう)する一方で、参画する事業者には住民が千円出して買いたくなるような地域産品を活用した商品開発を促している。

また、静岡県・熱海商工会議所の熱海ブランド事業「ATAMI COLLECTION Å―PLUS」では、著名ソムリエ田崎真也氏を特別招聘(しょうへい)審査員に迎え、魅力ある(販売力がある)地元商品を厳選して認定している。いずれも、ユーザーインの観点からも地域の稼ぐ力を高めていこうとしている点に特徴がある。

15年3月の北陸新幹線開業によって、金沢市も輪島市も同年5月、休日の県外来訪者数は前年比で3割近く増加した。その後、金沢市では大きな反動減はなく19年には北陸新幹線開業時を上回る一方、輪島市では反動減の影響が大きく19年にようやく北陸新幹線開業時の水準へと回復している。

金沢市は鼓門をはじめ加賀前田藩の城下町という来訪者のイメージに合った施設などを豊富に提供できている点がその要因の一つであろうが、輪島市はどうか。そもそも来訪者がイメージする輪島らしさを把握し、地域を挙げて共有・提供できているのか、今だからこそ、考えてみる必要があろう。

奥能登の中心都市として人々が集まる集客都市にとどまるのか、それとも輪島らしさを提供することで地域の稼ぐ力を向上させていくのか、いま改めて地域戦略が問われている。

(DBJ設備投資研究所経営会計研究室長、前日本商工会議所地域振興部主席調査役・鵜殿裕)

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