コラム石垣 2019年2月21日号 宇津井輝史

この世界は神が創った。特定の宗教が奉じる神様ではない。ヒトの体ひとつとっても、これほど精緻な設計図を描けるのは神のほかにあるまい。むろん生物は進化する。体を変えてゆくのは種の間の競争を避けるためである。空を生きる場所と定めた種が鳥になったように、どの生態的空間を利用するかは種ごとの戦略である。米国のオズボーンは適応放散と呼び、日本の今西錦司は「棲み分け」と命名した。

▼進化は神のルール、遺伝システムに従う。だがヒトは遺伝によらない進化を実現した。空を飛ぶために、羽根を生やす膨大な時間を省いて飛行機を発明した。科学文明によるものだから遺伝情報を改変したわけではない。人類はこうして「進歩」してきたが、生命科学という方法を手にしてからは、神の設計図・遺伝子を改変する。

▼改変はむろん人類に貢献する技術として始まった。生命の設計図ゲノム(全遺伝情報)を編集し、何度もの交配を重ねることなく穀物や魚の品種が改良された。がんや遺伝子由来の病の予防や治療にも貢献する。

▼従来の遺伝子組み換えでは、DNA配列のどこに入るかは賭けだった。しかしゲノム編集では、特定の遺伝子を狙った場所に組み込める。精度の向上で精子や卵子の段階で改変もできる。

▼中国で昨年11月、エイズに感染しにくい体質に変えるために受精卵にゲノム編集を施した女児が誕生した。神の領域に踏み込む事態である。好みの子(デザイナーベビー)の誕生や命の選別にも繋がる。

▼中国も含め、日本や欧米は遺伝子を改変した受精卵を人体に戻すのを禁じる。この技術の健全な発展のために、生命倫理をめぐる国際的な合意が待たれる。科学界だけでなく、思想界の仕事でもある。

(文章ラボ主宰・宇津井輝史)

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