武田神佛具店
千葉県千葉市
藩の武士から塗師屋に転身
千葉県千葉市の中心部、かつては繁華街として栄えた場所に、武田神佛具店はある。江戸の東を守る佐倉藩の武士だった武田が、明治19(1886)年にこの地で、寺の内陣やおみこしの塗り替え、金具の付け替えなどを行う塗師(ぬし)屋として商売を始めたことがきっかけになったのだという。この経緯について、四代目で社長を務める武田圭司さんはこう語る。
「廃藩置県で佐倉藩がなくなり、創始者は自分で商売をする必要に迫られました。下級とはいえ武士だったものですから気位が高く、寺社が管轄するおみこしを扱う商売ならば体裁がいいだろうということで始めたようです。武士だったので手に職がなく、職人さんを集めて仕事を受けているうちに、徐々に仏具も扱うようになっていきました」
以来、同じ場所で商売を営んでおり、辺りは大正時代から昭和時代にかけて繁華街となり、料亭や呉服店などが並ぶにぎやかな地域となった。その後、仏壇を扱う商売が大きく栄えたのは、太平洋戦争が終わり人々の気持ちや暮らしが落ち着いてきた昭和30年代からだという。
「千葉市のこの辺りも空襲で焼け野原になりました。家が燃える中、多くの人たちが仏壇から位牌だけを持ち出してなんとか逃げ出しました。戦後間もない混乱の時代で、亡くなった方々のために何もしてあげることができなかった。そして、自分たちの生活が落ち着いて心に余裕ができたことで、家に仏壇を入れて、戦禍で亡くなった親族を供養してあげようという人が増えてきたのです。このころが仏具商が一番繁盛した時期でした。バブルのころには1千万円台の仏壇を納めたこともあるほどです」と圭司さんは言う。
宗派ごとに異なる様式に対応
仏壇は、同じ仏教でも宗派によってその様式が異なる。また、同じ宗派の中でもさらに細かな違いもあるという。それらすべてに対応できるように、武田神佛具店ではそれぞれの様式の仏壇を各種取りそろえている。そのため、店内には大小さまざまな形の仏壇が3部屋に分かれて陳列されている。
「お客さまはお寺からの紹介や、電話帳の広告を見ていらっしゃることが多いのです。皆さま、いい仏壇を買いたいというお気持ちを持っていらっしゃいます。ですから、その思いにしっかりとお応えできるようにしておかなければなりません。また、ご予算や仏壇を置くスペースもご家庭によってさまざまですので、大小取りそろえておく必要があります」
圭司さんによると、仏壇は高いから必ずしも大きいわけではなく、使われる材料によって値段が大きく変わるという。「例えば同じ黒檀(こくたん)を使っていても、表面だけに貼ってあるものと、無垢(むく)材を使っているものとでは値段がまったく違います。また安い合板を使っていても、塗料が塗ってあるので見た目は変わらず、プロでなければ見分けがつきにくい。そういったところもしっかりとご説明して、お客さまが納得したものをご購入いただいています」
最近は、仏壇のお参り作法を知らない若い人が増えてきたため、それについても説明してあげることが多いという。
厳しい状況を乗り越えていく
経済が発展し、社会が変革していく中で、仏具店を取り巻く状況も大きく変わってきた。 「仏具店にとって、今が一番厳しい時代といえるかもしれません。まず、仏壇を販売するところが増えました。ホームセンターでも買えるほどです。ほかにも、葬儀屋さんは以前は葬儀を行うだけでしたが、今では仏壇から墓石まで仏具に関するものも販売しています。一つの場所ですべてをそろえたほうが楽だと考える遺族の方々も多くいらっしゃいますから」
それに加えて、今では家が洋風化して床の間や仏間がないところが多く、大きな仏壇を置ける場所がない家がほとんどになっている。さらには、繊細な仏具をつくる技術を持った職人が少なくなり、海外で生産されたものが輸入されるなど、生産体制も大きく変わってきているという。
「このような状況ですので、店が今後どうなるかはまだ分かりません。私には息子がいますが、会社勤めをしており、今のところ店を継ぐことは考えていません。親が商売で苦労している姿も見ていますからね。これは私どもだけでなく、小売業全体が同じ状況で、この周辺の小売店も後継ぎがいなくてどんどんなくなっています。それでも私どもは、仏壇を備えて神仏を敬い、祖先に寄り添う気持ちを持つお客さまがいるかぎり、この商売を続けていきます」
厳しい状況が続く中でも、武田神佛具店はこれからも神仏とともに暮らす生活を支えていく。
プロフィール
社名:武田神佛具店
所在地:千葉県千葉市中央区中央3-12-9
電話:043-222-4790
代表者:取締役 武田圭司
創業:明治19(1886)年
従業員:4人
※月刊石垣2018年10月号に掲載された記事です。
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