「認知バイアス」という言葉を聞いたことはありますか。これは人間が物事を決める際に、先入観や経験則、直感などに頼って、合理的ではない判断をしてしまう心理傾向のことです。認知バイアスには多くの種類がありますが、医療や健康に関して何らかの判断をし、選択するようなときにも影響を及ぼします。
例えば、3カ月ほど前から耳鳴りが気になっているとします。日常生活に支障はないので、病院の受診を躊躇(ちゅうちょ)しています。こんなときにしてしまいがちなのは、自分の考えや願望を肯定してくれるような情報ばかり探して、反対意見となる情報を見ようとしないことです。「3カ月間特に変化もないし、病院に行くほどでもないだろう」という自己判断を後押ししてくれる情報しか受け入れたくないのです。
しかし、病院で検査もせず、ほかの症状があるかどうかも検討しないで、自己判断をするのはお勧めできません。耳鳴りを引き起こすものとして、突発性難聴、老人性難聴、耳管狭窄症(じかんきょうさくしょう)、耳硬化症(じこうかしょう)、メニエール病、聴神経腫瘍など耳に原因のあるものから、ストレスや過労など心因的要因によるものなど幅広い病気が考えられます。間違った判断をしないためには、意識的に自分とは反対の意見にも耳を傾ける癖をつけることが大切です。
ただし、病院を受診することが100%正しいとも言い切れません。受診しても「異常がない」とか「原因不明」と言われて、結果的に受診した時間や費用が無駄になることはあります。あるいは、医師の説明に納得できずに、かえって混乱してしまうこともあるかもしれません。とはいえ、受診しないことで症状の原因が分からず、不安を抱いて過ごす時間が長くなったり、治療開始が遅れて重症化し、「早く受診すればよかった」と後悔したりすることは避けたいものです。
人間誰しも考え方の癖や傾向はあるものです。特に健康面に関しては、認知バイアスがあることを踏まえた上で、何かを判断し、意思決定をする場面では、自分の考えを肯定する意見と反対する意見、そうすることのメリットとデメリットの両面を考慮して、よりよい答えを導くようにしましょう。