長く日本の海外生産拠点であり、巨大な市場も含めて日本と深い経済関係を持ってきた中国だが、昨今、関係が急激に冷え込み、特定の国への経済的依存の危うさを露呈させた。一方で、日本にとって中国に次ぐアジアの製造拠点であり、巨大市場としての可能性も秘めるASEAN(アセアン)への期待が高まっている。今号はASEANを有望な市場と考え、進出した企業の決断に迫った。
岩手・盛岡で生まれたクラフトビールを世界の人たちにも選んでもらえるように
盛岡市にあるベアレン醸造所は、2001年に創業し、2年の準備期間を経て03年からクラフトビールの醸造を始めた。創業から25年の間に、地道な努力により徐々にファンを獲得し、今では年間40種類ほどのビールを製造している。同社は、10年以上前から海外輸出を始め、クラフトビールの本場・米国だけでなく、中国、台湾、そしてASEAN諸国ではシンガポールなどに製品を輸出している。
ドイツの伝統的製法を踏襲 国内外で高い評価を得る
クラフトビールとは、小規模な醸造所が大手メーカーとは異なる味や製法にこだわってつくるビールのこと。日本では1994年の小規模ビール製造の解禁以降、地域性や独自性を打ち出した醸造所(ブルワリー)が全国各地で増えている。日本酒の地酒に似て、地域に根ざしたビールが多いことから、「地ビール」とも呼ばれている。
岩手県盛岡市にあるベアレン醸造所もその一つ。創業者の一人で、現在は社長を務める嶌田洋一さんは、自社のビールに対するこだわりについてこう語る。
「ヨーロッパの伝統的なスタイルのビールを紹介していくため、ドイツで100年以上前に使われていた設備を日本に運んで設置し、ドイツの伝統的な製法を踏襲してビールをつくっているのが特徴です。創業当初は、ドイツ人のマイスター(資格を有した職人)が中心となり製造していましたが、今ではその技術を受け継いだ日本人の職人が手づくりでビールをつくっています。数量限定品も含めて年間40種類ほどのビールを製造し、それらを販売するとともに、子会社が市内で経営する直営レストラン5軒でも提供しています」
同社がつくるビールは、独特のコクと飲みやすさの両立が支持を受け、定番のラガーや黒ビールは高い人気を誇っている。それだけでなく、2015年には日本外国特派員協会主催の第1回「世界に伝えたい日本のクラフトビール」においてグランプリを受賞。さらに23年にはドイツの国際ビールコンクール「ファイネスト・ビア・セレクション」において、黒ビールの「シュバルツ」が国際ビール部門の第1位に輝くなど、名実ともに日本のみならず世界からも評価される味と品質を備えている。
商社任せだった輸出から現地業者との直接取引へ
現在は、世界的に評価されているベアレン醸造所だが、輸出を始めたのは国内のグランプリ受賞前のことだった。当時のことについて、嶌田さんは振り返る。
「クラフトビールは、世界的な市場があり、世界規模で捉えていく視点が重要だと考えていました。商品が売れるようになると商社からお声掛けがあり、経験になると考えてシンガポールと香港への輸出を始めました。当初は、免税書類の準備以外はほぼ商社任せで、輸出の知識もない状態からのスタートでした。そして、15年に外国特派員の方々から評価されてグランプリをいただいたことで、海外市場にさらに力を入れていこうと考えるようになりました」
そんな中、台湾の業者から直接のオファーがあった。その人は岩手県に縁があって何度も岩手県を訪れるうちにベアレン醸造所のビールに注目し、新規事業としてクラフトビールの輸入を考えるようになったのだという。
「台湾と直取引を始めるに当たり、輸出業務の勉強をするためにジェトロのセミナーに参加し、商談会にも参加しました。輸出に必要な手続き、書類の準備も、ジェトロに教えてもらいながら進めましたね。また、ジェトロの伴走型商談支援プログラムの支援を受けたことが、オーストラリアの業者からの受注につながりました」
その後も、米国や中国などとも取引を始め、ASEANでは商社経由も含めてタイ、マレーシア、シンガポール、カンボジアと輸出先を拡大。コロナ禍で取引が途絶えたところもあるが、タイとシンガポールは日系スーパーや日本食レストランを中心に、途切れることなく輸出が続いている。
海外輸出を強化するため缶ビール専用工場を新設
現在は輸出担当の社員がいるが、当時は専務だった嶌田さんが取引先との対応を兼務していた。
「直接取引で難しかったのは、やはりお金の問題です。もう少し安くしないと売れないと言われたり、販促にお金を出してほしいなどと言われたりしました。経営が安泰という状況ではなかったので、どこまでお金をかけるかという判断には難しいところがありました」
その一方で、年々拡大する国内需要への対応と輸出を強化するため、19年に缶ビール専用工場を新設し、瓶ビールのみだった商品群に缶ビールを加えた。
「瓶に比べ輸送コストが安いだけでなく、世界市場でクラフトビールは缶が増えており、缶じゃないと売れない国もあります。ただし、アジアでは瓶の方が高級感があるという理由で好まれています。瓶の方が価格は高いのですが、それでも瓶の方が売れています」
現在の輸出の売り上げの割合は全体の2〜3%。これをさらに伸ばそうと、海外市場の開拓を積極的に続けている。その際、輸出向けの展示会よりも、ジェトロなどのマッチング商談会に参加した方が成約率が高いという。
「展示会は、ブースに多くの方が来ても、商談に結びつく数は少ない。それよりマッチング商談会の方が確率が高いので、そちらに力を入れています。今後は既存の取引先との関係をさらに深めながら、長く付き合える海外パートナーを見極めていきたい。海外でも『ベアレンでなければ』と選ばれる存在を目指し、輸出の割合5%を目標に据えつつ、数字にこだわらない堅実な展開を進めていきます」
ベアレン醸造所は、地域に根差した本物の味を強みにして、海外の人たちにも選ばれる存在を目指し、着実に歩みを進めている。
会社データ
社 名 : 株式会社ベアレン醸造所
所在地 : 岩手県盛岡市北山1丁目3-31
電 話 : 019-606-0766
HP : https://www.baerenbier.co.jp
代表者 : 嶌田洋一 代表取締役社長
従業員 : 約90人(グループ全体、パート・アルバイト含む)
【盛岡商工会議所】
※月刊石垣2026年4月号に掲載された記事です。
