“地域の味”として地元で親しまれている人気のグルメ店がある。そんな店には味の良さだけではなく、人を引きつける秘密がある。“隠し味”はそれぞれだが、アップサイクルや食品ロスの軽減など環境に対する経営者の哲学と提供する商品へのこだわりが一層おいしくしている点も見逃せない。
柳川の精肉職人がたどり着いた 牛への愛あふれる黄金カレー
福岡県柳川市にある清柳食産は、元々は精肉店だったが、現在は食堂も営んでいる。食堂の看板メニュー「博多和牛の黄金カレー」は、地元のグルメグランプリで何度も優勝した逸品である。このカレーには「肉一筋62年」という創業者が、長年にわたって培ってきた肉への情熱と、命あるものへの深い感謝、そして地域を思う心が凝縮されており、全国からファンが訪れて行列が絶えない。
「命を余さずいただく」牛への愛から生まれた味
清柳食産は、創業者で現在も代表を務める堤清美さんが、1989年に設立した。堤さんは、15歳の頃から神戸の精肉店で修業を積み、その後、故郷の柳川に戻り、スーパーの精肉部門勤務を経て独立した。当初は小さな精肉店・惣菜店として開業し、後に現在の広い店舗へ移転した。今では全国から客が訪れる人気店だが、その原点は「まちのお肉屋さん」である。
同社の名物「博多和牛の黄金カレー」の最大の特徴は、精肉店ならではの材料使いにある。一般的には市場に出回らない筋の端や、各部位の肉のブロックを成形する際に出る肉の切れ端を細かく刻んで煮込んでいる。同社のカレーが誕生した背景には、堤さんの牛に対する深い愛がある。
「私は牛さんが大好き。人間を支えるために生きてきた牛さんのことを考えれば、100%食べてあげることが供養になる。かけらの肉でも捨てずに使い切りたい」と語る堤さんの信念に基づき、他店では廃棄されるような血管や軟骨の周りの肉、脂身も丁寧に下処理し、カレーに使う。このカレーの原形は「もったいない」という思いから、堤さんの妻が従業員向けの「まかない」としてつくっていたものだ。
しかし、商品化への道のりは平たんではなかった。和牛特有の脂が強すぎて、「一口目はおいしいが、食べ進めるとしつこい」という課題に直面し、研究に研究を重ねた。アクを何度も丁寧に取り除き、脂のうまみだけを残してしつこさを消す。何日もコトコトと煮込み、下処理の仕方を何度も見直した。62年以上にわたり肉を扱ってきたプロの経験と、一切の妥協を許さない本気の試行錯誤が、現在の「とろとろに溶けかかった肉のうまみが凝縮された味」を完成させた。「高くてうまいのは当たり前。安くておいしいのが一番。どこまで値段を下げられるかは、こちらの企業努力」と堤さんは語る。和牛ステーキがのって1250円(税抜き)という驚きの価格は、精肉店としての意地と工夫のたまものだ。
筑後七国の頂点へ カレーが生んだ信頼と効果
このカレーが世に知れ渡るきっかけが、2012年から同社がエントリーしている「筑後七国まかない飯グランプリ」だ。このイベントは、柳川市など福岡県南部の「筑後七国」に、久留米市などを加えた地域の飲食店が、普段はスタッフしか食べられない隠れたうまいものを競い合う祭典である。同社はこの大会で何度も優勝を飾り、地元のマスコミに取り上げられ、知名度は全国区となった。
現在では、午前中から行列が絶えない盛況ぶりだが、驚くべきはその相乗効果である。カレーの評判が上がるとともに、本業である精肉の売り上げも伸びた。「これだけおいしいカレーをつくる店なら、肉も間違いないだろう」という信用が生まれ、個人客だけでなく、ホテルや学校、幼稚園などからの業務用卸の注文も急増した。
また、環境への配慮も徹底している。カレーに使い切れない牛の脂も捨てず、大きな釜で熱して精製し、自家製の揚げ油として再利用している。この油で揚げるコロッケなどの惣菜も人気商品だ。
地元・柳川への恩返しと次世代へつなぐ食育の輪
同社の活動は、店舗だけにとどまらない。同社専務の池松英明さんは、柳川商工会議所青年部(YEG)のOBであり、「地元を盛り上げたい」という強い郷土愛を持っている。その思いは地域資源を活用した商品開発にも表れている。その代表例がオリジナル調味料「のりネー酢"(ず)」だ。福岡県産の本醸造しょうゆ、柳川産の米粉、有明海産ののりを独自の配合でブレンドした。このように地元にある農水産物を、自分たちの手で価値ある商品に変えて発信している。
さらに、牛への感謝を伝える活動として、地元の小学校などでの食育活動にも力を入れている。「人間はほかの命をいただいて生きている」というメッセージを、次世代を担う子どもたちに直接伝えているのだ。
堤さんは「お客さまに喜んでもらうのが先。食べた時の『幸せ』という顔を見られるのが一番うれしい。そのためにこれからも勉強と努力を続けていきたい」と語る。今後の展望として、和牛のうまみを凝縮したスープづくりや、そのスープを生かしたラーメン、和牛スープカレーといったメニューの開発など、その創造意欲は衰えることを知らない。同社の挑戦は、地域をつなぐ大きな輪となっている。命への感謝が隠し味となった黄金のカレーは、今日も訪れる人々に幸せな時間を届けている。
会社データ
社 名 : 有限会社清柳食産(せいりゅうしょくさん)
所在地 : 福岡県柳川市大字沖端町82
電 話 : 0944-72-9834(代)
HP : https://seiryufoods.co.jp
代表者 : 堤 清美 代表取締役社長
従業員 : 7人(パート含む)
【柳川商工会議所】
※月刊石垣2026年3月号に掲載された記事です。
