“地域の味”として地元で親しまれている人気のグルメ店がある。そんな店には味の良さだけではなく、人を引きつける秘密がある。“隠し味”はそれぞれだが、アップサイクルや食品ロスの軽減など環境に対する経営者の哲学と提供する商品へのこだわりが一層おいしくしている点も見逃せない。
おからのアップサイクルフードで万博閉幕後も大阪から世界へ
大阪府吹田(すいた)市にあるラパンは、1999年に創業し、地域に根差してきたパン屋だ。現在は、豆腐の製造過程で出る“おから”など、廃棄される可能性のある食品素材に新たな価値を加え、アップサイクルするフードブランド「OKARADA®」を運営し、地域の枠を超えて注目を集めている。小さなまちのパン屋が、いかにして世界を目指すフードブランドを生み出したのか、その挑戦を追った。
米国で触れた世界の潮流と「もったいない」の融合
ラパンは1999年、吹田市江坂でパンの製造販売店として創業した。江坂を中心に最大5店舗を構えていた人気店で、地域の人に愛されていたが、添加物を使わないこだわりゆえに、パンの賞味期限は短く、売れ残れば廃棄せざるを得なかった。
「子どもの頃から『もったいない』が当たり前だったので、食べられるものを捨てることに、罪悪感を抱いていました」と、同社副社長の久保恵理さんは振り返る。そんな中、来店客から切実な相談を受けた。小麦アレルギーを持つその人の家族は一般的なパンを食べられないという。そこで、熟練のパン職人で夫でもある同社社長の久保晃一さんが、試行錯誤の末にグルテンフリーのカヌレを開発した。「目の前の人を笑顔にするために本気で取り組む」というこの姿勢が、その後の事業へもつながっていく。
2016年、同社は売れ残ったパンを自家製の生パン粉に加工し、それを活用する串カツ屋「作々(サクサク)」を江坂に開業した。パン屋になる前、さまざまな商売を経験したことのある恵理さんが「串カツ屋しかない」と決めた。その大阪らしい発想と、パンのロスを価値に変える「アップサイクル型飲食店」のモデルは注目を集め、串カツ屋は繁盛した。
この時期、同社のさらなる転機となったのが、地元の百貨店からの依頼だった。米国ニューヨークの味を百貨店の催事で再現するため、現地でパンやベーグルなどの製造を学ぶメンバーとして、同社が選ばれた。学生時代に留学経験があり、英語が堪能な恵理さんは、パン職人である晃一さんに同行。有名店での修業やレシピ習得に奔走しながら、現地のビジネスの在り方を肌で感じた。同時に、世界的な「サステナブル」という潮流と、自身の根底にある「もったいない」という思いが重なることを確信した。
廃棄されるおからを使ったアップサイクル食品の誕生
恵理さんが次に取り組んだのが、日本の伝統食材でありながら大量に廃棄されている「おから」を使うことだった。
「このアップサイクルも、本気で開発しないとビジネスとして成功しないと思ったので、後ろ髪引かれる思いでしたけど、複数あったパン屋を1店舗にしました」と語る恵理さん。新商品は、グルテンフリーでビーガン対応の食品にするため、添加物や卵、乳製品を使わずに開発した。難しかったが、長年の製パン技術を応用し、香ばしさと食感を引き出すことに成功する。こうしてアップサイクル・フードブランド「OKARADA®」シリーズが誕生した。おからを中心に、ビールの搾りかすである麦芽かすなども活用したグラノーラやスナックなどの商品は、健康志向の高まりとともに、東京や海外の展示会でも高く評価されるようになった。
この独自の取り組みを携えて同社は23年、大阪商工会議所のビジネスマッチングサイトに登録。このサイトをきっかけに、25年の大阪・関西万博に出店することになった。アフリカのブルンジ共和国から声がかかり、同万博での公式プロバイダー事業者としてカフェ運営を任されることになったのだ。
万博で大好評のパフェ その商売の心を伝える
万博会場でのカフェ運営は、当初、ブルンジ側が「エスプレッソしか売らない」と主張したが、恵理さんは大阪の酷暑を予測し、自社製品を生かした「カヌレパフェ」を提案した。環境への配慮と日本の伝統食材のおからを組み合わせたこのスイーツは、SNSなどで瞬く間に広まり、ブースでは連日、長蛇の列ができた。恵理さんは自ら店頭に立ち続け、盛り付けの向きにまで目を光らせた。その本気度は来場者に伝わり、「想定の1000倍を超える売れ行き」を記録。この経験は、スタッフにとっても、自分たちの商品が世界に通じることを確信する大きな財産となった。
万博閉幕後の25年10月末、同社の店舗は「パフェとギフトの店」としてリニューアルオープンした。万博で好評だったカヌレパフェのほか、万博で生まれた縁を生かし、ブルンジをはじめとする海外の化粧品などの取り扱いも開始した。OKARADA®シリーズの本格的な輸出も視野に入れている。こうした成功の軌跡を、恵理さんは「輸出のハードルは高くない。自分の商品を3分でいいから英語で語れるようになれば、道は開ける」と大阪商工会議所などの講演で伝えている。
今後について「自分たちが大切にしている『もったいない』を形にし、近所の人に自慢してもらえる店であり続けたい」と語る恵理さん。そのいちずな思いが、大阪から世界へと、持続可能なおいしさの輪を広げている。
会社データ
社 名 : 有限会社ラパン
所在地 : 大阪府吹田市円山町21-15
電 話 : 06-6389-7784
HP : https://www.instagram.com/okarada_official/
代表者 : 久保晃一 代表取締役
従業員 : 10人(パート含む)
【吹田・大阪商工会議所】
※月刊石垣2026年3月号に掲載された記事です。
