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コラム石垣 2020年4月1日号 宇津井輝史

スポーツの記録を伸ばす上で、用具のサポートがどこまで許されるのか。米国N社製厚底靴が問題になったのは記憶に新しい。2018年にこれを履く選手がマラソンで2時間1分台の記録を出し、その後陸上長距離で好記録を連発した。今年正月の箱根駅伝でも8割の選手が使って区間新記録を量産した。

▼過去には北京五輪で好記録を連発した高速水着が2年後に禁止。野球で本塁打を量産したコルク入りバットもすぐに禁止された例がある。果たしてN社の靴は選手間に不公平を招くのか▼世界陸連は2月、靴底の厚さは4センチ以下、靴底に埋め込むカーボンファイバーの板は1枚まで、市販品に限る、などを条件に使用を認めた。高いクッション性と脚を前に運ぶ効果は、ここまでなら選手を必要以上にサポートしたことにはならないと判断した。妥当な結論である。ただし、靴底の改良から生まれる反発係数などの科学的指標は示されなかった。用具の改良進化と競技の魅力の関係は微妙なバランスの上に立っている。

▼人間は進化に取りつかれた種である。むろんその意思あればこその今日の繁栄である。ヒトの肉体の限界を科学と技術の力で補ってきた。重いものを持ち上げる、速く走る、遠くのものを見る、空を飛ぶ、暑さ寒さを防ぐなど、いずれも自然な肉体を遺伝子レベルで改造することなくその限界を乗り越えてきた。技術革新は人類進化のエンジンである。

▼これまでの改造は肉体の外側にあった。では厚底靴に仕込んだ板を人の足裏に埋め込む行為を陸上界はいつか認めるだろうか。AI(人工知能)と脳を繋ぐ技術はそこまで来ているが、もし小さな機械を脳に埋め込んだ場合、人間の定義は変わるのだろうか。

(コラムニスト・宇津井輝史)

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