日商 Assist Biz

更新

コラム石垣 2020年3月21日号 神田玲子

日本政府の対応に海外から厳しい目が注がれている。豪華客船ダイヤモンド・プリンセス号。世界の各地から集まった人々の夢を乗せた船が、一変して新型コロナウイルスの感染源となった。日本政府の対応を巡って、初期の対応や現場での隔離方法に過怠があったと非難されている。

▼海上の密室空間が、ウイルスとの闘いで、いかに不利な場所であるかは、百年前に経験済みだった。速水融『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ』によると、日本の軍艦「矢矧(やはぎ)号」がスペイン風邪に襲われたのは、1918年のことである。シンガポールに停泊していた矢矧号は10人の罹患(りかん)者が出たことを知りながらも、そのままマニラに向けて出港した。この判断ミスが、後に乗組員の家族を悲しませることになる。料理人も感染したことで、飯と塩だけの粗末な食事となり、体力の低下はウイルスの感染拡大に拍車を掛けた。一週間後には、実に469人の乗組員中306人が罹患し、最終的な死亡者は48人に達した。

▼人間は洋上の船という密室空間においてウイルスに勝ち目が全くない。船の中で感染した人を隔離をすることは、船の構造を大きく変えない限り不可能である。日本政府は矢矧号の経験を今回の対応に生かせたのだろうか。歴史と現状を重ねて、日々刻々と感染拡大の動向を分析し、同じ轍(てつ)を踏まずに済むことはできなかったのだろうか。海外のメディアが指摘するように、もし、一度決めたらそれを見直すことが困難な体質が日本にあるとすれば、それは危機対応にとって致命的となる。政府が自身の正当性や国民の支持率を意識している限りは、ウイルスの猛威を止められはしまい。

(NIRA総合研究開発機構理事・神田玲子)。

次の記事

コラムニスト 宇津井輝史

スポーツの記録を伸ばす上で、用具のサポートがどこまで許されるのか。米国N社製厚底靴が問題になったのは記憶に新しい。2018年にこれを履く選手がマラソンで2時間1分台の記録…

前の記事

政治経済社会研究所代表 中山文麿

わが国の新型コロナウイルスへの水際対策は奏功せず、感染が全国に拡大した。今はこのウイルスの感染経路が追えない市中感染の状態にあり、持病を有する高齢者らが重篤に陥らな…

関連記事

東洋大学大学院国際観光学部客員教授 丁野朗

東京都を除外する異例の形で始まった「GO TOトラベル」。その成果や問題点を巡ってはいまだに議論もある。しかし、このキャンペーンの背後で、コロナ禍に立ち向かい、地域の事…

コラムニスト 宇津井輝史

戦争が終わって75年が経つ。コロナ禍の終戦記念日はひっそりと過ぎていった。1世紀の四分の三という遥かな時間はどういう意味を持つか。何よりもまず、この間、この国はいかな…

NIRA総合研究開発機構理事 神田玲子

慶應義塾大学の創設者である福澤諭吉の『文明論之概略』には次の一節がある。「西洋諸国の学問は人民一般の間に起こり(中略)学者の事業にて、其行はるるや官私の別なく、唯学者…