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コラム石垣 2019年1月1日号 コラム「石垣」執筆者に聞く 2019年 日本の道しるべ

宇津井 輝史  文章ラボ 主宰

「平成」が終わり、新たな時代の幕開けとなる2019年。本稿では、本紙コラム「石垣」執筆者に2019年の日本そして世界の行方について聞いた。

大きな理論が求められる

宇津井 輝史  文章ラボ 主宰

グローバル経済は近年の傾向ではない。15世紀後半からの大航海時代が航路を開拓して以後、世界は一貫してグローバル経済の道を歩んできた。世界の経済規模は拡大し続けた。中断を余儀なくされたのは1929年の世界恐慌だった。世界はブロック化に反転する。 だが2度目の世界大戦が終わる1945年以降、グローバル経済が復活し、冷戦終結後はすべての国がプレーヤーとして自由貿易に参加するようになった。情報革命によって通商が加速し、世界を縮めるように見えた。もう国境は無意味だ、国はいらない、世界はひとつになると叫ぶ論者が増えた。 だが実際の世界は、市場を奪い合う帝国主義の傾向を強め、富の偏在や格差の拡大で対立のリスクを高めている。米欧では国民の内向き志向も強まる。経済の拡大と国家の役割の間でどう折り合いをつけるのか。もう国家は不要なのか。 貧富の拡大や各国の文化伝統を守るためという、ありふれたグローバル批判には力がない。そんな「些末」なことでなく、グローバル経済が国家の意味を失わせるなら、人が人でなくなると言ったのは、20世紀ドイツの法哲学者カール・シュミットである。シュミットは、仮に「世界国家」が成立すればそこには政治もなく、それを可能にする理性もないと喝破した。政治はあくまで国家に属し、人は国民になって初めて成熟した精神に達すると言う。世界は今こそ「大きな理論」を求めている。 日本の政治はどうか。民主主義を多数決と割り切ってはいまいか。対立する2つの意見を新たな第三の結論にまとめるのが苦手である。だが空気を読み、他人を斟酌するのは得意だ。ならばそうした資質を可視化する政治技術を開発したらどうか。日本型の政治哲学も求められる。

ビジョン示せる国に

神田 玲子  公益財団法人NIRA総合研究開発機構 理事

「人が何を言おうとも、どんなに歩きづらくとも、自分はこの道を進む。なぜなら、そこに意義があるから」。これは、ビジョナリーカンパニーで知られる著者たちが2007年に出版した本の引用である。新しい時代を切り開き、世界に衝撃を与え続ける人々を「ビジョナリーな人々」と呼んでいる。 今、国際社会は進むべき道の合意が取れずにいる。昨年の6月に開催されたG7サミットでは貿易を巡って会議が紛糾し、秋のAPECではコミュニケの合意に至らず、G20では保護主義への懸念が示せなかった。 こうした一連の出来事は、一部の国のトップの資質ではなく、世界が共有できるビジョンがないことに原因がある。各国首脳は、世界が支持するような将来像を示せないばかりか、国民に向けてすら自らの国のビジョンを語れずにいる。 この二つは表裏の関係である。欧州での反移民政策を掲げる極右政党の躍進や、増税に反対する暴力的な抗議デモという事態に直面して、ビジョンづくりに弱腰となる政府に、他国の合意を取り付ける説得力はない。 さて、国民を束ねるビジョンを打ち出せないことは、表面上、政治的に安定しているとみられている日本も例外ではない。政府は、都合の悪い問題は先送りし、国民との議論を避けているようにも見える。高齢化問題一つとってみても、維持可能な制度の将来像を国民に示すことができていない。 今年は、日本がG20の議長国。国際社会の調整役が期待される。自国のビジョンを示せていない国に、分断しつつある世界をまとめることができるのか。負担や忍耐を強いる困難な道かもしれないが、その意義を国民に納得させる「ビジョナリーステート」にならなければ世界の分裂など止められやしない。

「ノマド」の時代

丁野 朗  東洋大学大学院国際観光学部 客員教授

古くて新しい言葉「NOMADO(ノマド)」が注目されている。もともと中央アジアなど乾燥地帯に暮らす遊牧民を指す言葉だが、近年ではIT機器やモバイル通信を駆使して仕事する新しいワークスタイル=ノマドワーカーなどを指すことが多い。 フランスのポスト構造主義哲学者、ジル・ドゥルーズ(Gilles Deleuze)(『ノマドの思考』)ブームも、もう一つの背景であろう。 しかし、翻って「旅」はもともとノマド的である。民俗学者・柳田國男は、旅の原点は「租庸調を納めに行くみちのり」を意味すると指摘する。行く先々の民家で物乞いする「給べ(たべ)」からきているという。 もとより、狩猟採取時代から人類は食料を得るために「旅」をしていた。しかし、探し求めたのは食料だけではない。 昨年5月、新たに日本遺産に認定された「星降る中部高地の縄文世界~数千年を遡る黒曜石鉱山と縄文人に出会う旅~」(長野県・山梨県)は、標高1500㍍を超える高地を訪ね、縄文人が数千年にわたって黒曜石を掘り続けた黒曜石鉱山をモチーフとした物語だ。霧ケ峰高原の「星糞峠」には、縄文人が黒曜石を求め、掘り出していた痕跡が見事に残されている。 旅することが規制される時代には、巡礼などの宗教旅や、学び(修学)を理由とする旅が盛んになる。だが、現代では、その「言い訳」は必要ない。 大手旅行会社JTBの調査では、一人旅は年々増加している。一人旅をしたことがある人は60%を超えるという。「自由で気まま」「趣味を満喫できる」といった理由が主である。 小樽に住む古い友人は、「本当の旅の発見は景色や食を愛でることではなく、新しい視点を得ること」と喝破していた。まさにノマド旅の時代である。

2020年の後を見据える

時事通信社 常務取締役 中村 恒夫

「新年は『2020年の後』に向けて、準備する年になるでしょう」。暮れのパーティーで何人かの財界人が異口同音に指摘していた。その意味を問うと、米大統領選の動きを見据えた経営を行うとともに、東京五輪パラリンピック開催後の景気動向を自社に合わせて分析しておくことが「最も重要だ」というのである。 米国の動向は予想がつかない。トランプ大統領が再選に挑戦するなら、選挙の前年から、一段と強力な貿易政策を打ち出してくるのは間違いない。日米協議、米中協議の動向をつぶさに見ておくことが、まずは肝要といえる。 前回の東京五輪前には、新幹線建設に代表される大型のインフラ投資が相次いで実行された。その反動もあって翌年は景気が低迷、大手証券会社へ日銀が特融に踏み切ったほどだ。財政でも戦後初の赤字国債(特例国債)が発行されている。今年10月の消費増税に伴う還元策は期限が限定され、五輪開催後の景気の息切れが懸念されている。 今回も民間ベースでは「五輪パラリンピックに合わせる」狙いで、設備投資を実施している大手企業が少なくない。大口納入先の注文に応えるため、自社の投資に力を入れている中小企業も数多くあるだろう。投資はいずれ、減価償却費となってコスト上昇要因になる。一時的な受注に合わせて行った過大な投資が、経営の足を引っ張るような事態だけは避けなくてはいけない。 むしろ、受注を経営改革の好機と捉え、数年先の会社の在り方を見据えた上で、投資内容を検討したいところだ。クラウドやAI(人工知能)の活用が拡大し、一方で「有給休暇の年間5日取得」など働き方改革が義務付けられた中で、自動化と人員の配置の行方を踏まえた議論が欠かせないと思う。

世界覆う自国第一主義

政治経済社会研究所 代表 中山 文麿

米国のトランプ大統領は来年の再選のためにアメリカ・ファーストの政策を進める。具体的には中国、日本、EUなどとの貿易赤字の解消や中国とロシアの軍事的脅威を取り除くように動く。なお、ロシアゲートについては、モラー特別検察官も今年は選挙がないので動きやすい。トランプ氏を巡って一波乱あり、米国政治が混乱しそうだ。 中国の習近平国家主席は建国の父である毛沢東主席と同じく終身独裁体制を整えた。国内的には「中国製造2025」を着実に推進し、外交的には、鄧小平の遺訓であった「韜光養晦(とうこうようかい=米の覇権に対抗できる軍事力が持てるまでは静かに国力を高めろ)」の教えを捨て、着々と対外政策を進める。具体的には南シナ海の海上埋め立て基地の整備や一帯一路をてこに周辺諸国の中国化を図る。 イギリスのEU離脱は無秩序離脱が最も可能性が高そうだ。ドイツのメルケル首相は難民に対する寛容政策が裏目に出て、キリスト教民主同盟(CDU)の党首の座を追われた。また、多くのEU加盟国で移民排斥など欧州懐疑派の台頭を招き、今年、欧州議会選挙の実施と欧州委員会委員長の選任が順調に行われるかどうか予断を許さない。 ロシアはクリミアの併合を機に西側諸国から経済制裁を受けている。プーチン大統領はトルコとトルコパイプラインで、ドイツとノルドストリーム2で西側にくさびを打ち込んだ。また、中東ではシリアのアサド政権を支援し、同地域の足場を固めるとともにサウジアラビアのジャーナリストの殺害事件を契機に同国にも触手を伸ばしてくる。 今年、日本はG20の議長国であり、ギスギスした米中間の橋渡しをしたり、WTOの機能改革でも自由貿易体制を堅持したりするなど積極的な外交を展開してもらいたい。

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時事通信社常務取締役 中村恒夫

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東洋大学大学院国際観光学部客員教授 丁野朗

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