政府はこのほど、地方創生に向け、「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」と「総合戦略」を取りまとめた。「長期ビジョン」では、「2060年に人口1億人維持」を目指す中長期展望を示し、「総合戦略」では、「長期ビジョン」を踏まえて、2020年までの当面5年間の国の政策パッケージを示した。国のビジョンと戦略を踏まえ、市町村を含むすべての自治体に地方版の「人口ビジョン」と「総合戦略」を平成28年3月までに策定する「努力義務」が課されている。1月15日に日商幹部と意見交換した石破茂地方創生担当相は、すべての商工会議所を通じて、会員企業への周知を要請している。特集では、国の総合戦略に焦点を当てて紹介する。(こちらを参照)
Ⅰ.基本的な考え方
1.人口減少と地域経済縮小の克服
○地方は、人口減少を契機に、「人口減少が地域経済の縮小を呼び、地域経済の縮小が人口減少を加速させる」という負のスパイラルに陥るリスクが高い。
○人口減少克服・地方創生のためには、3つの基本的視点から取り組むことが重要。
①「東京一極集中」の是正、
②若い世代の就労・結婚・子育ての希望の実現、
③地域の特性に即した地域課題の解決
2.まち・ひと・しごとの創生と好循環の確立
◎「しごと」が「ひと」を呼び、「ひと」が「しごと」を呼び込む好循環を確立するとともに、その好循環を支える「まち」に活力を取り戻す。
①しごとの創生
・若い世代が安心して働ける「相応の賃金、安定した雇用形態、やりがいのあるしごと」という「雇用の質」を重視した取り組みが重要。
②ひとの創生
・地方への新しい人の流れをつくるため、若者の地方での就労を促すとともに、地方への移住・定着を促進する。
・安心して結婚・出産
・子育てができるよう、切れ目ない支援を実現する。
③まちの創生
・地方で安心して暮らせるよう、中山間地域など、地方都市、大都市圏などの各地域の特性に即して課題を解決する。
Ⅱ.政策の企画・実行に当たっての基本方針
1.従来の政策の検証
○従来の政策は、一定の成果を上げたが、大局的には地方の人口流出や少子化に歯止めがかかっていない。その要因は次の5点。
①府省庁・制度ごとの「縦割り」構造
②地域特性を考慮しない「全国一律」の手法、
③効果検証を伴わない「バラマキ」
④地域に浸透しない「表面的」な施策
⑤「短期的」な成果を求める施策
2.まち・ひと・しごとの創生に向けた政策5原則
○人口減少克服・地方創生を実現するため、5つの政策原則に基づき施策を展開する。
①自立性
・構造的な問題に対処し、地方公共団体、民間事業者、個人などの自立につながる。
②将来性
・地方が自主的かつ主体的に、夢を持って前向きに取り組むことを支援する。
③地域性
・各地域の実態に合った施策を支援。国は支援の受け手側の視点に立って支援。
④直接性
・最大眼の成果をあげるため、直接的に支援する施策を集中的に実施する。
⑤結果重視
・PDCAメカニズムの下、具体的な数値目標を設定し、効果検証と改善を実施する。
3.国と地方の取り組み体制とPDCAの整 備
○国と地方の役割分担の下、地方を主体とした枠組みの構築に取り組む。
①5カ年戦略の策定
・国と地方公共団体ともに、5カ年の戦略を策定・実行する体制を整え、アウトカム指標を原則とした重要業績評価指標で検証・改善する仕組みを確立
②データに基づく、地域ごとの特性と地域課題の抽出
・国はデータに基づく地域経済分析システムを整備し、各地方公共団体は必要なデータ分析を行い、地域課題などを踏まえた「地方版総合戦略」を策定
③国のワンストップ型の支援体制などと施策のメニュー化・国は関係府省庁で統一のワンストップ型執行体制の整備に努め、各地域が必要な施策を選択できるよう支援施策をメニュー化し、人的支援も実施④地域間の連携推進
・国は新たな「連携中枢都市圏」や定住自立圏の形成を進め、各地方公共団体は、地域間の広域連携を積極的に推進。
Ⅲ.今後の施策の方向
1.政策の基本目標(4つの基本目標)
【基本目標①】地方における安定した雇用を創出する
→2020年までの5年間の累計で地方に4万人分の若者向け雇用を創出
【基本目標②】地方への新しいひとの流れをつくる
→2020年に東京圏から地方への転出を4万人増、地方から東京圏への転入を6万人減少させ、東京圏から地方の転出入を均衡
【基本目標③】若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる →2020年に結婚希望実績指標を80%、夫婦子ども数予定実績指標を95%に向上
【基本目標④】時代に合った地域をつくり、安心な暮らしを守るとともに、地域と地域を連携する
→「小さな拠点」の整備や「地域連携」を推進する。目標数値は、地方版総合戦略の状況を踏まえ設定。
2.政策パッケージ(具体的な政策パッケージについては左記事参照)
Ⅳ.国家戦略特区・社会保障制度・税制・地方財政など
(ア)国家戦略特区制度との連携
◎国家戦略特区法改正法案の提出
◎「地方創生特区」の指定
(イ)社会保障制度
◎子ども・子育て支援新制度の円滑な施行
◎医療保険制度改革◎地域医療構想の策定
◎地域包括ケアシステムの構築
(ウ)税制
◎地域間の税源の偏在是正などの地方法人課税改革の推進、ふるさと納税の拡充
◎地方創生に資する国家戦略特区における特
◎ 例地方における企業拠点の強化の促進
◎外国人旅行者向け消費税免税制度の拡充
◎子、孫の結婚・妊娠・出産・子育てへの支援
(エ)地方財政
◎地方公共団体が自主性・主体性を最大限発揮できるようにするための地方財政措置
(オ)その他の財政的支援の仕組み(新型交付金)
◎地方公共団体が適切な効果検証の仕組みを伴いつつ自主性・主体性を最大限に発揮できるようにするための財政的支援
(カ)地方分権
◎創意工夫により魅力あふれる地域をつくる地方分権改革の推進
(キ)規制改革
◎「空きキャパシティー」の再生・利用
◎地域における道路空間の有効活用の促進
◎地方版規制改革会議の設置
政策パッケージ
◎「しごとの創生」と「ひとの創生」の政策パッケージ 「しごと」と「ひと」の好循環づくり
⑴地方にしごとをつくり、安心して働けるようにする
(ア)地域経済雇用戦略の企画・実施体制の整備
◎地域特性や課題を抽出する「地域経済分析システム」の開発
◎地域の産官学金労が連携した総合戦略推進組織の整備
◎地域を支えるサービス事業主体の在り方の検討・制度整備
(イ)地域産業の競争力強化(業種横断的取り組み)
→対日直接投資残高を倍増(18兆円↓35兆円)
→2020年までの5年間の累計で若い世代の安定した雇用を約11万人創出など
◎包括的創業支援
◎地域を担う中核企業支援
◎新事業・新産業と雇用を生み出す地域イノベーションの推進
◎外国企業の地方への対内直接投資の促進
◎産業・金融一体となった総合支援体制の整備
◎ 備事業承継の円滑化、事業再生、経営改善支援など
(ウ)地域産業の競争力強化(分野別取組)
→サービス産業の労働生産性の伸び率を3倍に拡大(0・8%↓2・0%)
→2020年までの5年間の累計で若い世代の安定した雇用を約19万人創出など
◎サービス産業の活性化・付加価値向上
◎農林水産業の成長産業化
◎観光地域づくり、ローカル版クールジャパンの推進
◎地域の歴史・町並み・文化・芸術・スポーツなどによる地域活性化
◎分散型エネルギーの推進
(エ)地方への人材還流、地方での人材育成、地方の雇用対策
→2020年までの5年間の累計で東京圏から地方へ約10万人の人材を還流など
◎若者人材等の還流及び育成・定着支援
◎「プロフェッショナル人材」の地方還流
◎地域における女性の活躍推進
◎新規就農・就業者への総合的支援◎大学・高等専門学校・専修学校などにおける地域ニーズに対応した人材育成支援
◎若者、高齢者、障害者が活躍できる社会の実現
(オ)ICTなどの利活用による地域の活性化
→雇用型在宅型テレワーカーを全労働者数の10%以上に増加など
◎ICTの利活用による地域の活性化
◎異常気象や気象変動に関するデータの利活用の促進
⑵地方への新しいひとの流れをつくる
(ア)地方移住の推進
→年間移住あっせん件数1万1000件
・「お試し居住」に取り組む市町村の数を倍増など
◎地方移住希望者への支援体制
◎地方居住の本格推進
◎「日本版CCRC」の検討
◎「地域おこし協力隊」と「田舎で働き隊」の統合拡充
(イ)企業の地方拠点強化、企業などにおける地方採用・就労の拡大
→企業の地方拠点強化の件数を2020年までの5年間で7500件増加
→地方拠点における雇用者数を4万人増加など
◎企業の地方拠点強化
◎政府関係機関の地方移転
◎遠隔勤務(サテライトオフィス、テレワークの促進)
(ウ)地方大学などの活性化
→地方における自県大学進学者割合を平均36%
→新規学卒者の県内就職割合を平均80%など
◎知の拠点としての地方大学強化プラン
◎地元学生定着促進プラン
◎地域人材育成プラン
⑶若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる
(ア)若い世代の経済的安定
→若者(20~34歳)の就業率を78%に向上
→若い世代の正規雇用労働者などの割合について、全ての世代と同水準など
◎若者雇用対策の推進、「正社員実現加速プロジェクト」の推進
◎「少子化社会対策大綱」と連携した結婚・妊娠・出産・子育てのそれぞれの段階に対応した総合的な少子化対策の推進
(イ)妊娠・出産・子育ての切れ目のない支援
→支援ニーズの高い妊産婦への支援実施の割合100%
◎「子育て世代包括支援センター」の整備、周産期医療の確保など
(ウ)子ども・子育て支援の充実
→2017年度末までに待機児童解消
→「放課後児童クラブ」と「放課後子供教室」について、全ての小学校区(約2万か所)で一体的にまたは連携して実施(うち1万か所以上を一体型)
◎子ども・子育て支援の充実
(エ)仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現(「働き方改革」)
→第1子出産前後の女性の継続就業率を55%に向上
→男性の育児休業取得率を13%に向上など
◎長時間労働の見直し、転勤の実態調査など
◎「まちの創生」の政策パッケージ 「しごと」と「ひと」の好循環を支える、「まち」の活性化
⑷時代に合った地域をつくり安心なくらしを守るとともに地域と地域を連携する
(ア)中山間地域などにおける「小さな拠点」(多世代交流・多機能型)の形成
→「小さな拠点」(多世代交流・多機能型)の形成数(具体的数値は「地方版総合戦略」を踏まえ設定)
◎「小さな拠点」(多世代交流・多機能型)の形成
◎公立小・中学校の適正規模化、小規模校の活性化、休校した学校の再開支援
(イ)地方都市における経済・生活圏の形成
→立地適正化計画を作成する市町村数150
→地域公共交通網形成計画策定総数100件など
◎都市のコンパクト化と周辺などの交通ネットワーク形成
◎地方都市の拠点となる中心市街地などの活性化を強力に後押しする包括的政策パッケージの策定
(ウ)大都市圏における安心な暮らしの確保
→UR団地の福祉拠点化(大都市圏の概ね1000戸以上のUR団地約200団地のうち、100団地程度で拠点を形成)
→高齢者施設、障害者施設、子育て支援施設などを併設している100戸以上の規模の公的賃貸住宅団地の割合25%など
◎大都市圏における医療・介護問題への対応
◎大都市近郊の公的賃貸住宅団地の再生、福祉拠点化
(エ)人口減少などを踏まえた既存ストックのマネジメント強化
→民間提案を活かしたPPPの事業規模を2022年までに2兆円に
→住宅の中古市場の流通・リフォーム市場の規模20兆円
◎公共施設・公的不動産の利活用についての民間活力の活用、空き家対策の推進
◎インフラの戦略的な維持管理・更新などの推進
(オ)地域連携による経済・生活圏の形成
→定住自立圏の協定締結など圏域数140
◎「連携中枢都市圏」の形成
◎定住自立圏の形成の促進
(カ)住民が地域防災の担い手となる環境の確保
→消防団の団員数の維持
→全都道府県のLアラートの導入
◎消防団などの充実強化・ICT利活用による、住民主体の地域防災の充実
(キ)ふるさとづくりの推進
→ふるさとづくり推進組織の数1万団体
◎「ふるさと」に対する誇りを高める施策の推進
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