岩手県一関市の「世嬉(せき)の一酒造」という蔵元は、日本酒だけでなく地ビールづくりやレストラン経営にも力を入れている会社です。私は震災ボランティアとして3年前からこの会社のコンサルティングをさせていただいています。お付き合いを始めたころ、震災被害による巨額な蔵の修繕に頭を抱えていた社長の佐藤航さんに、私はこんな話をしました。
「日本人の食文化は、世界を相手にできる可能性を秘めている。確かに今はピンチだが、やり方を変えるチャンスでもある。佐渡島(さどがしま)の『北雪酒造』という蔵元には、業界用語でYK35と呼ばれる製法を用いた『北雪 大吟醸 YK35』という世界から注目されている酒がある。同様に、山口県岩国市の『旭酒造』の『獺祭 磨き二割三分』のように、独自固有の長所をもった酒づくりで飛躍的に業績を伸ばした蔵もある。うちもそうしようじゃありませんか、10億円、20億円の売上を目指しましょう」
以来、世嬉の一酒造は、そのために必要な経営体力づくりにとりかかったのです。ポイントは2つ。一つは地ビールでもっと独自固有の長所をもった商品をつくること。もう一つはレストランを結納式や結婚式の二次会で地域に役立ててもらうためにランクアップさせ、観光客のためだけでなく、内外に地元の食文化の魅力を発信していくという使命も担ってもらうことにしました。まさにできることから始めたのです。
暗中模索ではありましたが、佐藤社長は身を粉にしてさまざまなチャレンジを行いました。その中で、何と山椒(さんしょう)を入れた季節限定のビールや、牡蠣(かき)を使用したビールなどが話題になりました。また、素晴らしいデザイナーの協力により、赤蔵、黒蔵、金蔵という3種の缶ビールの販売も開始しました。1缶310円と少々高値であるにもかかわらず首都圏で好評を得て、徐々に岩手県でも注目されるようになってきました。
気になる業績ですが、2013年にはさまざまな努力が実り始め、喜ばしいことにまずまずの利益を上げることができました。さらに今夏は、コンビニのローソンが、その缶ビールを扱ってくれることになり、利益の倍増をも見込める状態になりました。
実を言うと、同社はまだ会社の根幹となる日本酒づくりの変革には手を付けていません。ただ、思い切った改革はできなくても、手駒の中の危険性の少ないチャレンジで成果を上げているのです。このことはどんな業種にもできることです。小当たりを続けているうちに大当たりを生む力がついていきます。大事なのは飽くなきチャレンジ精神です。それが組織の活性化、元気を生んでいくのです。
お問い合せ先
社名:株式会社 風土
TEL:03-5423-2323
担当:髙橋
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