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真壁昭夫の経済底流を読み解く コロナショックで重要度増すリスク管理

昨年12月に中国・武漢で発生した新型コロナウイルス感染症は、世界的なパンデミックになってしまった。それは、中国国内の経済活動を阻害すると同時に、世界的な供給網=サプライチェーンの機能を大きく低下させることになった。さらに、多くの政府が感染拡大を食い止めるため、学校やレストランなどの閉鎖を実施した。そして人々の動き=動線を抑止するため、需要サイドも抑えざるを得なくなった。その結果、経済活動の需要と供給の両方を抑え込むことになり、世界経済は一時的に縮小均衡に向かうことになった。

それに伴い、世界経済の後退懸念を増幅させ、株式や為替などの金融市場も不安定な展開になっている。これまで、多くの企業は生産や流通の効率化を図り、コストの低い国や地域などで業務を展開してきた。それが、いわゆるグローバル化だ。グローバル化によって経営の効率は高まり、収益力を向上させることが可能になった。ところが、世界のサプライチェーンの中心の一つである中国で、突然、予想もしていなかった感染症が発生した。新型コロナウイルスの感染拡大により、中国の経済活動はほぼ開店休業の状況となり、世界中の企業の生産活動などを阻害することになった。わが国では、自動車部品などの供給が遅延したことにより、一部の生産ラインを休止せざるを得ない状況に追い込まれた。また、スマートフォンなどのIT製品の組み立てが間に合わない事態に陥った。

経済のグローバル化・高度化の高まりによって、経営者が担うリスク管理の機能は広範囲にわたっており、今回のコロナショックの発生によって、多くの経営者はその重要性を再認識させられることになった。しかも、近時のようにリスクが複雑化していることを考えると、リスク管理は一筋縄ではいかない難しい経営課題になっている。

そもそも、企業にとってリスクとは、予想外の出来事が発生することによって、業務の展開に重要な変化が起こることを意味する。一般的に、人間の心理として「現在の状況が、これからも続くだろう」という意識を持ちがちだが、実際は、そうした状況が未来永劫続くことは考えにくい。どこかで何かしら状況の変化が起こり、今ある仕組みがうまく働かなくなる。その変化がリスクの正体と考えれば分かりやすい。ただ、元々リスクの正体は予想外の出来事に起因するため、文字通り前もって予防することが難しい。実際にリスク管理を行う場合、最も大切なことはリスクに対する心の準備を常にしておくことだ。「状況はいつでも変わる」という意識を持つことである。そうした準備ができていると、何か変化が起こったとき、迅速に対応することができる。そうすることで、今回のように重要な環境変化が起こることを想定して、平時からリスク回避のための生産地や流通経路の分散を行うことが可能になる。それにはコストがかかるケースが少なくないが、実際のリスク発生時のコストアップを考えると、必ずしも不合理なコストとは言えない。

今回の件でも、生産に必要な部品の調達を中国以外の国(中国プラス1)にした企業が、影響を最小限に食い止めることができた例もある。そうした行動をしっかりとるためには、企業経営者自身が情勢の変化に対する感度を上げておくことが必要だ。2018年以降、トランプ米大統領の対中国貿易政策が大きく変化し、関税率引き上げなどによって、世界のサプライチェーンの状況が変わる兆候が見え始めた。企業経営者がこうした変化を敏感に受け止めていれば、その時点で何らかのリスク回避の手段を講じていたかもしれない。それによって、中国への依存度が下がっていれば、今回の件での衝撃を幾分でも引き下げることができた可能性は十分に考えられる。それは、重要なリスク管理による効果となったはずだ。状況の変化を敏感に受け止め、一箇所への依存度を過度に上げないことを励行できたかもしれない。これも、リスク管理の重要な命題の一つと言える。(3月20日執筆)

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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