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真壁昭夫の経済底流を読み解く コロナ禍で顕在化したグローバリズムの問題点

新型コロナウイルスの感染拡大によって世界的に大混乱が発生し、グローバル化の負の側面が浮き彫りになっている。

問題の一つに、通商を中心とする米中の覇権争いがある。本年1月に両国は第一段階の通商合意に至ったが、感染を巡り互いの批判が激化している。トランプ大統領が、中国の影響力が強まっているWHOへの資金拠出停止を表明したのはその象徴的出来事といえる。今後、米中の対立はより激化する恐れがある。その対立で、国際社会のグローバル化に対する反動はさらに勢いがつくとみられる。それに伴い、世界の経済・金融市場が大きく混乱することは避けられない。

また、コロナショックが引き金となって、欧米や新興国では医療体制の不備や、低所得層が医療サービスにアクセスできないことが浮き彫りとなった。それは人々の不安心理をかき立てた。グローバル化を前提にした経済・社会の運営には、かなりの支障が出始めたと考えられる。これから世界経済が未曽有の景気後退に陥る可能性は、軽視できない。4月中旬の時点で米国を中心に株価は反発しているが、そうした動きは信用できない。世界経済が大きな変化の局面を迎えていることを、冷静に考える必要がある。

第2次世界大戦後、世界経済の安定を支えた大きな要因の一つがグローバル化だった。米国は政治、安全保障の覇権を強め、冷戦後の世界経済の基盤を整備した。それが、旧社会主義国や新興国の経済成長を支えた。米国独り勝ちの期間が、かなり長く続いたといえる。戦後最長の景気回復を達成した米国経済に、支えられた側面は大きい。米国を基軸とするグローバル化の進行によって、先進国の中間層は、遠心分離機にかけられたように、一握りの富裕層と、その他多数の低所得層に振り分けられた。これが、経済格差の拡大、環境問題、米国の医療問題など、さまざまな問題を深刻化させた。しかし、リーマンショックまでは、そうしたグローバル化の負の側面への関心が、世界全体を揺さぶるまでには至らなかった。

リーマンショック後、徐々に、米国主導によるグローバル化への反発が表面化し始めた。言い換えれば、米国の覇権は弱まり始め、中国の存在感が高まり始めた。更に、2016年11月の米大統領選挙で独断専行型の考えを持つトランプ大統領が誕生した。それは米国でさえ、グローバル化の無理に耐えられなくなりつつあるという象徴的な出来事だった。

18年3月以降、トランプ大統領は対中貿易赤字の削減やIT分野での覇権を目指し、中国に制裁関税をかけ始めた。世界の工場としての地位を高めてきた中国からベトナムやインドなどに生産拠点が移管され、各国が整備してきた供給網が寸断された。それは、グローバル化の反動の一つだった。

一方、中国は米国を批判すると同時に、東南アジアを中心とする新興国、さらには中国の需要に依存してきた欧州各国との連携を目指した。19年3月には、イタリアがG7で初めて中国の「一帯一路」構想に参加すると表明した。これは、主要先進国の利害の多極化を示す出来事の一つだ。視点を変えれば、中国は米国が主導してきたグローバル化とは異なる価値観を各国に提示したり、トランプ大統領の言動を批判したりすることで発言力を高めようとしている。

グローバル化の反動もあり、今後、世界経済は1930年代に米国を中心に発生した“大恐慌”に匹敵する落ち込みを迎える恐れがある。米金融大手の予測によると、今年4~6月期の米実質GDP成長率が前期比年率で20%を超える落ち込み、失業率は20%に達するとの厳しいシナリオを描いている。感染収束にどのくらいの時間がかかるかが読めない。足元、米労働市場は過去に例を見ない勢いで悪化しており、企業業績が想定以上に悪化するリスクは高まっている。その一方、われわれは、グローバル化の反動の先に、世界経済に大きな変化が出始めていることを虚心坦懐(たんかい)に感じ取る必要がある。今は、そうした視点で世界経済を謙虚に考えるべきときだ。(4月15日執筆)

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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