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真壁昭夫の経済底流を読み解く 複雑化する米・中関係とわが国の進むべき道

足元、コロナウイルスを巡って米国と中国の対立が激化している。今後の世界情勢を考える上で、両国の対立が深まることは重大なマイナス要因だ。米国のトランプ大統領は、新型コロナウイルス感染拡大の責任が中国にあると批判し、制裁関税の発動も辞さない構えだ。その背景には、新型コロナウイルスの感染拡大に関して、米世論が大きく対中批判に傾いていることがある。大統領再選を目指すトランプ氏にとって、対中強硬姿勢を示すことは大統領選を有利に進めるために必要不可欠のファクターになっている。

一方、中国の習近平主席も、米国に弱腰を見せられず後に引けない状況だ。また、中国は‶マスク外交〟によって国際的な支援策を強化し、中国支持の声を集めることに注力している。そうした支援策で、自国第一の考えに傾注する米国との違いを誇示し、中国は国際社会における発言力を高めることを意図している。

当面、感染の責任などをめぐって米中の対立はさらに激化するだろう。ただ、表面的な対立とは裏腹に、両国が決定的に決裂することは考えにくい。それは、米・中は相互に依存しあう関係にあるからだ。IT先端分野の技術、貿易取引、投資などの面で両国の関係は切り離せない。対立が激化したとしても米中ともに決別はできないはずだ。その意味で、米中対立はかつての米ソ冷戦と異なる。

これまで、米・中両国は世界の覇権を競いつつ、経済面での相互依存度を深めてきた。例えば、米アップルはiPhoneなどの生産を台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の中国子会社(フォックスコン)に委託している。それにより、アップルは先端テクノロジーの開発やデザイン、ブランディングなどに注力し、付加価値の高い製品を実現した。この相互作用が米中、さらには世界経済を支えた。米国企業はGAFAを中心に成長を実現し、中国の需要取り込みを重視した。自動車、航空機、IT機器、エネルギー、農産品など、米国にとって中国は重要な顧客だ。それに対し中国は、米国企業をはじめ外資を誘致して雇用を創出し、先進国の技術力も吸収してきた。また、中国は米国の研究者らに多額の支援を提供し、IT、医療などの分野で最先端の研究成果を取り込もうとしてきた。米国企業にとって、国家主導で急速かつ大規模に技術革新を遂げる中国企業は競争上の脅威であるとともに、成長のために欠かせない存在でもある。4月、5G通信の普及などを念頭に米クアルコムが中国のパネル大手BOE(京東方科技集団)と提携したのはそのよい例だ。

米・中の対立は、ある意味では、自由資本主義と国家資本主義の覇権争いといえるだろう。IT先端分野での成長や感染対策などを見る限り、両国の対立は今後も激化することが予想される。ただ、最近、中国の発言力を警戒する国も増えている。2017年、ドイツは安全保障などを理由に外資による買収を規制し、翌年には中国企業による精密機械メーカーの買収を阻止した。その上、中国を震源に新型コロナウイルスが世界に広がり、対中不信を強める国は増えている。欧州委員会は医療物資などの対中依存を問題視し、中国企業による買収を念頭に外資規制を強化している。欧州が米中とどのような関係を目指すかは見通しづらい。今後、EUでは英国の離脱が進み、感染対策を契機に加盟国間の政治連携は難しくなっている。これから国際社会は多極化に向かい、利害調整は一筋縄ではいかなくなる。これまで以上に世界経済の不安定感が高まるだろう。

わが国に求められるのは、米国とは安全保障を中心に、中国とは経済を中心に等距離感覚の関係構築を目指すことだろう。同時にわが国はEUとの連携を進め、国際社会での発言力の向上にも取り組む必要がある。今後の成長が見込まれるアジア新興国などとの関係強化も欠かせない。また、国内経済に関して、機械、自動車産業を重視してきたわが国は、産業構造を変換させデジタル化という大きな変化に対応しなければならない。そのためにも、政府の構造改革の重要性は増している。

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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