通信機器の販売・工事・メンテナンスなどを主事業とするOAセンター。同社が新たな北九州土産品として企画し、28年2月に販売を開始したチョコレートが、常に品薄状態の大人気商品となっている。そもそも本業とはかけ離れたスイーツづくりに乗り出したのはなぜなのか――。そのきっかけや開発の道のりをたどる。
携帯電話販売店をオープンするため飲食事業に参入
ボルトとナットの形をしたチョコレートで、その名もずばり「ネジチョコ」という。見た目がリアルなだけでなく、実際にネジが回り、最後はキュッと締まるほど精巧に加工されているのが特徴だ。平成28年2月、バレンタインデーに先駆けて発売されると、「形はおもしろいのに、味は本格的」とたちまち完売してしまう。その後増産を続けているが、常に品薄状態となっている。
同商品を企画・開発・販売しているのは、OAセンターという通信機器の販売や工事などを行っている会社だ。「なぜチョコレートづくりを?」と素朴な疑問が浮かぶが、その発端は14年前までさかのぼる。
「その年、リバーウォーク北九州という大型複合施設がオープンし、当社はそこにドコモショップを出店することになったんです。ところが当初、人の出入りの多い1階への出店に難色を示されて、苦肉の策として店内の待合スペースにケーキやサンドイッチなど軽食の取れるカフェを設けることにしました。それが飲食を始めたきっかけです」と同社社長の吉武太志さんは説明する。
1~2年してカフェはやめたが、ケーキの販売だけは続けることにした。その売れ行きが好調だったため、別の場所でも運営していたドコモショップの隣に、洋菓子の路面店「グランダジュール」をオープンする。味もさることながら、おしゃれな外観や内装、パッケージなどが客の心をとらえ、市内でも5本の指に入る人気店となる。それを機に同社は飲食事業部を立ち上げ、店で扱う洋菓子の開発にも本腰を入れるようになった。
北九州を知ってもらう新たな土産物がない!
同社が「ネジチョコ」を企画したのは、27年7月に官営八幡製鉄所の関連施設を含む「明治日本の産業革命遺産」が世界文化遺産に登録されたことがきっかけだ。
「北九州に新たな観光の目玉が誕生しましたが、当時はこれぞ!という土産物がありませんでした。小倉駅や北九州空港のお店をのぞくと、博多名物が並んでいる(笑)。それで北九州商工会議所の人とも話をして、新しい土産物をつくろうということになったんです」
そこで吉武さんは、「北九州=鉄のまち」というイメージに着目した。八幡製鉄所では、建材を中心にさまざまな鉄製品を扱っており、特に全国の新幹線用レールの大半はここでつくられている。それをヒントに、「H鋼」をモチーフにしたチョコレートを試作した。周囲の反応はすこぶるよかったが、知らない人が見るとただの棒にしか見えず、面白みがないと感じた。もっと分かりやすい形の鉄製品で、ひと口サイズのものはと目を付けたのがボルトとナットだった。どうせなら実際に締めたり緩めたりできるものにしようと、3Dプリンターを活用して型をつくり、ボルトの溝など細かい部分まで忠実に再現した。さらに、原料にはカカオ含有率57%の本格的なチョコレートを使い、見た目と味とのギャップにもこだわった。
「ようやく満足のいくものができましたが、唯一、ナット形のチョコを型から外す際に割れやすいのがネックでした。型を何度もつくり直して改良を試みましたが、どうしてもいくつか割れてしまって、ボルトとナットが同数にならない。それで最初は、ボルト18個、ナット9個を一緒くたに透明パッケージに入れて商品化し、年明けにお披露目しました。当初から利島会頭ら、商工会議所の幹部の皆さまが絶賛してくださり、PRに協力してくださいました。おかげさまで結果は大好評で、用意した500セットが瞬く間になくなってしまいました」
商品名は「ボルトチョコレート」と付ける予定だったが、ナットもあるからと「ネジチョコ」に変更し、市内の大手ホテルとグランダジュールの店舗限定で販売を開始した。
SNSに投稿された動画が拡散して大人気商品に
同商品は地元メディアがこぞって取り上げたことで、当初から注目を集めた。そこに拍車をかけたのはSNSだ。北九州の活性化を目指して活動しているローカルヒーロー・キタキュウマンが、自身のツイッターにネジチョコを締めている動画を投稿すると、それがたちまち拡散して話題となり、店頭に並べるそばから完売してしまう状態が続いた。
「当初は手づくりしていたので製造数に限りがありましたが、あまりの売れ行きに生産工場をつくり、原料を混ぜたり、包装したりする機械を導入して、増産体制を敷きました。これで製造量は3倍に増えましたが、それでも追いつかない状況です」
うれしい悲鳴を上げる吉武さんだが、製造を外注して大量生産し、市内のいたるところで買えるようにするなどのつもりはないという。あくまでも北九州土産として広く認知され、末永く親しんでもらえる商品に育てたいのだそうだ。その一環として、商品をモチーフにしたロゴマークを作成し、紙パッケージをリニューアルした。ボルトとナットを1組ずつ個包装し、1個、5個入り、15個入りの3種類を取り揃えた。さらに、鉄のさびた感じを表現した「ネジチョコココア味」や、期間限定品として「ホワイト」「抹茶」「イチゴ」味など次々と世に出して、話題を振りまいている。
「ボルトとナットの味を変えるなど、まだアイデアをたくさんストックしています。今後も遊び心たっぷりのネジチョコで、老若男女を問わずアッと言わせたい」と笑う吉武さん。次はいつ、どんなものを繰り出してくるのか楽しみだ。
会社データ
販売社:OAセンター株式会社
所在地:福岡県北九州市小倉北区宇佐町2-10-1
電話:093-511-1120
代表者:吉武太志 代表取締役社長
設立:昭和60年
※月刊石垣2017年4月号に掲載された記事です。
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