新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、世界経済は戦後最大の危機に直面しています。そして、わが国の経済も同感染症の拡大の影響により国難ともいうべき厳しい状況が続いています。こうした状況から政府は、財政・金融・税制といったあらゆる政策手段を総動員した「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」として新たに総額25兆6914億円の2020年度補正予算案を国会に提出し、衆参両院の審議を経て、本年4月30日に国会で可決・成立しました。特集では、この「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」における「税制措置」(注)の重要なポイントを城所弘明先生の解説により連載でご紹介します。第1回は「納税猶予の特例」措置です。
(注)「新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律」等
第1回 法人税、消費税、固定資産税、社会保険料などの納付が猶予されます
1. 「納税猶予の特例」の概要
「納税猶予の特例」とは、新型コロナウイルス感染症の影響で「事業等に係る収入」に相当の減少があった事業者に対して、無担保かつ延滞税なしで1年間、納税の猶予が認められる特例制度です。
この特例は、法人税や消費税、固定資産税など、基本的に全ての税目の納税が猶予されます。また、社会保険料の納付も同様に猶予されます。
ただし、印紙で納付する印紙税のほか、外国貨物を保税地域から引き取る場合の消費税や、出国する際に直接納付する方式の国際観光旅客税などについては対象となりません。
次の2から4では、法人税や消費税などの国税を例に「納税猶予の特例」をQ&A形式で解説します。
2. 対象者に関する要件
Q 本特例の対象者について教えてください。
①法人だけでなく個人も、本特例の対象になりますか?
【①の回答】
○「事業等に係る収入(事業所得、給与所得、不動産所得など)」があり、かつ収入減少などの要件を満たしている個人が対象となります。
例えば、事業・不動産賃貸業を営む個人だけでなく、フリーランス(事業所得者)やパート、アルバイト(給与所得者)も収入減少などの要件を満たせば本特例の対象となります。
②法人について、事業規模などの制限はありますか?
【②の回答】
○資本金や従業員数などの会社の規模に関係なく、収入減少要件を満たせば、本特例の対象となります。
③青色申告ではなく白色申告の場合でも、本特例の対象になりますか?
【③の回答】
○白色申告の場合でも、収入減少要件を満たせば本特例の対象となります。
3. 収入減少に関する要件
Q 本特例の収入減少の要件について教えてください。
①どの程度の収入減少が要件となるのですか?
【①の回答】
○新型コロナウイルス感染症の影響により、本年2月1日以降の任意の期間(1カ月以上)において、事業などに係る収入が前年同期に比べておおむね20%以上減少していることが要件となります。
②利益が黒字であっても、収入減少要件を満たせば本特例を利用できますか?
【②の回答】
○利益が黒字であっても収入減少などの要件を満たせば本特例を利用できます。
○ただし、少なくとも向こう半年間の事業資金を考慮に入れるなど、一時に納税することが困難と認められる場合に限ります。
③前年の月別収入が不明の場合には、どのように判断すればよいですか?
【③の回答】
○前年の月別収入が不明の場合には、次のような方法により収入減少割合を判断することもできます。
・年間収入を案分した額(平均収入)との比較
・事業開始後1年を経過していない場合、本年1月までの任意の期間との比較
④収入が20%減少していない場合にも、納税猶予は利用できますか?
【④の回答】
○特例の要件を満たさない場合でも、従来の納税猶予制度を利用できる場合があります(ただしこの場合、原則として年1・6%の延滞税がかかります)。
詳しくは、最寄りの税務署にご相談ください。
4. 「納税猶予の特例」を希望する企業の相談事例
【質問内容】
私は旅館業(4月決算)の経理課長です。当社は前期の2018年11月から19年3月まで大規模な耐震補強工事とリニューアルに伴い、事業を休業していたため、19年4月決算では法人所得は多額の欠損金が発生し、消費税は還付となりました。
そして当期(本年4月決算)においては、工事に伴う借入金の返済に加え、新型コロナウイルス感染症による休館で資金繰りが切迫しております。特に、消費税については前期還付申告のため中間納税を行っておらず、10月以降課税仕入がおおむね軽減税率の8%で課税売上が標準税率の10%ですので、当決算における消費税の納税見込み額は約6千万円を想定しております。そこで質問です。
①当社は、資本金8千万円、従業員数は約180人であり、中小企業基本法における「中小企業者等」には該当しませんが、納税猶予の特例は受けられますか?
【①の回答】
○納税猶予の特例の要件を満たせば、会社の規模に関係なく利用できます。
②収入減少割合について、本年4月はほとんど休館していたため前年同期比80%減でしたが、本年2月と3月は前年が休業期間であったため前年同期比を算出することができません。本年4月の売り上げだけで判断してもよろしいでしょうか?
【②の回答】
○本年2月1日以降の任意の期間(1カ月以上)において、収入減少割合が前年同期に比べておおむね20%以上減少していることが要件ですので、4月だけで判断しても問題ないと思います。
○ただし、少なくとも向こう半年間の事業資金を考慮するなどの理由により「一時に納税することが困難と認められる場合」に適用されますので、資金繰り予定表などの資料を用意しておく必要があります。
③来期(21年4月決算)の期中における消費税の予定納税の支払いも苦慮しておりますが、この予定納税についても納税猶予の特例を利用できるのでしょうか?
【③の回答】
○本年2月1日から21年1月31日までに納付期限が到来する所得税、法人税、消費税などが対象となっています。特に、確定申告分とは記載がありませんので、予定納税額についても猶予特例の対象になると思われます。
詳しくは、国税局猶予相談センター
(https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/nofu_konnan/callcenter/index.htm参照)にご相談ください。
5. 申請手続きと相談窓口
<申請手続き>
○関係法令の施行(本年4月30日)から2カ月後、または納付期限(申告納付期限が延長された場合は延長後の期限)のいずれか遅い日までに申請が必要です。
○申請書のほか、収入や現預金の状況が分かる資料を提出する必要があります。
詳しくは、下記の相談窓口に相談してください。
<納税猶予に関する相談窓口>
○納税猶予に関する相談窓口は、税の種類や社会保険料などにより異なります。
○法人税や源泉所得税、申告所得税、消費税などの国(税務署)へ納付する税金の猶予相談は「国税局猶予相談センター」に電話でお問い合わせください。
同センターの電話番号は、国税庁ホームページに掲載の同センターのご案内
(https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/nofu_konnan/callcenter/index.htm参照)をご覧ください。
○市県民税や固定資産税および自動車税などの地方税の猶予相談は、都道府県や市区町村の担当窓口へお問い合わせください。
○社会保険料の猶予相談は、日本年金機構へお問い合わせください。
(注)具体的な詳細は政省令でご確認ください。
執筆者紹介
城所弘明(きどころ・ひろあき)
公認会計士・税理士・行政書士
横浜国立大学卒業1980年公認会計士および税理士登録
日本商工会議所「税制専門委員会」学識委員
東京商工会議所「税制委員会」委員
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