一本のかぎ針で未来を切り開く
株式会社 スルシィ 代表取締役 関谷 里美
フィリピンの女性たちに仕事をつくりたい
前職を辞めた後、観光でフィリピン・セブ島へ行った際に、現地の女性たちの恵まれない労働環境に胸が痛みました。その後、地産の天然素材・ラフィア(椰子(やし)の葉の一種)を使用した手編みの技術指導をし、バッグを作製。日本で販売することで、現地の女性たちの雇用創出と自立支援ができるのではないかと思いついたのです。
それから足掛け2年フィリピンに通い続け、かぎ針の持ち方から編み図の説明など一から根気よく教えるところから始めました。なかなかこちらの希望するバッグができ上がらず、もうダメなのかと不安に思ったことも一度や二度ではありません。〝いいものをつくればきっとお客さまに分かってもらえる〟〝頑張れば自ずと道は開ける〟このブレない思いと信念だけで、彼女たちに技術指導を続けてきました。一方で、何の疑いもなくついてきてくれる彼女たちの頑張りと笑顔に支えられながら、一歩一歩スルシィのバッグはカタチになってきたように思います。おかげさまで発売以来、百貨店などで大変好評をいただきながら販売させていただいています。
地域に根ざした持続可能なビジネスを目指す
編み子さんの中から、バッグのデザイナーも育ってほしいとの考えから、自分でデザインしたバッグを製作するコンペティションを実施しています。モチベーションを上げるために上位入賞者には賞金を出し表彰をしています。また、編み子さんに支払う工賃の3%をスルシィ基金として積み立てており、健康保険証を持たない編み子さんたちの医療費や薬代、お子さんたちの奨学金に充てています。
スルシィでは、2週間ごとに編み子さんに工賃を支払っています。そうすることで、家畜などを購入し日々の暮らしを支えることができ、子どもたちの教育に目が届くのです。
当社では地域に根ざした取り組みにも力を入れています。まちに本屋も図書館もないところで育つ子どもたちに小さいときから本に親しんでほしいとの思いから、〝一本の「かぎ針」から一冊の「本」を〟をコンセプトに、編み子さんたちが編んだラフィアのブローチの売上の半分が、図書館建設資金になるプロジェクトもしています。
また、昨年の春からアトリエ工房のあるまちの刑務所に収監されている女性たち約15人に編み物のトレーニングを行い、出所後はスルシィで働けるような更生プログラムを構築しています。6月からは地元高校の家庭科の授業に「編み物」を取り入れてもらい、スルシィの編み子さんたち10人が先生となり授業を受け持つ予定です。
かぎ針一本で持続可能なモノづくりは始まったばかり。これからも一人でも多くのお客さまに「スルシィバッグ」を手にとっていただけるよう、デザイン・品質の向上を目指します。また、生産者を継続的に支える「持続可能なビジネス」スキ―ムをさらに向上させ、精進しています。
会社データ
社名:株式会社 スルシィ
所在地:東京都品川区
創業:平成23年
事業概要:雑貨製造販売・卸業(フィリピンの手編みバッグを販売)
※月刊石垣2016年4月号に掲載された記事です。
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