日商 Assist Biz

更新

コラム石垣 2019年8月1日号 宇津井輝史

今年7月7日午後、一艘の丸木舟が台湾東岸を出航した。男女5人の漕ぎ手が乗り組む舟は全長7・6メートル。復元した石斧で切り倒した杉の木を石器でくりぬいた3万年前の「縄文の舟」は、約45時間後、沖縄・与那国島に無事到着した。GPS機器はむろん、地図やコンパス、時計などを持たない航海で黒潮を乗り切った。

▼20万年前にアフリカで誕生した私たち現生人類は、6万年前から世界に拡散し始めた。しからば日本列島にはいつどこから渡ってきたのか。想定されるルートは3つ。シベリアからサハリン経由で南下した「北海道ルート」、朝鮮半島から対馬経由の「対馬ルート」、そして大陸と地続きだった台湾から琉球列島への「沖縄ルート」である。今回の再現航海はこの第3のルートが実際に可能なことを証明した。

▼徹底再現プロジェクトを主導したのは国立科学博物館の海部陽介さんである。2016年には草舟で、17、18年は竹舟で挑戦したが、いずれも秒速1~2メートルの速さで北上する黒潮を乗り切れなかった。台湾・与那国間は最短距離で100キロだが、黒潮を想定して倍の距離を漕いだ。3万年前、のちに縄文人となる人たちは、見えていた与那国の島影に向け、何らかの航海術を持って漕ぎ出したのだろう。祖先の知力と勇気はなかなかに感動的である。

▼1年前に、縄文人の人骨に含まれる全ゲノム(遺伝情報)を解析し、ラオスとマレーシアで見つかった人骨のゲノム配列の一部と酷似していることを示したのも日本の研究者である。日本列島は人類拡散のひとつの終着点だった。東南アジア、中国、朝鮮半島から渡った人もいれば渡らなかった人もいる。いずれも、もとは同じホモ・サピエンスである。

(文章ラボ主宰・宇津井輝史)

次の記事

東洋大学大学院国際観光学部客員教授 丁野朗

「観光立国」の推進には、わが国の歴史・文化を象徴する文化財の活用が大きな鍵を握っているといわれる。その文化財のイメージは、これまで古代から中・近世までの古い時代の遺…

前の記事

NIRA総合研究開発機構理事 神田玲子

先月開催されたG20で、日本政府は、ある国際的な議論をスタートさせることに成功した。ここ数年、一握りの巨大IT企業がネットを通じて得られた個人情報を囲い込んでいるが、そ…

関連記事

政治経済社会研究所代表 中山文麿

9月1日は防災の日、台風シーズンの真っただ中だ。先の「令和2年7月豪雨」では、気象庁は熊本県人吉町周辺の24時間の降水量が200ミリメートルに達するとして周辺住民に厳重警戒…

時事総合研究所客員研究員・中村恒夫

「国家公務員の定年延長が見送られ、ホッとした」と情報関連企業の人事担当役員は安堵(あんど)した表情で話してくれた。公務員の65歳定年が確定すれば、民間企業もいずれ追随し…

東洋大学大学院国際観光学部客員教授 丁野朗

本年4月、文化庁・観光庁の共管による「文化観光推進法」が成立、5月1日に施行された。正式名称は、文化観光拠点施設を中核とした地域における文化観光の推進に関する法律であ…