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コラム石垣 2019年8月11日号 丁野朗

「観光立国」の推進には、わが国の歴史・文化を象徴する文化財の活用が大きな鍵を握っているといわれる。その文化財のイメージは、これまで古代から中・近世までの古い時代の遺産が主流であった。だが、文化財には今日の私たちにとって身近な近代以降のものも少なくない。いわゆる「近代化遺産」である。一般に「幕末から第2次世界大戦期までに建設され、日本の近代化に貢献した産業・交通・土木に係る建造物」を指している。

▼幕末以降、わが国は、欧米列強に追い付け追い越せを国是とし、短期間のうちに産業の近代化と強い国家を形成してきた。一方で、これらの遺産は、特に戦後高度成長期のスクラップ&ビルドの中で次々と破却されてきたことも事実である。

▼そこで、1990年から文化庁の指導の下、20年以上の歳月をかけて、全国の近代化遺産の「総合調査」が行われた。これら膨大な調査の結果、多くの近代化遺産が重要文化財などの指定を受け、改めて保護の対象となった。群馬県の碓氷峠の鉄道施設(橋・トンネル)や秋田県の藤倉水源地の水道施設などが最初である。これら近代化遺産の中には、その後世界遺産に登録された富岡製糸場(群馬県)や「明治日本の産業革命遺産」なども含まれている。

▼筆者は2007年から08年にかけて、経済産業省の「近代化産業遺産群33」の認定にも関わった。これは、わが国の産業近代化に係る物語づくりでもあった。この物語化の手法が、15年から始まった「日本遺産」にも継承されたと認識している。

▼自信を失いかけた今日の日本にとって、観光立国はもとよりだが、改めて、これら近代の遺産から学ぶことは、極めて重要な課題であると言える。

(東洋大学大学院国際観光学部客員教授・丁野朗)

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