今年の10月からマイナンバーの「通知カード」が住所に届けられ、2016年1月から正式に運用が開始される。日本商工会議所が3~5月に行った調査では、70%近い企業でマイナンバー制度への対応が進んでいない結果となっており、関係各方面で制度開始に伴う準備が必要な状況となっている。一方、所管官庁である内閣官房では、各種支援策などを矢継ぎ早に打ち出し、制度の円滑なスタートに万全を期す。内閣官房が5月に発行した中小企業・小規模事業者向けの小冊子(入門編)もその一つ。特集では、小冊子の内容を抜粋し、事業者の基本的な対応策を紹介する。
はじめに
○今年10月からマイナンバーの「通知カード」が住民票の住所に簡易書留で通知されます。
○来年(平成28年)1月から順次、マイナンバーの利用が始まります。
○社会保障、税、災害対策の行政の3分野で利用されますが、民間事業者もマイナンバーを扱います。
○パートやアルバイトを含む従業員を雇用する全ての民間事業者が対象ですので、個人事業主もマイナンバーを取り扱います。
マイナンバーはこんな時に使います
○民間事業者はマイナンバー法で定められた事務のうち、税と社会保険の手続でマイナンバーを使います。
○手続としては、従業員やその家族のマイナンバーの取得と書類への記載、関係機関への提出が必要です。
○個人事業主であっても、従業員(パート・アルバイトを含む)を雇用していれば、マイナンバーの取得・保管が必要になります。
○税の手続では謝金の源泉徴収票などの調書の提出のため、従業員以外の外部の方のマイナンバーも取り扱う場合があります。
○提出先は税務署、市町村、年金事務所、健康保険組合、ハローワークです。
事業者がマイナンバーを記載する書類とは
○民間事業者の対応のうち社会保障分野では、健康保険、雇用保険、厚生年金といった社会保険の手続でマイナンバーを記載します。
○税分野では、従業員とその家族のマイナンバーを法定調書などに記載します。
○報酬などの調書や不動産関係の調書では、外部の方(講演などの講師や不動産の個人地主など)のマイナンバーを記載する必要があります。
○パート・アルバイトの多い事業者(小売店など)や謝金の支払いの多い事業者(出版関係など)などは取り扱うマイナンバーが多くなるため、特に注意して、準備を進めてください。
税や社会保障関係の書類にマイナンバーの記載欄が加わります
○税や社会保険の書類の様式が変わり、マイナンバーの記載欄が追加されます。
○追加された欄には、従業員やその家族のマイナンバーや、支払者である法人の法人番号(個人事業主の場合はマイナンバー)を記載します。
○現時点での新しい様式は国税庁や厚労省のホームページのマイナンバー特設サイトなどで公表されていますので確認してください。
○会計ソフトを使用している場合、マイナンバーに対応するソフトかどうか早めに確認してください。
○手書きで帳簿などを管理している場合、マイナンバー導入を理由に、必ず電子化しなければならないわけではありません。
もっと詳しく知りたい方には
○詳しい情報は内閣官房の専用ホームページをご覧ください。(「マイナンバー」で検索してください)
○特定個人情報保護委員会、国税庁、総務省、厚生労働省の各ホームページでガイドラインや様式案などが公表されています。
○インターネットの「政府広報オンライン」の特集ページもあり、30分程度(制度概要10分程度、事業者の対応20分程度)の動画も掲載されています。
○コールセンターにどんなことでもお気軽にお問い合わせください。
○ツイッターでは関係省庁のホームページの更新情報などを発信しています。
取得 利用目的の特定と本人確認を
○民間事業者によるマイナンバーの取得は法律で定められた税と社会保険の手続に使用する場合のみ可能で、それ以外の目的(自社の顧客管理など)で取得することはできません。
○マイナンバーの取得の際にはあらかじめ利用目的を特定して通知または公表することが必要です。(利用目的の特定の例)「源泉徴収票作成事務」「健康保険・厚生年金保険届出事務」(通知または公表の方法の例)
社員へのメールなどでの通知、社内掲示板への掲示、イントラネットへの公表
○本人確認はなりすまし防止のためにマイナンバーの確認と身元の確認を厳格に行ってください。
○なお、確認は対面の方法だけでなく、証明書のコピーを郵送するといった方法でも構いません。
○社員だけでなく、パート・アルバイト、謝金の支払いがある社外の方からもマイナンバーを取得する必要がありますので、その際の本人確認の方法(どの書類で確認するかなど)はあらかじめ検討し、準備しておく必要があります。
本人確認では、番号と身元の確認を行います
○個人番号カードがあれば、1枚でマイナンバーの確認と身元の確認が可能です。
○個人番号カードを取得していない場合、10月から届く通知カードでマイナンバーを確認し、運転免許証やパスポートなどで身元の確認が必要です。
○運転免許証やパスポートなどがない場合の身元確認の方法は税や社会保障でそれぞれルールが決められます。(例)健康保険の被保険者証と年金手帳などの2つの書類など
○通知カードを仮に紛失などしていれば、マイナンバー付の住民票の交付を受けることができます。
○なお、採用・雇用時に運転免許証などによってきちんと本人確認を行っている従業員の身元確認は書類の提示は不要で対面確認でかまいません。
利用・提供 税と社保の手続のみに使用
○取得と同様に、法律で定められた税と社会保険の手続に使用する場合を除き、マイナンバーを利用・提供することはできません。
○社員番号や顧客管理番号としての利用は、仮に社員や顧客の同意があってもできません。(社員名簿にマイナンバーを記載することを禁止するものではありません)
○法律で認められた税と社会保障の手続以外の目的での利用は禁止されていますので、むやみに提示しないよう従業員にも周知してください。
○証券会社や保険会社が税の手続で提供を求める場合を除き、勤務先以外の民間事業者(入会手続で身分証明証の提示を求められるレンタルショップなど)にマイナンバーの提示や記載を求められることはありません。
○個人番号カードの裏面にはマイナンバーが記載されますが、法律で認められた場合以外で、書き写したり、コピーを取ったりすることはできませんので注意してください。
保管・廃棄 義務期間後のルール作り
○マイナンバーを含む個人情報は必要がある場合だけ保管が認められます。(例)雇用契約などの継続的な関係がある場合法令で一定期間保存が義務付けられている場合
○必要がなくなったらマイナンバーを廃棄または削除するというルールを取り扱い担当者に浸透させてください。(例)税や社会保険の手続で使わなくなり、法令で定められた保存期間を経過した場合
○保管義務期間が決まっている場合、その期間はマイナンバーも保管できます。
○廃棄や削除を前提に、書類やデータのファイリングの仕方などを工夫してください。
○シュレッダーなど、復元できないように廃棄できる方法を検討し、準備してください。
安全管理措置 取り扱う事務範囲を明確に
○マイナンバーを含む個人情報の取り扱いは、従来の個人情報よりも厳格に行う必要があります。
○マイナンバーの管理方法は、事業内容や規模(従業員数や支店の数など)に合わせて検討してください。(例えば、アルバイトを多数雇用する事業者などは従業員の数に関わらず、多くの人のマイナンバーを扱います)
○従業員が数名といった事業者に情報管理の電子化など必要以上の取り組みを求めるものではありません。
○マイナンバーを扱う事務の範囲を明確にして、事務取扱担当者を特定してください。
○従業員が通知カードを紛失などしないように、10月までに社内報や掲示板などで、従業員への制度概要の情報提供をお願いします。
準備スケジュール例
○従業員に制度の基本事項を事前に理解してもらいましょう。
○10月以降、通知が届き次第、従業員などからマイナンバーを取得を始めることが可能になります。
○利用開始は平成28年1月以降ですが、税の手続は平成28年分として主に平成29年2月~3月の確定申告期になります。
○厚生年金・健康保険の手続は平成29年1月以降とされています。
○短期のパート・アルバイト、報酬の支払などでは、平成28年1月以降、早期にマイナンバーの取得・記載などが必要になります。
○なお、税理士や社会保険労務士に関係業務を委託することはこれまでどおり可能です。(委託契約の見直しなどを検討してください)
対応例・留意事項など
○情報管理の取り組み例ですが、事業内容や規模に応じた対応を検討してください。
○これまでしっかりと管理されている従業員の機微な個人情報と同等に、従業員などのマイナンバーも取り扱う必要があるので、取扱担当者以外の人からむやみに見られることがないように工夫してください。
○パソコンで管理している場合にはウイルス対策ソフトの導入・更新、アクセスパスワードの設定を行ってください。
○データではなく紙などで帳簿などを管理している場合には鍵付きの棚や引き出しに保管するなど情報漏えいへの対応を実施してください。
○マイナンバーを廃棄・削除する方法も検討してください。(例)シュレッダーでの廃棄やマイナンバーの部分を復元できないよう削除などしてください。
○マイナンバー法ではマイナンバーを扱う事業者に個人情報保護法よりも厳しい保護措置を求めています。これまで個人情報保護法に基づく対策をしてきた事業者も対策の見直しが必要です。
○適切な措置を講じていない場合、第三者機関である特定個人情報保護委員会の監督の対象になることがあります。
○行政機関などに対する罰則は強化されています。民間事業者に対する罰則もありますが、適用されるのは漏えいなどを故意で行った場合です。
○ただし、過失での情報漏えいであっても、民事上の責任や企業としての信頼低下の恐れがあります。
○従業員などとの間の信頼関係構築の観点から個人情報に関する対策の再点検をしてください。
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