Q 今期限りで退職予定の取締役(専務)が、ライバル会社へ転職予定らしく、有能な社員の引き抜きを図ったり、当社の営業上のノウハウを漏らしたりしています。社長から厳重に注意をしていますが、辞める身なので一向に聞き入れません。何か対策はありませんか?
A 最も厳格な対応は取締役を解任し、地方裁判所に従業員引き抜きのための接触禁止の仮処分命令を申し立てることです。ただし、解任は自由に行えますが、損害賠償をしなければならないこともあり得ますし、後者は命令を出してもらえるかどうかが分からないこと、が難点です。したがって次善の策は、法的なトラブルとなると専務への責任追及(損害賠償請求など)をしなければならなくなることをきちんと伝えることになります。
転職前には競業避止義務があるが……
取締役の辞任と解任は、いつでもできます。ただし、相手の不利なときに解任すると、やむを得ない場合を除き損害を賠償しなければなりません。したがって、専務が任期切れで辞める場合はもちろん、任期途中で転職することも阻止できません。
しかし、取締役には競業避止義務があります。「自己または第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき」は、取締役会設置会社では取締役会の、取締役会非設置会社では株主総会の承認が必要です。
この競業避止義務は、取締役在任中のことで、退任後の競業は違反ではありません。ただし、取締役就任時に、退職後も競業してはならない旨の合意をしていて、それが合理的な内容であれば有効です。ライバル会社への転職も同様と考えてよいでしょう。なお、判例での有効性の判断ポイントは、①守るべき企業の利益があるか、②従業員の地位、③地域的な限定があるか、④競業避止義務の存続期間、⑤禁止される競業行為の範囲に必要な制限が掛けられているか、⑥代償措置が講じられているか、などです。
また、たとえ在任中であっても、退任後の競業の準備行為をするのは、原則として競業避止義務に違反しません。したがって、従業員へ「ついてこないか」と声をかけること自体は、原則として競業避止義務違反とは言えないでしょう。
営業秘密の漏えいや引き抜きにはどう対応?
取締役には「会社のために忠実にその職務を行う義務」「善良な管理者の注意で職務を行う義務」があります。営業秘密の漏えいはこの違反になります。
では、従業員の引き抜きはどうでしょうか。一般的には、直ちに違反とはいえません。しかし、マンパワー重視の会社では違反に当たると思われます。ただし、それは取締役の職務と個人的なつながりの両方がある場合に限定されるという考えもあります。そのため、個人的に転職の相談を受けて転職先を紹介する場合のように、取締役の職務に全く関係なければ違反とも言えないでしょう。
また、取締役の行為が定款や法令に違反している場合、会社(監査役)が「当該行為を止めること」を請求できます。応じなければ裁判所に仮処分命令を出すように請求することも可能です。
これに加えて、一定の営業秘密は、不正競争防止法で保護されています。「不正開示行為」をした者も、「秘密を取得・利用」した者も、差止請求の対象者となるほか、損害賠償の義務や刑事罰もあります。したがって、これに該当する場合は、取締役とライバル会社に理解させて、その行為を止めさせることが大切です。なお、不正競争防止法で保護される営業秘密以外の守りたい秘密については、取締役との間で守秘義務として契約しておかなければならないことに注意しましょう。
(弁護士 芥川 基)
今回のポイント
法的な解決方法もありますが、まずは競業避止義務・善管注意義務・営業秘密の保護などを再認識してもらいましょう!
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