事例5 帰りのお客さまを取り込みたい
津軽鉄道(青森県五所川原市)
地吹雪が舞う津軽の雪野原を、だるまストーブをたいた列車がのんびり走る︱︱青森津軽鉄道が11月から3月まで毎日3往復(12月中は運転日注意)させているストーブ列車は、青森の冬の風物詩となった。民営のローカル鉄道という厳しい経営環境の中で、津軽鉄道は北海道新幹線開業を、どのように生かそうとしているのだろうか。
復路の乗客を津軽鉄道へ
澤田長二郎さんは平成16年秋、三菱商事を定年退職し関連会社の社長を務めた後、故郷の青森県五所川原市に戻っていた。そんなとき、旧知の津軽鉄道前社長三和滿さんから6代目社長への就任を要請され、社長に就任した。
津軽鉄道は、五所川原市にある津軽五所川原駅から津軽半島を北上し、中泊町の津軽中里駅へ至る20・7㎞(営業キロ)を40分ほどで結ぶ路線だ。会社の経営は利用客数の減少が続いていた就任当時同様現在も、その減少に歯止めがかかっておらず厳しい。そんな同社にとって、北海道新幹線の開通は大きなチャンスだという。奥津軽いまべつ駅と津軽鉄道は直接つながっているわけではないが、「観光乗客数の10〜30%増」は可能と見込んでいる。「下りの新幹線の乗客は新函館北斗駅を目指すはずです。そこでわが社としては北海道からの帰り(上り)のお客さまの取り込みを目指します」
3月26日開業当初の時刻表では上り下り各13本の列車が走る。そのうち奥津軽いまべつ駅に停車するのは各7本。上りの列車であれば10時22分、13時35分の2本の乗客が中心になりそうだ。
ただ障害もある。奥津軽いまべつ駅から津軽中里駅へ向かう乗客の足の確保だ。JR北海道は14年、線路も道路も走れる「デュアル・モード・ビークル(DMV)」の開発に着手、試験運行を続けていた。しかし、残念ながら26年に開発が凍結されてしまう。津軽鉄道ではDMVを導入して両駅間を結び、そのまま津軽鉄道の線路を走らせれば観光客の誘客に貢献すると考えていたが、JR北海道の決定により当分見送りとなった。当面は県や今別町、中泊町、五所川原市などが協議して運行する路線バスに頼ることになりそうだ。
独自企画で誘客を図る
しかし、奥津軽いまべつ駅から、津軽鉄道までただ単に移動するのはもったいない。せっかく津軽半島という自然豊かな観光資源があるのだから、これを生かさない手はないはずだ。
「ただ単に最短距離で結ぶというだけでは不十分です。津軽の豊かな自然を満喫していただけるような二次交通が欠かせないと考えています。そこで、食・文化・伝統・芸能・祭りなどの分野で青森ならではの体験ができるようになればきっと満足していただけると考えています」(澤田さん)
もちろん津軽鉄道独自の企画も練っている。例えば春・夏・秋の国道339号(竜泊ライン)絶景・眺望・グルメ(メバル膳等)プランのセット券、今別・竜飛・十三湖・中泊・金木・五所川原観光ルートセット乗車券、十三湖シジミ拾い等体験型セット乗車券、また鉄道ファンの人気が集まりそうな新幹線開業に合わせた特別記念フリー切符(硬券)などの発売、オリジナル菓子の開発といった企画だ。澤田さんは自信を込めてこう話す。
「津軽鉄道をご利用いただければ津軽の魅力を存分に堪能いただけますよ」
津軽鉄道の強みは、社員が鉄道を愛し、誰もがアイデアを出したり、意見を言える風通しの良い社風であること。そして、なによりも地元住民の足としても愛されていることだ。地元住民から愛されている鉄道会社は、その社風を生かし、ストーブ列車、風鈴列車などのヒット企画を生んだ。今回も北海道新幹線の乗降客を、津軽に呼び込むヒット企画をきっと生み出してくれるだろう。
※月刊石垣2016年2月号に掲載された記事です。
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