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テーマ別企業事例 〝地方創生〟で地域は変わるか?

政府の掲げる最重要政策の一つとして大きな期待を集めている「地方創生」。この実現に向けて、商工会議所や地域の中核企業が動き出している。少しずつ成果の出始めている地域もあるが、まだまだ課題を抱えている地域も多い。そこで、今号は「地方創生」の現状と課題をレポートする。

総論 地域の魅力を生かし自ら立ち上がる努力を

日本総合研究所 理事長/高橋 進 氏

高橋進 氏 日本総合研究所 理事長 1976年、一橋大学経済学部卒業。株式会社住友銀行を経て、株式会社日本総合研究所へ出向。2005年から2年間は、内閣府政策統括官を務め、政策立案等も担当した。2007年に、日本総合研究所へ復帰し、副理事長を経て2011年6月より現職

地方創生の一環として東京一極集中を是正し、地域の特性に即した地域課題の解決を目指す「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が各地域で動き出した。政府は総合戦略を策定した自治体に何を期待しているのか、どのような支援策を準備しているのか、地方創生のために企業は何をすべきなのか。内閣府の経済財政諮問会議議員で日本総合研究所理事長の高橋進さんに、日本商工会議所流通・地域振興部長の栗原博が聞いた。

頑張る地方を支援する

──政府が策定した「まち・ひと・しごと創生基本方針2015」ではローカル・アベノミクスという言葉が登場しました。政府が最重要テーマの一つとして取り組む地方創生の現状と、それに対する高橋さんの認識を聞かせてください。

高橋 安倍政権の三本の矢の一つ「成長戦略」は毎年改定されています。平成27年度の改定ではローカル・アベノミクスという大きな柱が立ちました。これはアベノミクスの成果が上がりつつある中で、その効果を地方にも振り分けていくこと、地方の自助自立を促し、頑張る地方を支援していくことが目的です。

日本経済が回復することにより地方が回復する、景気の回復を中央から地方に波及させていくということだけでなく、地方自ら立ち上がっていただくというところにポイントがある。地方の再生なくして日本経済の再生なしと考えています。

──地方の自立という政策は進捗(しんちょく)していますか。

高橋 地方創生担当大臣(石破茂大臣)を置き地方創生の深化のための新型交付金も創設した。頑張る地方自治体を支援する体制が整いつつあります。

──各自治体の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の策定が進んでいます。しかし中にはシンクタンクに策定を「丸投げ」しているところや計画の策定を疑問視しているところもあると聞きます。地方創生の取り組みが進まない自治体に対して、国はどのように支援していくのでしょうか。

高橋 国が一律に支援することはありません。コンサルタントの活用は総合戦略に磨きを掛けるという点では良いのですが、コンサルタントが総合戦略をつくるとどの地域でも同じ政策になりがちです。中央からでは「一般論では観光、農業、医療・介護が有望でしょう」ということくらいしか言えません。いかに地方自らが自地域の特性・魅力を生かして、自分たちの総合戦略をつくるかということが求められているのです。

例えば観光は即効性が期待できる有力な産業である上に、地域経済に対する波及効果が大きいという特徴があります。宿泊施設に泊まる観光客が増えれば、周辺の商店や飲食店にも人が訪れるようになるでしょう。ただインバウンド(外国人の訪日旅行)の8割が東京・大阪・名古屋のゴールデンルートに集中しています。外国人観光客を地方に誘致するためにはLCC(格安航空会社)の活用や交通網の整備、自治体の受け入れ体制の強化も必要ですが、それ以前に「行ってみたい」と思わせる魅力が不可欠です。

インバウンドは繁閑を埋めるチャンス

──インバウンドの中心は中国ですが、景気後退による観光客の減少への懸念もあります。

高橋 そうした声は確かにありますが、景気が減速することで欧米に向かっていた中国人観光客の足が近場の日本に向く可能性もある。2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けてインバウンド対策は重要課題ですが、一方で、その数倍規模の市場がある国内旅行者の取り込みも強化しなければなりません。十分ある観光需要に対して供給サイドが追いついていない印象です。

──観光業にはどのような問題点があるとお考えですか。

高橋 ホテルや旅館、その周辺の観光関連産業を他の産業と比較すると、ほとんど投資が行われていないのが現状です。生産性が低く、待遇面でも働く人にとって魅力ある職場といえるでしょうか。古びた施設をリニューアルするためだけの投資でなく、ICT(情報通信技術)投資を積極的に行って従業員の働き方を見直す。1年のうちの数日、例えば正月やゴールデンウィーク、祭りの期間だけで利益を得ることを考えず、年間を通じて利益が出せる体質に変えていく。日本の休日とは無関係なインバウンドは、繁閑を埋めるチャンスを与えてくれるはずです。とはいえ、観光業の中でも成功例が出てきています。そうした事例を研究して横展開していくことを考えるべきでしょう。

また、経済財政諮問会議で提言しているのは国が休日を定めるのではなく地域が独自の休日をつくって学校を休みにすること。例えば、3連休に地域の休みを連結させて4連休、5連休にする。企業もならって休日にしてもいいし、親が有給休暇を取得してもいい。地方で親と子どもが同時に休むということが非常に大事です。新たな休日を設定することで、地方のイベントの活性化や地域の観光開発、地元のお祭りの活性化などにつながるのではないでしょうか。

──これは22年ごろに議論になり、金融機関の決済の問題や「取り引き先が休まなければ休めない」といった指摘があった国が定めるブロック別の「休暇分散化」とは異なる視点ですね。

高橋 当時とは状況がだいぶ変わってきていて、金融機関は週末に決済できるところが増えてきています。決済はボトルネックにはならないかもしれない。(ハードルはまだまだ高いけれど)基礎自治体レベルで独自の休みをつくるのは面白いと思います。

地域で議論の場をつくる

──地方創生のキーワードとしては、どのようなものが考えられるでしょう。

高橋 「プラットフォーム」がキーワードになります。地域で地方創生を議論する場合、自治体、商工会議所のような経済団体と企業、教育機関、医療施設、そして住民自身の参加が不可欠です。こうした地域のステークホルダー(利害関係者)がいつでも議論できる仕組み、プラットフォームが必要だと思います。

国土交通省は医療・福祉・商業などの生活機能をまちの中心部に確保したコンパクトシティをつくり、地域公共交通と連携して、高齢者が安心して暮らせるようにする「コンパクト+ネットワーク」を提言しています。しかし「コンパクト+ネットワーク」自体が目的ではなく、まちや産業を再生して、地域を活性化させ、住民の生活の質を向上させることが目的です。その有効な議論を進めるためには「プラットフォーム」が必要なのです。

例えば、車の入っていける地域、病院の配置、商店、自動車販売店や大きな家具を売る店などの再配置。これは、ドイツの環境都市フライブルクが手本といわれ自治体の視察も多く行われていますが、まちの再生のために解決しなければならない課題は単独で存在するわけではありません。さまざまな分野に課題があり、そしてその全てが関係しています。そこで、さまざまなステークホルダーが参加しているプラットフォームが必要になるのです。プラットフォームの中で地域の特性に合った最良の策を考えるべきでしょう。

──インフラの老朽化も表面化しつつあります。まちの再生は喫緊の課題ですね。

高橋 自治体は気が付いているところも増えてきましたが、地方議会や住民自身は危機意識が薄いようです。例えば少子高齢化によって上下水道の需要は減少に向かいますが、老朽化が進行しており設備の更新時期が迫っています。単純に新しくして、そのコストを住民に転嫁すれば問題は解決するのでしょうか。

言い換えれば、今のままの体制で進めてよいのか、ということにもなります。政府はPPP/PFI、コンセッション(公共施設等運営権制度)を推進しようとしています。利用のハードルが高いといわれますが、プラットフォームで十分な議論が行われて民の力を活用するという方向性が明確であれば、自然にそれらのツールを使う方向へ向かうはずです。そして地元企業にとっても大きなビジネスのチャンスとなるでしょう。

──この場合のプラットフォームというのは、分野ごとにつくることを想定しているのでしょうか。観光分野では「観光地経営」の視点で観光地域を考える日本版DMOが注目を集めています。総合的なプラットフォームをつくるイメージでしょうか。

高橋 PPP/PFIを進めるために、国土交通省や総務省の共通の政策として地域プラットフォームづくりが今後、打ち出されていきます。このプラットフォームをPPP/PFIだけのために使うのはもったいない。プラットフォームの場でまちづくりを考えてもいいし、まちづくりを考えるからこそPPP/PFIの効果的な利用の知恵が出る。そしてまちづくりを考えるプラットフォームであれば地域の産業、お年寄りも含めた居住地域の再配置や商店街の再生まで構想が広がっていくでしょう。

地域の課題によっては別のきっかけでプラットフォームをつくることもあるでしょうが、私はまずつくることが大事だと思います。そして必要があれば分科会を設けてもいいし、親プラットフォームの下にまちづくりや健康に関するプラットフォームをぶら下げてもいいでしょう。

企業は生産性向上の努力を

──地方の企業は深刻な人手不足に見舞われています。ICT(情報通信技術)の活用によって効率化を進めたとしてもなお不足する場合の対策としてはどのようなことが考えられるのでしょうか。また、外国人労働者を多く受け入れている地域では地元の人との共生が課題としてあがっています。

高橋 政府は誰もが活躍できる「一億総活躍社会」の実現を目指しています。女性、非正規の若者、高齢者で働く意欲のある人に、希望の職種で働いてもらうことで1000万人規模の人手が確保できるはずで、それは消費の活性化にもつながります。介護離職を防ぐためには介護資格を持つ人に現場に戻ってもらう。それには処遇の改善が欠かせません。

それでも中長期的に人手が足りないため、外国人労働に頼ることになるでしょう。ただ最大の問題は国民の間に抵抗感が強いということです。再度しっかりとした議論が必要でしょう。教育の問題など共生のためのコストの扱いを国として考える時期にきています。

一方で企業には生産性を向上させる努力をしていただきたい。そして賃金を引き上げて地域の雇用を増やす。そうした具体的な努力をしている企業を、政府は支援する必要があります。

──商工会議所には今後、どのような役割が求められるのでしょうか。

高橋 商工会議所の役割を経済の側面だけで捉えず、地域の最も重要なステークホルダーの一人としてプラットフォームに参加し、まちづくりを自治体などと連携してリードしていくことが求められます。地方創生を成功させるために商工会議所の果たす役割は重要で、会員や住民の期待はますます高まっていくでしょう。

人口減少がさらに加速する中で、商工会議所は、自治体や住民と危機感を共有して地方創生に取り組んでほしいですね。今後は、財政健全化の要請の下で、国の地方に対する支援もこれまでのようにはいかなくなります。それぞれの地域で他地域の例も参考にしつつ、自らの特徴を生かすために知恵を絞る。そうした自助努力があって初めて、経済成長の果実を自らの地域に呼び込むことができます。商工会議所には、その先頭に立ってほしいと思っています。

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