事例4 将来への希望が変革のパワーとなる
花巻家守舎<やもりしゃ>(岩手県花巻市)
まちづくりの新たな形として、「リノベーションまちづくり」が今注目を集めている。その手法を取り入れて、地元花巻市を活性化する活動を精力的に展開しているのが、市内の若手経営者で構成する花巻家守舎(やもりしゃ)だ。
補助金に頼らず民間主導でまちづくり
「リノベーションまちづくり」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。これは一般社団法人公民連携事業機構が推進するまちづくりの手法で、遊休不動産など既存のものを活用して、まちを産業面から再生しようという「現代版家守」による取り組みだ。補助金などに頼らず、自立した民間まちづくり会社が新たな事業によって実現していくのが特徴だ。
現在、全国各地で家守勉強会が開催され、実際に会社を立ち上げて新たなまちづくりに乗り出している企業は40~50カ所に上るという。その一つが、花巻家守舎だ。
同社が設立されたのは平成27年4月。発端は、その前年11月に市役所が開催した家守勉強会だった。
「その最後に、『本気で家守をやりたいなら、来年2月に開催される北九州リノベーションブートキャンプ&スクールに参加した方がいい。やる気がある人は残って』と言われ、残ったのが花巻家守舎のメンバーでした。建設会社の役員で当時花巻商工会議所青年部会長を務めていた高橋潤吉さん、さまざまなイベントの企画・開催を手掛ける高橋久美子さんなど、年齢や本業も得意分野も異なる面々ですが、何より花巻をよくしたいという志と実行力は共通していると感じ、会社を立ち上げました」と同社代表であり、市内で110年の歴史を持つ小友木材店社長も務める小友(おとも)康広さんは経緯を説明する。
自社ビルをモデルに
同社がまず着目したのは、花巻駅前の半径200m圏内のエリアだ。駅には1日約4000人弱の乗降客がある。通行人も多く、近年新たにカフェや居酒屋が出店している。市内でも変化の兆しの見える場所だった。
「そのエリアには小友木材店所有の古いビルがありました。入居者がほとんどいないこのビルをモデルケースにしてはどうかと思いつきました。これを、まずリノベーション第1号にして、『こんなに変わるんだよ』ってことを地元の不動産オーナーや事業主に見てもらおうと考えました」と小友代表は説明する。
その際に掲げたコンセプトは、「チャレンジする大人が集まるまちをつくろう」というものだ。この場所で若い事業者が新しい商売を始めれば、今まで来なかった客層が集まり、交流が生まれる。それを見た若い世代に「ここなら自分もやりたいことをやって暮らしていける」という希望を持ってほしいと考えたのだ。
同社の高橋(潤)さんもこう補足する。「仮に、商店街全体など広いエリアをリノベーションしようとした場合、商店街の人、市民、市役所など各方面にお伺いを立てなければなりません。そうして全体の意向を聞くと、誰のために何の目的でやるのかがあいまいになってしまう。その点、小さなエリアなら具体的なコンセプトの下、少人数、低予算、短期間で進めることができる。しかも、その資金は、全て自己負担です。だから、民間らしい自由な発想でやることができるのです」
その言葉通り、小友ビルはみるみる姿を変え、昨年11月にグランドオープンを果たした。1階にはカフェバー、2階はヨガスタジオをメーンにした交流スペース、3階は同社オフィス、4階はシェアオフィスとして生まれ変わった。すでに若い世代を中心に多くのファンを獲得することに成功し地域の人気スポットとなっている。
同じ志を持つ〝家守〟を増やしていきたい
会社設立からわずか7カ月で大きな成果を上げた同社だが、全てが順調だったわけではない。大きなネックとなったのは、やはり〝法規制〟という壁だった。
「例えば当初、屋上をビアガーデンとして活用したいと考えていたんですが、不特定多数の人を上げるようにつくられていないからと、建築基準法の観点からダメ出しされたんです。また、ビル内部にある階段を使って、1階のカフェバーに直接出入りするのも、消防法を理由にNGと言われたり。私たちが法律に疎かったせいもありますが、さまざまな規制をクリアするために時間が掛かってしまいました。そのため、9月にオープンする予定が11月にずれ込んでしまったのです」(小友代表)
そんな反省を踏まえつつ、同社はすでに2件目のリノベーションに取り掛かっている。そこは2階建ての建物で、これまでと用途を変えずに使うため、4月にはオープンできる予定だという。花巻のまちに次々と小さな変化をもたらしている同社の目下の課題は、空き物件を持つ不動産オーナーと何か新しいことを始めたい事業主をもっと増やすことだ。物件があっても入りたい人がいなかったり、逆に入りたい人はいるが物件がなかったりでは、両者をマッチングする役割を十分に果たすことができないからだ。「そういう意味で、メンバーに本業があることが役立っています。それぞれが地元に横のネットワークを持っているからです。例えば、市役所の方がさまざまなデータの提供や分析をしてくれたり、商工会議所の伊藤専務が地元の商工業者を紹介してくれたりすることに助けられています。さらにこの取り組みは、特に若い人たちに訴求していきたいので、私たち商工会議所青年部のメンバーも大きな役割を果たせるのではと考えています」(高橋潤さん)
小さな変化が地域のあちこちに起これば、それはやがて大きな変革へとつながる。その過程で「志を同じくする家守を増やしたい」と小友さんは意気込む。次世代の家守候補にとって、将来への希望が変革のパワーとなる。若い経営者が主催する家守チームによるまちづくりは目に見える形で実績を積み上げ、新たな挑戦者が後に続く好循環を生み出していく。
会社データ
社名:株式会社花巻家守舎
住所:岩手県花巻市大通り1-4-14
電話:0198-23-5361
代表者:小友康広 代表取締役
従業員:なし
※月刊石垣2016年1月号に掲載された記事です。
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