事例2 自治の気風が欠かせない
近江八幡商工会議所(滋賀県近江八幡市)
滋賀県の中部に位置し、琵琶湖の東西交通を支える拠点の1つとして栄えてきた近江八幡市。平成22年に隣接する安土町と合併し、市域が広がったことなどを受けて、本格的なまちづくり事業をスタート。近江八幡商工会議所、市、滋賀県立大学、安土町商工会などが連携し、市民を巻き込んでさまざまな取り組みを展開している。
魅力的な地域資源を活用する機運が高まる
近江八幡市は、豊臣秀次が築いた城下町を礎に商業都市として発展し、近江商人発祥の地としても有名である。その風情の残るまち並みは国の重要伝統的建造物群保存地区に、西の湖周辺地域は「近江八幡の水郷」として重要文化的景観の全国第1号にそれぞれ選定されている。
「近江八幡のよさは、良い意味で近代化の影響を受けていないこと。そのおかげで自然や伝統・文化が多く残されている。今後もそれらを守り、生かしていくためにも、産官学民が連携して知恵を出し合っていこうという機運が生まれたんです」と近江八幡商工会議所の秋村田津夫会頭は、まちづくり事業がスタートした当時を振り返る。
その背景には、平成22年に安土町と同市が合併し、それまであった行政区画の境がなくなり、織田信長の安土城と豊臣秀次の八幡城が1つの市に存在するようになったことなどがある。そうした魅力的な地域資源を擁するアドバンテージを活用していこうということになり、23年に市、滋賀県立大学、安土町商工会、近江八幡商工会議所の4者が連携協力協定を締結、具体的な取り組みが動き出した。
市民に芽生え始めたこれまでと違う意識
まず着手したのは文化観光施設の指定管理事業と、国の無形文化財である「松明(たいまつ)まつり」の伝承事業だ。同市では八幡城築城を機に瓦の製造が地場産業として栄え、八幡瓦や鬼瓦、瓦人形など芸術性の高い製品を多数生み出している。その技術を広く伝える目的で、7年にオープンした「かわらミュージアム」は、まち並み巡りの主要スポットとして人気を博している。この施設の指定管理を、商工会議所内に設置した「まちづくり近江八幡」が市から受託した。
また、1000年以上の歴史を誇る「松明まつり」は、琵琶湖岸に生育するヨシや菜種でつくった大小さまざまな松明に火をつけるという雄大な祭りだ。その伝統ある祭りを市民とともに次世代に引き継ぐ取り組みをスタートさせたのだ。
こうした市民主体の流れを受けて25年に設立されたのが、官民共同出資によるまちづくり会社「まっせ」だ。同社では前述の2つの取り組みに加え、西の湖をテーマにした観光振興、空き町家の有効活用、産業振興や人材育成などを主事業として、地域活性化に向けた取り組みを展開している。
「私はかねてから市民がまちづくりに無関心なことに危機感を覚えていました。現在のような価値の転換期には、まずまちのアイデンティティーを再確認し、残すべきもの・変えるべきものを選択しながら方向付けをしていく。それを市民が主体となって実践していくという自治の気風が欠かせない。そのためにさまざまな取り組みを展開して市民を巻き込んできましたが、最近は市民意識が変わっていくのを感じています」(秋村会頭)
このような地道な活動を粘り強くコツコツと積み上げていた中で「まち・ひと・しごと創生法」の施行を受け、市と共働していち早く「まち・ひと・しごと創生市民会議」を創設する。そこに「人口減少・若者女性活躍」「創造的人材育成」「情報発信」「観光地域づくり」「ふるさとづくり」「移住・起業促進」「地域活性化と都市デザイン」という7つの部会を設置し、それぞれの課題解決に取り組んでいる。
例えば、人口減少・若者女性活躍部会では、若者や女性をひきつけ、活躍できる地域づくり。創造的人材育成部会では、市の未来につながる活動と地元教育機関と連携した「人づくり」を目指した「未来づくりキャンパス」の運営。移住・起業促進部会では、歴史的まち並みの継承と活用による移住の促進といった具合に、テーマごとに役割を明確にして課題解決に向けた具体策を検討している。各部会は、連携する大学の教授や専門家が座長を務め、総勢160人の市民が参加している。
学校とまちが連携し人材育成を目指す
近江八幡商工会議所の立岡功次専務理事は「この7つはバラバラに活動するのではなく、皆が円卓に着くような形で常に情報を共有しながら、必要に応じて補完し合ったり、協働で課題に当たったりしています。ポイントは市民が主体となって活動し、責任も負うこと。だから機動力が全然違います」と説明する。
今、特に期待を寄せているのは、この2月に開校する『未来づくりキャンパス』だという。これは6つの大学と連携し、大学とまちが一体となって、地域を活性化できる人材を育成していこうというものだ。そのネットワークが大きくなれば、地方創生から日本創生へとつながる大きな可能性が生まれる。「一連の取り組みは、これまでフォーラムなどを通じてたびたび説明してきましたが、これからはインターネット上でどんどん情報発信していきたい。新たに立ち上がった計画をネットに公開し、『そういうプランがあるなら私もやってみたい』という人が100人出てくれば、同じ目的を共有する100人のコミュニティーができます。そこから近江八幡をどうしていくかを考えたらいい。そういう力がたくさん集まれば、おのずとまちは元気になっていきます」と秋村さんは自信をのぞかせた。
※月刊石垣2016年1月号に掲載された記事です。
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