事例1 地域に根差し、ともに発展する
霧島酒造(宮崎県都城市)
「黒霧島」を代表とする芋焼酎を主に製造している霧島酒造。大正5(1916)年に焼酎メーカーとして宮崎県都城市で創業し、今年5月で創業100周年を迎える。現在も操業を続ける地元へのこだわり、そして会社として取り組んでいる地域への貢献について、同社代表取締役社長の江夏順行さんに話を伺った。
2つの革新的技術で増産体制を整備
霧島酒造は日本全国にある焼酎メーカーの売上高ランキングで3年連続トップに立っている。その秘密を江夏さんはこう説明する。「私どもは生産量・売上高ともに芋焼酎が99・9%を占めています。3年連続で焼酎の売上高で日本一になることができたのは、芋焼酎に対するお客さまのニーズがあったからこそ。そして、そのニーズに応えられる増産体制が取れたからでもあります」
平成15年ころから日本に〝本格焼酎ブーム〟が訪れた。焼酎を別の飲料で割るチューハイなどに飽き足らなくなった層が、本格的な味わいを持つ焼酎を求めるようになっていったのだ。
そのブームに合わせるように、霧島酒造では18年に志比田増設工場(生産能力4万石。1石=10升)が、23年には本社増設工場(生産能力4万石)が落成。着々と増産体制を整えていった。そしてこれ以外にも、増産を可能にした新たな技術が二つあった。その一つが冷凍甘藷(かんしょ)の技術だという。
「イモは貯蔵が難しく、12月を過ぎると傷んで仕込めなくなってしまいます。そのため、芋焼酎のメーカーは1年のうちイモが収穫できる100日間だけ製造し、あとは生産を止めたり、他の焼酎をつくったりしていました。そこで私どもは冷凍甘藷という技術を開発し、冷凍したイモを長期保存することで通年操業ができる仕組みをつくりました。これで、工場の稼働率は約3倍と飛躍的に高まりました」
そしてもう一つの技術が焼酎かすの処理方法だ。芋焼酎を製造した後に出る残渣(ざんさ)は処理しなければならない。当然生産量が増えれば焼酎かすの量も増えることになる。工場全体では毎日650tの焼酎かすが出るが、これをしっかりと処理しないと製造ができなくなってしまう。
「以前は畑に肥料として撒いたりしていましたが、宮崎県ではそれができなくなりました。そこで新たな処理方法を開発することにしたのです。そして、焼酎かすをバイオマス資源として活用するリサイクル事業に行き着いたのです。これにより工場内の蒸気ボイラー燃料として使用したり、バイオマス発電システムによって発電した電力を売電したりと、これまで廃棄物扱いだった焼酎かすが再生エネルギーという資源に姿を変えたのです」
雇用を生み、納税する
江夏さんは霧島酒造の三代目だ。先代から平成8年にバトンを受け継いだ。その際、江夏さんは企業の「新しい約束」として、「チャレンジ」「クオリティー」「ハートフル」「ローカリティー」という4つの新しい経営方針を打ち出している。「そのうちの一つである〝ローカリティー〟とは『地域に根差し、地域とともに発展する企業をつくります』ということ。地域への貢献・地域文化の継承と創造を目指していくこととしました」
これは、ただ売ってもうけて商売だけをしていくということではなく、この地で事業を継続していくことで地域に雇用を生み、行政に納税する。これらを通じて地域に貢献していく意識を持つということだ。江夏さんは経営方針という見える形で〝ローカリティー〟を打ち出したが、この考えは社内の隅々まで浸透している。
霧島酒造が創業の地である都城市での事業にこだわる大きな要素が二つある。それは、芋焼酎の原料となるサツマイモと水である。都城という地が育む代えの利かないイモと水こそが霧島酒造がつくる芋焼酎の生命線ともいえるからだ。「私どもが芋焼酎の原料にしている黄金千貫という品種の芋は、宮崎県と鹿児島の大隈半島の農家で生産されたものを使っています。これがなければ私どもはおいしい芋焼酎をつくることができない。農家の方々も、自分たちのイモでつくった焼酎が売れているということで誇りに思っていただいている。このようにお互いにウィン・ウィンの関係を築くようにすることが重要だと思っています」
それ以外にも、農家が生産したイモを霧島酒造が決まった価格・量で買い上げていくことで、農家は安定した収入を得ることができる。このため、安心していいイモづくりに励んでもらうことができるという好循環を生んでいると江夏さんは言う。
もう一つの重要な要素である水は、都城市の北西にある霧島山系から湧き出る地下水「霧島裂罅水(れっかすい)」を用いている。その水質は適度なミネラルと炭酸ガスを含み、焼酎づくりに大敵の鉄分をほとんど含まない。このため、霧島酒造の焼酎づくりには欠かせないものとなっている。「都城でしか得ることのできない、この二つがあってこその霧島酒造の焼酎なのです。他の地ではつくることができません。だからこそ、地域に根差し、地域とともに発展する企業にしていく必要があるのです」
地元自治体と協力したさまざまな取り組み
霧島酒造のある宮崎県は、全国の都道府県の中で沖縄に次いで2番目に出生率が高いが、それでもやはり少子化は、これからの地域にとって大きな問題だという。「働く場所が少なければ、ますます人口が減少してしまう。私どもはこの地で事業を継続していくことで雇用を生み出し、農業の担い手の維持にもお役に立っていきたいと考えています」と江夏さんは言う。さらに霧島酒造では、地元の自治体と協力し、さまざまな形で地域貢献活動も行っているという。
26年2月には、宮崎県とJA宮崎経済連、霧島酒造の三者で「県内産焼酎原料用加工用米の生産と利用の拡大に関する協定」を締結。県産加工用米を霧島酒造が引き受けることになった。
「加工用米は焼酎の一次仕込みの段階で米麹をつくるのに必要なもの。私どもが県産の加工用米を引き受けることで、お米をつくる農家の安定収入につながる間接的なご支援になると思っています」
地域行政との連携においては、都城市がふるさと納税の特典として、100万円以上を寄付した人に黒霧島の1升瓶を365本提供することが話題になった。それ以外に地元特産和牛の特典などもあり、都城市は27年4~9月の寄付額が13億3300万円と、自治体別の受取額ではトップとなった。
また都城市は、27年10月から羽田空港と都心を結ぶモノレールで市をPRする電車広告を開始。その広告内容も「あなたの知らない都城は、あなたの好きな黒霧島の故郷です」など、霧島酒造の代表銘柄である黒霧島を前面に出したものになっている。自治体が企業の商品名をPRに使うことは珍しいことだという。
「これは、市が霧島酒造を応援しているのではなく、都城市をアピールするために黒霧島との結びつきを強調したもの。このようにお互いが協力し合い、地域を盛り上げていこうとしていくものです」
そして27年11月には「地域経済の一層の活性化」と「市民サービスの向上」を図るため、都城市と包括連携協定を締結した。
「具体的に何をするかについてはまだ決まっていませんが、これにより〝地域に根差し、地域とともに発展する企業〟として、都城市と協力し合って、市民の方々とともに地域の活性化に努めていきたいと考えています」
一時の本格焼酎ブームが落ち着いた中でも、売上高を毎年伸ばし続けている霧島酒造。都城市、そして宮崎県が誇る全国的な企業として、これからも地域や住民とともにその歩みを進めていく。
会社データ
社名:霧島酒造株式会社
住所:宮崎県都城市下川東4-28-1
電話:0986-22-2323
代表者:江夏順行 代表取締役社長
従業員:約500人
※月刊石垣2016年1月号に掲載された記事です。
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