3月26日、北海道新幹線新青森・新函館北斗間が開業する。これで新青森・新函館北斗間は最速1時間1分、東京・新函館北斗間は最速4時間2分で結ばれることになる。新幹線開業を見据え、企業・人材交流をはじめ、さまざまな連携を推進してきた青森県側と函館市などの道南側。その熱い思いは、どのように結実するのか。
事例1 地域全体がレベルアップするチャンス
函館商工会議所(北海道函館市)
新幹線開業の経済効果を最大限に生かし、地域活性化につなげようと、函館市では早い段階から各団体がアクションを起こしてきた。その中心を担う官民連携組織「北海道新幹線新函館開業対策推進機構」の事務局として函館商工会議所が展開してきた取り組みを追う。
観光・産業・交通分野でアクションプランを策定
道南地域の中心都市として発展してきた函館市。国内外から年間500万人近い人が訪れ、市町村の魅力度ランキング調査では2年連続1位に輝いた日本有数の観光都市でもある。反面、近年では人口減少が著しく、産業振興や雇用創出が緊急課題となっている。
そんな同市にとって、整備計画から42年かかった北海道新幹線開業は待ちに待ったチャンスだ。その効果を最大限活用しようと、平成18年に市、観光協会、函館商工会議所、業界団体などは「北海道新幹線開業はこだて活性化協議会」を設立。20年にその活動指針となるアクションプランを策定した。同所新幹線函館開業対策室長兼地域振興課長の永澤大樹さんは「観光振興、産業振興、交通アクセスの3分野26項目の施策を掲げて、活動をスタートしました。中でも早くから行動を起こしたのが交通アクセスの改善です」と語る。
というのは、終着駅となる新函館北斗駅は隣の北斗市にあり、函館駅から18㎞も離れているためだ。新幹線駅から函館駅までのアクセスがスムーズか否かは、観光や産業振興を大きく左右する。
「函館駅とのアクセス向上は、30年来地元が取り組んできたものの、叶わなかった新幹線函館駅乗り入れ運動に端を発する最重要課題です。事業主体のJRに早期に要請する必要がありました」(永澤さん)
その結果、両駅を最短15分で結ぶ快速列車はこだてライナーの導入が決定。この他にも、接続道路の整備、バスやタクシーなどの利便性向上、周辺の見どころを紹介する観光路線バスの音声案内導入なども実現している。しかし、これだけでは充分ではない。民間事業者としては開業をチャンスと捉え、いかに利益につなげるかが重要だ。
メーンターゲットは北関東・東北からの観光客
そこで、観光分野では、市民への啓発や観光客誘致のPR活動、新商品やサービスの開発などに取り組んだ。特に、新幹線で直結する関東以北への観光PRを強化し、東北はもちろん、栃木県宇都宮市、埼玉県さいたま市などに出向いて積極的にプロモーションを展開した。「東北新幹線の役割は、いかに東京まで短時間で行けるかに主眼が置かれていました。しかし、北海道新幹線は、東北・北関東との連携強化が最重要。沿線の方々の関心が北にも向き、交流人口が大幅にアップすることを期待しています」(永澤さん)
また、急増しているインバウンドへの対応も着々と進む。かつては道内を周遊したり、札幌から函館の間を巡るケースが多かったが、今後は北海道・東北・首都圏を新幹線で巡るという新たなゴールデンルートを提案することもできる。永澤さんは「先行の開業地域から、開業効果を一過性のものにしないよう『すべきこと・してはいけないこと』を学びました。効果拡大のためには、市民一人ひとりが新幹線に関心を向け、自分事として地域の新たな魅力や名物を創造していこうという意識を持つことが欠かせません。そこで私たちでは、18年から『函館歴史文化観光検定』、24年から魅力創造ゼミナール『はこゼミ』を開催し、人材の育成に取り組んできました。また、観光客に少しでも財布のひもを緩めてもらえるように、受け入れ体制の充実を図っています」とおもてなし力向上に期待を込める。
〝身の丈〟を心掛け函館らしい成功を狙う
産業振興については、〝身の丈に合った取り組み〟を心掛けてきたという。国内新幹線終着駅の中で最も人口規模が小さく、上場企業本社もほとんどない経済基盤のため、他地域の投資成功事例を安易に参考にすることができないからだ。
そうした背景の下、推し進めてきたのが青森県とのいわゆる青・函連携である。例えば、23年にみちのく銀行の呼びかけで、弘前商工会議所と「津軽海峡クラスター会議」を設立。観光産業を核とした連携を強め、弘前発「松前・函館観桜」、函館発「津軽三味線鑑賞」といった相互送客ツアーの企画や、物産イベントへの相互出店などが行われている。
青森商工会議所とは、平成元年に結んだ「双子都市(ツインシティ)盟約」を機に良好な関係を築いてきたが、開業後を見据えてさらなる経済連携を図ろうと25年に「会員事業所パートナーシップ構築懇談会」を開催。函館と青森の企業コラボによる新商品開発や販路拡大などのビジネスマッチング事業を開始した。さらに、函館と青森県内各YEGとの交流も進んでいる。こうして経済界が先に動いたことで、行政も4市による『青函圏観光都市会議』という連携組織を構築。開業後はさらに事業連携が活発になると予想される。
永澤さんは「函館は、隣の都市圏と150㎞以上も離れた〝陸の孤島〟。他地域としのぎを削って商品やサービスの向上を図ったり、取引や販路の拡大に努めるといった意欲が低い傾向にあります」と分析する。観光にしても、その知名度や魅力の高さから「黙っていても注目してもらえる」との油断があり、当事者間の連携が不足していたと振り返る。しかし、今回の新幹線開業は、「地域の意識を変えるまたとないチャンス」と期待する。
「地域全体が他の地域に目を向け、レベルアップするチャンスです。今後、地元の事業者を巻き込んで意識向上に努め、いかに函館の活性化に結びつけるかが私たちの課題であり、役目だと思っています」と永澤さんは開業への期待とともに課題克服へも目を向けている。
函館〜道内の距離感を縮める
北海道商工会議所連合会
北海道新幹線の札幌延伸を見据え、北海道商工会議所連合会(道商連)が最重要課題と位置付けてきたのは、東北との交流人口増だ。これまで隣接地域ながら人の往来が少なく、ビジネスの相互依存度も低い現状を変えるべく、さまざまな活動を展開してきた。
そうした中で近年加速しているのが、企業のマッチングだ。「北海道・東北むすぶネット」を開設して情報発信したり、展示会や商談会などのイベント開催を通じて道内商工会議所の会員企業ニーズを掘り起こしてきた結果、北洋銀行と青森銀行との業務提携をはじめとする両地域の企業連携が実現。さまざまな商品やサービス、販路の拡大が進展した。また観光面では東北や関東各地に赴き、〝北海道は電車で行けるところ〟であるとPR。昨年からは、函館に来たら道内でもう1カ所足を延ばそうと呼び掛ける「函館プラス1」キャンペーンを展開している。
同連合会は「北海道に新幹線という交通手段が加わった意義は大きい。2030年度末予定の札幌延伸までに、いかに函館~道内の距離感を縮め、観光、ビジネス、生活全般で行き来を増やせるかが次の課題」と意欲を燃やしている。
※月刊石垣2016年2月号に掲載された記事です。
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