100年経営に極意あり!長寿企業の秘密 伝統の技を大切にしながら時代に合わせて進化する

常盤木羊羹店 總本店

静岡県熱海市

目新しい風貌で注目を浴びる四代目

熱海を訪れた観光客から記念撮影を頼まれる。カメラに向けるりりしい視線と爽やかな笑顔は、まるでアイドルか俳優のよう。

「お客さまに喜んでいただけて、店の名前がもっと広まるのであれば、撮影は大歓迎ですよ」と語るのは、常盤木羊羹店總本店四代目鶴吉の前澤龍也さん。テレビ番組などで「熱海のイケメン羊羹屋」として紹介されたこともある人気者だ。その素顔は、専務取締役として、姉の綾乃さんとともに店を取り仕切る若き経営者であり、伝統の味に真摯に向き合う和菓子職人である。

常盤木羊羹店總本店の創業は、大正初期。和菓子職人を志した初代・鶴吉は、10代のころに小銭を握りしめて小田原の家を出て、熱海の菓子店で丁稚奉公を始める。3つの老舗で修業を積み、「常盤木羊羹總本店」を開いた。

「当時は羊羹が最も高級なお菓子とされていました。店名は、〝永く続く〟という意味を持つ植物の『常盤木』から付けたと聞いています」と龍也さん。だが、昭和17年に熱海市中心部で大規模な火災が発生し、店も全焼した。

京都から宮大工を招き、木造2階建ての情緒ある数寄屋造りの店舗で再出発した同店は、その後、新工場を建設し、熱海駅前と熱海銀座通りに支店を開店。さらには、毎年熱海梅園で行われる梅まつりの期間中に梅園支店を設けるなど販路の拡大に努め、現在は他業種を含めた7店舗を構えている。

昨年9月には、「店内で販売しているお菓子をここで食べたい」というお客の要望に応えるため、現社長の龍次さんが念願だった店舗の拡張を実現した。和モダンなカフェ「茶房 陣」を開店し、人気を集めている。

店を継ぐために厳しい修業を重ねる

龍也さんが四代目鶴吉を襲名して店を継いだのは3年前、27歳のときだ。

「学生のころは、店を継ぐことよりも、『有名になりたい』『知名度のある人になりたい』と、ずっと考えていましたね」

中学・高校時代には、有名芸能事務所やモデル事務所に所属。神奈川大学入学後はスポーツサークルの立ち上げや1カ月間のカナダ留学、社会勉強のためのホスト経験など、アクティブな学生生活を送った。

「いろいろ経験するうちに、代々受け継がれてきた店を舞台に有名になる方法もあるのでは、と思いはじめました。また、店を後世に残したいという気持ちも芽生えたんです」

卒業後、龍也さんは和菓子職人になることを決意。修業の道を選んだ。

「自分で菓子屋を訪ね歩いて、弟子入りをお願いして回りました。和菓子職人の求人情報はほとんどなく、こうするしか方法がなかったんです」

こうして、東京・浜松町にある老舗に雇ってもらえることになり、厳しい修業がスタートした。

「最初のころは精神的に追い詰められました。でも和菓子づくりだけでなく、お客さまへの手紙の書き方をはじめ、店の運営に関わる基礎を学べた密度の高い時間でしたね」

その後も、初代鶴吉の人生をなぞるように小田原の老舗で餡づくりを徹底的に教わり、さらに東京の有名和菓子店で工場修業を積む。そして24歳のときに、実家の常盤木羊羹店に入社した。

「そんなとき、祖父が体調を崩し、總本店を一時休業することになったんです。その間、自分でカフェバーを開店すると同時に、總本店内の改装や新商品の開発など、再開に向けて準備を整えました」

間もなくして営業が再び始まると、龍也さんが経営を任されることになった。羊羹の名店として地域の人々にも親しまれてきた常盤木羊羹店總本店は、格式高い伊豆山神社の御用達となる。

最高の材料で〝うまい〟ものをつくる

創業時から伝わる店のモットーは「とにかくうまいものをつくる」。手づくりを徹底し、使う材料も龍也さんと綾乃さんが全国各地から探してくる。

「例えば羊羹の命である寒天は、厳選した岐阜産の糸寒天。コシ、なめらかさ、口当たり全てが最高です。今一番おいしいと言われる味を追求します。二番では意味がないのです」と強調する龍也さんは、伝統ある羊羹の味を進化させる一方で、新商品の開発にも積極的に取り組んでいる。

「和菓子になじみが薄い若い世代にも味わってもらい、お客さまの間口を広げるのが目的です」

これらの商品は、新たな客層を開拓するだけでなく、味や品質も高く評価されている。熱海産だいだいを100%使用した「鶴吉羊羹(橙)」は、平成24年に熱海商工会議所の「熱海ブランド」に認定され、昨年はモンドセレクション銀賞を受賞した。また、味のみを評価対象とするiTQi(国際味覚審査機構)優秀味覚賞二つ星を獲得。羊羹では世界初となった。11月には、静岡県を代表する羊羹として、ふじのくに新商品セレクションの金賞にも輝いている。「〝和菓子屋〟ではなく〝羊羹屋〟として定着してきました」と龍也さんは効果を感じている。

包装紙や商品パッケージなども工夫。学生時代からの盟友でデザイナーのSAYAKA(栗島さやか)さんに依頼し、若者にも親しんでもらえるものにしている。

「若い人に和菓子職人をカッコいいと思ってもらえるような、華やかさを取り入れていきたいんです。いいものをつくっても、知ってもらわないと意味がありません。そのために、自分が広告塔となって、一貫したスタイルを発信し、四代目として羊羹の魅力をより広めていきたいですね」

伝統の技を守りながら、若い感性と情熱によって時代の流れに合わせて進化している常盤木羊羹店。これからも地域に親しまれ、さらには日本を代表する羊羹屋として、人々を魅了していくことだろう。

プロフィール

社名:有限会社 常盤木羊羹店

所在地:静岡県熱海市銀座町9-1

電話:0557-81-4421

代表者:前澤龍次 代表取締役社長(三代目)

創業:大正初期

従業員:11人

※月刊石垣2014年1月号に掲載された記事です。

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