事例2 廃ペットボトルを再生繊維に生まれ変わらせる
髙木化学研究所(愛知県岡崎市)
髙木化学研究所は、金属加工、樹脂成型加工、合成繊維製造の3分野を手掛ける研究開発型企業だ。創業時から一貫してリサイクルをテーマに掲げ、日本にまだペットボトルが普及していなかったころから、その再活用に着目。いち早く製品化を果たすとともに、周辺自治体と地域一体のリサイクルシステムをつくりあげた。
いち早くリサイクルの持つ可能性に着目
近年、リサイクル事業は各方面から関心を集めている。しかし、昭和20年代にその可能性に注目していた人はどれだけいるだろうか? 髙木化学研究所は創業した昭和24年当初からその可能性に注目し、技術開発に注力してきた。最初に目を付けたのは、ゴミとして捨てられていたビニール。進駐軍の履いていた靴をヒントに「ケミカルシューズ」を製造販売した。以降、ナイロン屑を使った樹脂と金属の複合材、繊維屑を再生したポリエステル綿、レントゲンフィルムからつくったクッション性のある合成繊維など、次々とリサイクル製品を生み出してきた。
そんな同社がペットボトルに着目したのは、国内で普及する前の昭和54年のことだ。同社社長の高木啓至さんはこう振り返る。
「アメリカでは清涼飲料の容器としてすでに普及していました。まだ日本にはペットボトルがなく瓶や缶が主流でしたが、近い将来ペットボトルに取って代わるのは目に見えていました。そうなればゴミ問題は避けて通れませんし、ビジネスとしての可能性もある。今のうちにリサイクルする方法を見つけておくべきと考えたんです」
そこで翌年、アメリカの展示会に出展した際にコカ・コーラ社を訪れ、研究のためにペットボトルを譲ってほしいと申し出る。趣旨に賛同を得てスクラップを2t分日本に送ってもらい、さまざまな検証実験を行った。その結果、不都合な点が次々と明らかになる。当時のペットボトルは現在のものと違い、紙製ラベルが直接ボトルに貼ってあったり、底部に樹脂カバーが付いていたり、色ボトルがあったりと、さまざまな素材が混在していた。このため、そのままではうまくリサイクル処理ができなかったのだ。
バージン品に負けない付加価値をつけて製品化
昭和57年、国内で飲料用にペットボトルの使用が認められた。そのころから、同社はそのリサイクル技術の開発に本腰を入れていく。ペットボトル本体の原料であるポリエチレンテレフタレート(PET)は、ポリエステルの一種で熱に強く、耐久性にも優れていることから、再生繊維として製品化を模索。開発の過程を同社工場長の高木紀彰さんはこう説明する。
「当社ではそれまでにさまざまな廃材から製品を開発してきたので、技術的には特に苦労しませんでした。ただ、リサイクル品はどうしてもバージン品よりワンランク下に見られがちです。そこで付加価値を高めようと、原料着色することにしたんです」
繊維は加工したあとで染色するのが基本だ。その点、原料の段階で着色すると少々コストは高くなるが、その分色褪(あ)せしにくく、製品寿命が長くなるというメリットがある。こうして誕生した色とりどりの再生繊維は、主に衣料品として活用された。
「取引のあった毛織物メーカーにどんな色が一番欲しいかとたずねたら、『黒』と即答されました。実はバージン品では黒く染色するのが最もコストが掛かり高いんですよ。それで炭を使って黒い再生繊維をつくり、ほかの色よりかなり高めの値を付けたにもかかわらず『安い!』と驚かれて、飛ぶように売れました」(紀彰さん)
ほかにも、耐熱性の高さからこたつ布団などにも使われて好評を得たが、衣料も寝具も秋冬がピークで、需要の季節変動が激しい。そこで1年を通じてニーズのあるものとして、自動車用内装材に着目する。10年たっても色褪せないという特性を売りに自動車部品メーカーに営業をかけると、早速フロアマットに採用されるなど大きな反響があった。その後さらに改良を重ね、燃えにくい加工を施した着色難燃繊維を開発すると、自動車のほかの部分にも採用されるようになった。
地産地消のリサイクルシステムを確立
このように開発品の需要が順調に伸びる一方、肝心のペットボトルがなかなか集まらないことが長年のネックだった。だが、平成9年に容器包装リサイクル法(容リ法)が施行されたことで回収が一気に進み、原料の調達は容易になったものの、容リ法ではラベルをはがさずに捨ててもよいとされていたため、新たな問題が持ち上がる。
「リサイクル品の場合、異物が5%混入するだけで、残りの95%が全滅するリスクがあるんです。状態の均一なものを安定的に確保するために、当社がリサイクル業者となって、自らペットボトルを回収する手もあったし、日本容器包装リサイクル協会から買う方法もありました。でも、法律で集めたものは、法律が変わったら集まらなくなるおそれがある。そこで独自の仕組みをつくることにしたんです」(紀彰さん)
同社は地元の岡崎市や周辺の自治体を回り、キャップを外し、ラベルをはがして、中をきれいに洗った状態で回収してもらえるように協力を仰いだ。自治体から集まる量だけでは十分とはいえないが、地元から安定的に調達することを重視したのだ。そうしてきれいな状態で回収されたペットボトルを使って再生繊維をつくり、それを地域の繊維加工メーカーに販売するという〝地産地消〟のリサイクルシステムを確立。この取り組みは愛知環境賞銅賞を受賞し、一つのモデルケースとなった。啓至さんはこう力を込める。
「今では電子機器や航空機部品なども生産していますが、当社の原点はリサイクルです。日本は資源の乏しい国ですから、資源の再利用は持続可能な社会の実現に不可欠。今後も『この廃棄物はどんなものに活用できるか』の視点で用途開発に力を入れ、新たなニーズを開拓できる会社でありたいと思っています」
会社データ
社名:株式会社髙木化学研究所
住所:愛知県岡崎市大幡町堀田21-1
電話:0564-48-3016
代表者:高木啓至 代表取締役社長
従業員:128人
※月刊石垣2016年4月号に掲載された記事です。
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