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コラム石垣 2017年1月21日号 宇津井輝史

企業は人々が求めるものを提供する。企業の社会的価値はそこにある。人々はまた、いまはまだ存在しない製品やサービスに対して潜在的な欲求を持つ。企業はそれを先取りせねばならない。だから常に消費者の欲求を分析し、次々と人が欲しがる新しい製品やサービスを市場に送り出す。これも企業の重要な社会的価値だ。さらに企業は、人々が考え及ばないような製品やサービスをイノベーションによって産み出し、人々の欲求そのものを創り出す。他社の追随を許さなければ大きな利益が得られる。この需要と供給の好循環が全体として経済を浮揚し、快適で豊かな生活を実現してきた。

▼だが人々の欲求には際限がない。企業は少しでも市場で優位に立ちたいから、それに耳を傾ける。場合によっては、人々が求めていなくても、そうすることで他社と差別化できるなら、積極的に人々に提案する。市場メカニズムだから、それ自体を否定するつもりはない。

▼だが先日、ある宅配業の従業員が客の荷物を粗雑に扱う姿がネット上に拡散し批判が集中した。その行為は非難されてしかるべきだが、再配達を何度試みても不在が続いたりすれば腹も立とう。あれを持ってこい、これを届けろと、消費者の際限なき要求に企業はぎりぎり応えようとする。再配達が無料なのは日本だけと聞く。いま、こういうことがこの国の企業社会の随所で起こっているのではあるまいか。

▼その結果、企業はコストと労働時間が増え、社員の確保も難しくなる。一方で価格は上げにくい。頑固なデフレ要因にもなる。そこにニーズがあれば応えるのが企業の使命だが、私たちは、そろそろ野放図な欲求を制御する社会を模索するときではないかと愚考する。

(文章ラボ主宰・宇津井輝史)

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