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コラム石垣 2017年1月1日号 コラム「石垣」執筆者に聞く 2017年 日本の道しるべ

コラム「石垣」執筆者に聞く

トランプ次期米大統領の誕生など激動の1年だった2016年。本稿では、本紙コラム「石垣」執筆者に2017年の日本そして世界の行方について聞いた。

資本主義の歪みを是正

宇津井 輝史 文章ラボ 主宰

資本主義は、経済を運営する上でいまのところ一番ましな制度である。人間の欲望を市場と貨幣を通じて開放するから、人に最も馴染む。社会主義が失敗したのも、人間をあまりに高く評価し過ぎたためだ。欲望に突き動かされねば人は働かなかったし、結果の平等を追求し過ぎてかえって不平等を招いたのは記憶に新しい。だが、今年は資本主義の歪みを是正するために、グローバルな規模で再設計する最初の年になるかもしれない。 問題は富の偏在と、貧富の格差がかつてなく広がってしまったことだ。それがトランプ大統領を生み、英国のEU離脱を招き、欧州の反移民・保護主義政党の台頭をもたらした。欧米各国はしばらく国民の分断に苦しむが、国家と市場が対立せず、グローバル経済の恩恵を享受しつつ、国家に経済活動の暴走を制御する余地をどれだけ持たせるか。世界は、困難を乗り超えて制度再設計に着手すべきだろう。 注目すべき国はむろん新大統領が登場する米国だが、もうひとつはイランである。TPP離脱で米国のアジア関与の後退が懸念されるが、自由貿易の最大の享受国は米国だから保護主義は続くまい。必ず太平洋地域を包摂する自由貿易の枠組みは復活する。それがユーラシアと対峙する海洋国米国の戦略に合致するからだ。 イランは原油価格の主導権を持つだけでなく、シリアとイラクの戦後処理に大きな発言権を持つ。中東の安定は難しい方程式だが、イスラムの欧米への挑戦を終わらせるのも右の制度設計次第だろう。 財政出動で米国の雇用は一時回復するが、財政赤字がドル高を招く。円安基調が続こうが、日本はデフレ脱却の好機でもある。特にAI(人工知能)投資が実を結ぶ年にしたい。

科学技術と人間の融和

神田 玲子 公益財団法人NIRA総合研究開発機構 理事

「ペン」と「アップル」が足されて「アップルペン」。いとも簡単に統合されていくのはPPAPの世界。現実はそう簡単ではない。 英国とEU、トランプ支持層と反対者、そして自民党と民進党。今後の両者の対話が当事者のみならず、国の姿を決める。しかし、両者が合意に到達するのは極めて困難だ。お互いが狭隘(きょうあい)な考えにとらわれては、極端な主張につながる可能性すらある。1929年の大恐慌の後、有効な手段も打てずに、国民の不安があおられ、ファシズム政権へとつながった。不幸な過去を繰り返さないためにも、イデオロギーを超えた対話が必要だ。 現在の意見の対立の背景には、テクノロジーが引き起こす急激な社会変化がある。技術は働く人に求められる能力を変えるが、それを体得することは容易なことではない。情報革命によって社会は便利になるが、他方で、個人の心は不安や不満を抱えているという矛盾した現象が起きている。 振り返ってみても、技術革新によって生じた所得格差の拡大が社会問題となって久しいが、所得を平等にするためのルール設定はいまだ実現していない。また、企業の利潤と経営者層の報酬をリンクさせる米国型の資本主義への批判があるものの、それに代わる方策を見いだせていない。世界的に拡大する所得格差を是正するには、市場や社会のルールについての合意が必要だ。 それは市場の競争や自由を否定することではない。他方、市場に決定を委ねることでもない。競争の先に到達すべき社会の将来像を人々が共有し、そのための道筋を再考することだ。今年は、科学技術と人間が融和するルール合意に向けた、既存の政党の再編成の動きが生まれるだろう。

「ホモ・タビエンス」になれるか

丁野 朗 公益社団法人日本観光振興協会 総合調査研究所長

多摩大学の望月照彦教授は、旅することを人間の「運命」であるとして、「ホモ・タビエンス」と名づけた。 日本人は旅を含めて遊び下手とされる俗説があるが、それは近代、とりわけ戦後日本人に限った一時的な現象と考えている。 平安時代末期から鎌倉初期にかけて描かれた「鳥獣戯画」には、擬人化された70匹近い動物たちが遊ぶ様子が描かれている。ここには日本人のおおらかな遊びが表現されている。まだ農耕社会が色濃かった戦前、秋の刈り取りを終えた農民たちは「湯七日・湯十日」といわれる長い湯治を楽しんでいた。まさに「ホモ・タビエンス」であった。 翻って、近年の日本人は、年間を通じて2日程度の宿泊しかせず、年間旅行の回数も1・3回(いずれも観光庁2014年調査)と低迷している。海外旅行は米国の同時多発テロ(2001年)以降、漸減傾向が続いている。 片や訪日外国人客は、すでに2000万人を突破、まだまだ増加を続けている。平均泊日数はフランスの14・4泊を筆頭に10日以上の国々が多い。 2016年3月に政府が取りまとめた「明日の日本を支える観光ビジョン」では、2020年の訪日外国人客4000万人目標が示された。その消費額約8兆円は日本国内の観光総消費額29兆円の3割に近い。 年次有給休暇の取得率は依然50%に届かず、連続休暇の習慣も定着しない日本。そんな「休暇貧国」に海外から大勢のお客さまが押し掛ける姿には違和感も覚える。 日本が本当に「観光立国」を目指すのなら、日本人自身が「ホモ・タビエンス」になることが不可欠であろう。

効率的な働き方を促す経営

中村 恒夫 時事通信社 取締役

いわゆるマタハラの防止措置が今月から企業に義務付けられた。個々の企業にとって、少子化に伴う個人消費の低迷が懸念材であることは確かだ。にもかかわらず、従業員の妊娠・出産が職場の戦力を低下させると嫌がらせをする行為は到底理解できない。育児休業期間の延長をめぐる議論も、出産・子育てを、家庭の問題として片付けず、企業を含む社会全体で担う責務だと考えれば整理しやすいのではないだろうか。 一方で、本人の希望で出産直前まで働き、すぐに職場復帰する女性も少なくない。社会人としてのキャリアが途切れるのを恐れる人もいるだろうし、そもそも仕事が好きな人もいる。共通しているのは、従来よりも効率的に働きたいと望んでいる点だ。 東京・銀座のkay me社は職場で楽に着られるジャージーワンピースを販売、売上高を伸ばしている。毛見純子社長は、自身の経験から洋服選びに女性がかける時間の長さや堅苦しいスーツの不自由さを踏まえて商品化に踏み切った。夕方には率先して退社する毛見社長も昨年秋、長期間英国に滞在して、日本では打ち合わせや会議に無駄に時間を費やしていると痛感したという。 ITは本来、生産性向上をもたらすと期待されていた。実際には、目を通す人が多くない業務日誌や会議の議事録を、詳細にしかも即日で提出するよう指示され、実質的な労働時間延長につながっている。 一定の休憩時間や休暇が労働意欲を高めるのは間違いない。そうした時間を確保するためにも、効率的な働き方を促す経営が一層求められる。育児中の女性に時短勤務を認めるだけでなく、勤務時間削減に向けて、産業界全体で取り組んでいく姿勢が問われているといえよう。

為政者は怒りに向き合うべき

中山 文麿 政治経済社会研究所 代表

ドナルド・トランプ米次期大統領は自分に投票してくれた白人労働者のための政策を進めるであろう。それは反グローバル化政策であり、環太平洋経済連携協定(TPP)も反故にされる。北米自由貿易協定(NAFTA)も見直され2国間の貿易交渉がスタートする。 トランプ氏はロシアと共にシリアやイラクのイスラム国(IS)勢力を排除し、シリアのIS首都のラッカも回復される。そうなると、アサド政権は存続することになり、反政府勢力は苦境に陥る。世界中からISに加わっていた戦闘員は、例えば、ドイツでいえば8000人ほどISの戦闘員として参加していたドイツ人が自国に戻る。全世界で出身国に戻った一匹狼のテロ活動が懸念される。 フランスとドイツは今年大統領選挙と連邦議会選挙が行われる。決選投票に持ち込まれた仏大統領選挙では保守党のフィヨン氏が勝利を収めるであろう。昨年中東などからの移民や難民受け入れに寛大であった独メルケル首相はその政策を多少軌道修正して勝利を収めるであろう。 南シナ海や東シナ海に海洋進出を目指す中国は鄧小平の遺訓である韜光養晦(とうこうようかい)を守ってアメリカと充分に戦えるまでは軍事面では自重するだろう。しかし、トランプ大統領の外交政策を試す不穏な動きをする可能性は残っている。 いずれにしろ、行き過ぎたグローバル化と所得の再分配が適切になされないと既存の政治家や国家システムに対する不信をあおったポピュリズム(大衆迎合主義)が沸き上がる。為政者は行き過ぎた難民流入で不安や不満を感じているヨーロッパの人たちや貧富の大幅な格差に怒りを抱いている世界の人たちに真剣に向き合ってもらいたい。

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文章ラボ主宰・宇津井輝史

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神田玲子・NIRA総研理事

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