事例2 地域の伝統産業とのコラボで自社ブランド製品を生み出す
革工房コバヤシ(栃木県栃木市)
革工房コバヤシは、栃木県栃木市で革製品の製造・販売を行っている。従業員は家族とアルバイトの4人という小規模企業だが、下請けに留まることなく、自社ブランドを創設して市場に果敢に打って出ている。アイデアを実行に移す決断力と、販路を開拓していく苦労はどのようなものなのか。
さらに上を目指すため自社ブランドを立ち上げる
革工房コバヤシは創業63年、二代目社長の小林勉さんが家業を受け継いだのは、今から23年前のことだった。今では腕のいい職人として、誰もが知る有名ブランドの数々とOEM契約を結び、その下請けとして数多くの革製品を製造してきた。その高い技術が認められ、ファッション雑誌の特集では「職人が丁寧に仕上げた高い縫製技術」で縫製部門第1位に選ばれたこともある。
「技術は仕事をしながら磨いてきました。年間1万個以上つくっているので、これまでに20万個を超える製品をつくってきたことになります。ものづくりというのは経験が重要なので、その経験と製造ノウハウが評価されたのだと思います。父の代では東京にあるOEM企業1社の専属の下請けとしてやっていましたが、それだけでは収入が不安定なので、ほかの企業からも受注するようにしていきました」と小林さんは言う。
それにより業績は伸ばしてきたものの、下請けの小規模企業のままでは先が見えており、収入も上がらない。そのため、小林さんは自らの技術を生かした自社ブランドを立ち上げないと生き残っていけないと感じていたという。
「職人というのは夫婦2人で細々とつくっていく昔ながらのスタイルがほとんどで、長時間労働しないとなかなか食べていけません。父と同じことをしても収益は上がらないので、まずは内職さんを雇って製品のパーツをつくってもらい、それを私が組み上げていくスタイルにしました。それにより効率が上がって収入増につながりましたが、さらに上を目指すために自社ブランドを展開することにしたのです。いつまでも家内制手工業のままでは、後を継ぐ人もなく、技術が衰退してしまいますから」
オリジナル製品のヒントは地域の特産品
そこからは、自社ブランドを立ち上げるためには何をつくったらよいのかを考える日々が続いた。
「例えば単なる革製品のお財布では、当たり前すぎて独自のブランドにするのは難しい。なにか栃木県らしい製品をつくれないかと考えたときに思い付いたのが、サメの皮でした。栃木市は皮革を鞣す業者が多く、その中でサメの皮を鞣す工場があったのです」
実は栃木県はサメ肉の一大消費地である。体内にアンモニアが含まれ腐りにくいサメ肉は、冷凍技術のなかった時代に内陸部では貴重なタンパク源で、栃木県では今でもよく食べられているという。
「サメの皮はその丈夫さから昔は武士の鎧(よろい)や刀の柄(つか)の滑り止めにも使われており、〝身を守る〟〝物事にすべらない〟として、お守り代わりに身に付けられていたそうです。そこで、サメの革を使ったオリジナル製品をつくったら面白いのではないかと思いついたのです」
そして平成25年、サメ革製品専門ブランド『NEBUZAK』を創設。地元の商工会議所からのアドバイスを受けて申請した、中小企業庁の「地域需要創造型等起業・創業促進事業」による補助金を得て、会社を法人組織に変えた。
『NEBUZAK』という名前は小林さんの造語で、「物を入れるイメージで寝袋とザックを組み合わせました。造語にしたのは、ネット検索したときに、検索結果で上に表示されるから」だという。
サメの皮はワサビおろしにも使われ、表面がヤスリのようにザラザラしている。これを酸で処理して鞣すことで滑らかな肌触りになり、シボと呼ばれる天然の凹凸がある皮革ならではの独特の風合いになる。
「〝すべらない〟というサメ革の特徴と映画のジョーズとをひっかけ、学生用のペンケースには『お受験じょーず』という名前をつけるなど、縁起担ぎのお守りとして製品を開発してきました」
国のプロジェクトを利用して販路の拡大を目指す
自社ブランドを立ち上げてから間もない平成26年1月に、そのことが地元の新聞で取り上げられると、すぐさま反響があった。
「栃木県の担当者から電話があり、県の伝統工芸品である結城紬(つむぎ)の染色の職人さんとコラボしないかと。それからはトントン拍子で話が進み、サメ革と結城紬を組み合わせた製品が、3カ月後の4月には『NEBUZAK』の新商品となりました」
これは、小山市にある結城紬の染色業者が、サメ革製品の記事を読んで県を通じて連絡してきたものだったという。
「実は私も、結城紬が平成22年にユネスコの無形文化遺産に登録されたとき、この力を借りて栃木県の特産品として何か製品をつくることができないかと考えたことがあるんです。正直なところ、サメ革だけでは商品としてインパクトが弱いなと感じていたところもあり、うれしいご提案でした」
こうして、結城紬とサメ革のコラボにより、小銭入れや名刺入れ、財布など12種類の新製品が誕生。栃木県の「伝統工芸品産業異業種コラボレーション事業」の補助対象にも選ばれた。
「商品はできましたが、難しいのは販路の開拓です。私は職人でそういった経験がなく、仕事もあるので時間がありません。そんななか、中小企業庁による『グッド・ビジネス・ニッポン』(※)の中にある『Samurai Styleサムライグッズ販売プロジェクト』を知りました。ここでは国内外で販売する侍グッズを開発、提供できる企業を募集。サメ革は武士の鎧(よろい)に、結城紬は武士の普段着である着物に使われていることから〝サムライ財布〟として応募したところ、幸いにも選ばれました。今はそこでの販売準備を進めているところです。これがうまくいけば、国内外での知名度が上がり、販路も広がっていくのではないかと期待しています」
従業員4人の小さな会社が世界に向けてオリジナル商品を売り出していく。アイデアと実行力があれば、地方にある小規模企業でも突破口を見つけられる好例といえるだろう。
※大企業と中小企業・小規模事業者がパートナーとして連携し、地域や社会にとって新しい価値を生み出すためのプロジェクト
会社データ
社名:株式会社革工房コバヤシ
住所:栃木県栃木市大平町牛久459-1
電話:0282-22-4765
代表者:小林勉 代表取締役
従業員:4人
※月刊石垣2016年7月号に掲載された記事です。
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